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L’Entrepôt(オントル・ポ)。資材もアイディアも、独占しない仕組みが芸術の都を作る。

※この投稿はひとつ前のnoteの続きになります。

6月6・7日のパリ公演、そしてアヴィニヨン演劇祭OFF2024の公演から、初の物販に挑戦しようとしています(アクスタじゃないよ!)。
ただのグッズ販売ではなく、私がこれまで経験してきた、舞台美術資材のリサイクルという考え方を生かした小さな草の根プロジェクトです。ちょっと話が続きます。


以前、日本から大きな助成金を得て来た、ある2つの団体のパリ公演を手伝う機会がありました。数回の公演後、1000万円以上はするであろう美術資材が全て廃棄されるのを目の当たりにして、違和感というか、「これを少しでも再利用したい団体はいっぱいあるし、採算が取れちゃえば捨ててもいいっていう考えも乱暴だな」って思ったんです。
環境、労力、時間、お金の問題も含めて、再利用の可能性があるものは無駄にしたくない。もう嫌というほど、舞台に関するものを使い捨てる現場を見すぎてしまった。

当時、この話をアーティストの仲間にしたところ、「『美術の貯蔵庫』は知ってる?」と問いかけられました。それがここです。

« LA RESERVE DES ARTS - L’Entrepôt »
14 Av. Edouard Vaillant, 93500 Pantin

大きな大きな美術造形廃棄物の会員制リサイクル施設「美術の貯蔵庫―オントル・ポ」。アート関係の職業に関するプロフェッショナルであれば、個人でも団体でも利用・登録をする事ができます。お父さんのDIY的な利用はできません。
年会費は日本円だとほぼ2000円。僅かの額で、どこかの舞台、あるいはイベントや展示会や撮影で使われた廃材を、信じられない価格で手に入れることが出来ます。

同じサイズにカットされたコンパネはキロ単位での販売。
どれもすぐに使えるように、清潔に保たれています。ノコやスケールの貸出もあり、巨大な電ノコも施設内にあります。
このあたりはほぼ完品のエストラード。オーダメイドで作られたらしい、使用用途が限られているものほど、安くで売られている傾向があります。ちょうどファッションウィークが終わった時期だったので、モデルさんたちのランウェイに使われていたのかもしれません。
Panneau noirの大きなものは屋外に。どれもきれいに整備・仕分けされています。

絨毯、パネル、焼きもの、コンパネ、ベニヤや垂木の木材、家具やドアなど汎用性の高い材料が、ジャンルごとに仕分けされて並んでいます。
潤沢な予算があるわけではないカンパニーにとっては大変ありがたいシステムでもありますが、今の時代の考え方で言えばとても良く出来たエコサイクルであり、SDGsでもあります。そしてこの施設のイニシアチブを取っているのは、パリ市やパリ市を要するイルドフランス圏など、自治体や公的団体です。

支援・援助(SOUTIENS)団体一覧

実は、私が昨年制作し、パリとドイツのケルンで初演を行い、これからパリとアヴィニヨン演劇祭OFFで再演する『BLANC DE BLANC‐白の中の白-』の舞台美術の95%以上は、廃棄予定だった木材を使って作られています。日本の豊岡演劇祭で演じた際の舞台美術も、日本の舞台公演で使われた廃材に再度塗装を施して、組み立て直しました。
これは「結果的に廃材を利用した」というわけではなく、「廃材を使っても、理想の美術を何一つ妥協せずに作れる」ことを、舞台美術の石塚菜々子氏と共にデザイン構想段階から考えていたからです。

美術はパリのドミニク・ペロー建築事務所のアーキテクト、石塚菜々子氏。

このアプローチを取った背景には、先に述べた「舞台美術の廃棄を目の当たりにし、それに対する時代錯誤を感じた」経験、加えて私自身が学生時代から深く学んだ自然地理学の知識が影響しています。

そして次のステップとして、『芸術の貯蔵庫』で選んだ革の廃材をデザインし、パリやアヴィニヨンの公演でグッズとして販売する計画を進めています。
つまりこれは、単に「グッズの販売をする」という意味合いだけでなく、持続可能な演劇制作への一歩であり、啓蒙活動であり、リサイクルの価値を伝えるアクションでもあり、舞台人としてのミッションだと考えています。

ここには革の廃材、特にバッグのパーツをくり抜いたあとの革の廃材が、キロ単位で売られています。余談ですが、この施設から歩いて5分ほどのところに、バーキンやケリーなどのバッグでおなじみの、高級ブランドの広大な工房があります。

私がデザインから求めていたのは、循環的な空間プロセスへの小さなでも確かな寄与。そして(一つ前のnoteに記した山本大介氏の「FLOW」のコンセプトと私の思いはピタリと一致しました。
「今日は山本さんの作品を見に行くついでに、アトリエ近くをふらりと散歩しよう、ついでに美術庫にも行こう」と思ったことがきっかけで、私の頭の中に新鮮な風が吹き抜けた感じがしました。

リサイクルや物の転生を意味するSDGs、フランス語だと「ODD(Objectifs de Développement Durable)」の実現は、私達全員にとっての大きな課題です。私が作るマイムがこれらの大きなテーマに直接貢献するわけではないかもしれませんが、この小さな一歩が、いつか大きなうねりにつながるかもしれないと思うと、わくわくしてきます。私の作品が明日世界を変えるなんてことは言いませんが、ちょっとした意識の変化が楽しい未来を創る一助になれば、それに越したことはありません。
私たちの「今」が、未来に向けた小さな一歩であることを楽しむ。それができるのも、芸術の醍醐味の一つではないでしょうか。

頭ごとすげ替えれば、愛だって再生可能らしい。

Compagnie ÔBUNGESSHA by SHU OKUNO
次回公演のお知らせ

« Blanc de Blanc(白の中の白)»
マイムと身体表現によるソロ舞台作品の再演です。

パリ公演 6月6日(木)・6月7日(金)20時00~​
INFO & RESERVATION

アヴィニヨン国際演劇祭OFF2024
​Festival OFF d'Avignon 2024
6月29日から7月21日(偶数日)10時45分~
Théâtre Transversal

1時間の公演時間の間、沈黙を保つことができる全ての人が、公演対象になります。

ÔBUNGESSHA by Shu OKUNO
※現在公式ページが改装中です!
日本語でのお知らせは、できるだけnoteで更新します。

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