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計量オーバーで試合が飛んだら

 「試合やらなくてもいいよ」

 相手が計量オーバーした時に、わたしは選手に必ずそう言うんです。

 だって無理して試合して負けちゃって、2、3年経って戦績を見返した時に、この選手は何ポンド計量オーバーしましたよ!とかまで、細か〜くわかりやすくどこのデータベースにも載る、という訳じゃないし。

 試合をするということは、計量オーバーした選手に、ウィンボーナスを勝ち取るチャンスを与える、ということでもあるし。
 そう言うと、必ずといって良いほど、選手または一緒に来ているセコンドの方に聞かれるのが、これなんです。

 「ペナルティはどうなるんですか?」

 わたし、この仕事をもう25年以上してますから、なぜこう聞かれるのか?それは充分にわかっているんですけど、あえて、これ、言われる度に、こう聞き返すんです。

 「なんで計量パスした選手がペナルティ取られないといけないの?」

 いろんな要素があるからこそ「ペナルティは?」という発想になると思うんですが、試合がキャンセルになった場合の問題点をここで羅列したいと思います。

 まずファイトマネーはどうなるのか?
 これは、大体、日本国外の場合だと計量パスした選手には、ギャランティは全額でます。
 そして試合をしないのなら、ウィンボーナスは出ないケースがほとんどです。

 計量オーバーした方の選手には、当然一銭も支払われません。
 
 プロモーター側からしたら、もしも試合が成立していたら、両者にギャランティを支払い、そして勝った方にウィンボーナスを支払う。
 試合が不成立なら、計量オーバーした方にはギャランティを支払わない。
 更にはウィンボーナスを支払う必要がない訳ですから、帳簿上はマイナスにならないんですよね。逆にプラスです。
 その選手が山ほどチケットを売るとかいう選手でない限り、大会は行われるんですから、運営側からしたら大きな損害が出る訳でもないんでよね。

 中には、それなら煽りVの制作費とかは?と聞いてきた人がいますけど、普通に考えて、制作プロダクションを雇うときに、撮影する選手の数が一人減ったからといって、プロモーターがそのプロダクション会社に支払う額が大きく増額されるようなディールにしているのなら、それはもう選手ではなくて、そんなディールにしているプロモーター側が悪い。
 それが国外でのスタンダードな考えなんですね。

 選手が大会利益のパーセンテージも貰えるのなら話は別ですけど、そこまでの責任を選手に課すことはしない。それが普通の感覚なんです。国外では。
 それは渡航費や宿泊費に関しても同じです。
 特に北米のフィーダーショウの場合は、飛行機で選手を呼ばないといけない選手の方が多いんで、もう計量オーバーや怪我などは、あり得るリスクとして、それに対応する体制、予算組みをするのはプロモーター側の役目であって、それを、ましてやチケットの手売りまでお願いしている選手に課すのはおかしい、という考えなんです。

 けど計量オーバーは選手の責任でしょ?
 それを言いたい気持ちはわかります。
 けど、それならプロモーター側も、選手が計量パスをするために、試合が成立するように、それなりの協力をしないといけないのでは?という論理も成り立つんですよね。
 選手が無料で好きな時間にサウナにアクセスできるような手配にしてありますか?
 選手が無料で走りに行けるジムとか用意してますか?
 それが無理なら、ポータブルサウナを貸してくれますか?
 それも無理なら、少なくとも発汗クリームとか、なんなら元アマレスの選手で減量とか水抜きのエキスパートみたいな人を連れてきて、選手とコーチに、必要ならヘルプするとか。

 ペナルティというコンセプトを持ち出す前に、プロモーターと選手は持ちつ持たれつなんですから、そういったことから論じていかないと。
 どの国でも、プロモーターも選手も、大体そんな感じの考えなんです。

 さて、それなら選手が手売りしたチケットはどうなるのか?
 
 北米の場合は、もうそれは怪我とか計量オーバーのリスクもわかって購入して頂いてるんだし、そもそもチケットには一回買ったら返金不可と書いてありますから、で済んじゃうんですよね。

 なんだ試合しないのなら行かないよ、金返して、という人がほとんど出てこないんですよ。
 アメリカだと、そんな事言う人にはもう二度とチケット買ってくれとは頼まないから、という感覚の選手の方が圧倒的に多いんですよね。 

 特にパスした方は、ちゃんと減量して契約で約束した体重で計量をパスした、イコールちゃんと仕事をした訳なんで。
 試合できなくてかわいそうに。
 チケットを買ってくれた人たちは、金返して、と言わずに、そう言ってくれる人が圧倒的に多いんです。
 
 特にフィーダーショウなら、チケットを選手から買うということは、大したファイトマネーでもないのに頑張っている選手をサポートする意味も含まれますから、ここでまた選手の負担になることは言って来ないんですよね。
 これはカルチャーの違いだと思うんですが。

 折角だから息子と行ってビールでも飲んで楽しむか、みたいな感じの人も多いですし、当然サービス精神の旺盛な選手は、来てくれたら、席まで挨拶に行くし大会後にビールでも、みたいな感じでフォローするんですよね。

 それで収まるから良いんですけど、これが、なかなか日本ではうまくいかないみたいなんですよね。

 日本と国外では、いろいろとカルチャー、事情や勝手も違うんで、一概には言えないですけど、なんでもかんでも選手側に課す「ペナルティ」でコントロールしようとしても限度があるし、現実的ではないと言われても仕方ない部分も多々あると思うんですよね。

 選手の正当な権利とは?
 これは常に選手は考えるべきだと思いますし。
 少しでもおかしいと思ったら、なんでもかんでも「昔からそうだ」と言われ、な〜んとなく受け入れていては、何も変わらないですし。

 権利とは、自分のプライドでもあると思うんで。
 (これ、By Yazawaです)


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