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小説 僕の小宇宙

 ここは宇宙です。

 気が付いた時には僕は見知らぬ部屋の中にいて、この声を聞いていた。

(僕は家にいたんじゃなかったっけ……)

 記憶をたどるけど、何もかもうまく思い出せない。とにかく今言えるのは、僕が部屋に独りでいるということだけだった。その部屋は変わっていて、広い部屋なのに物が何一つない。天井はガラス張りになっていて、真っ暗な空に星が光り輝いている。

「ここは本当に宇宙なの?」

 僕はどこからともなく聞こえる声の主に尋ねた。すると、やっぱりどこからともなく、

「ここは宇宙です」

 というさっきと同じセリフが聞こえてきた。

「ねえ、お父さんとお母さんはどこにいったの?」

 とまた尋ねたが、

「ここは宇宙です」

 と答えるのみだった。僕はなんだか寂しくなって、涙をこぼした。部屋の真ん中でうずくまって声を上げて泣いていると、部屋の壁がどんどん下がっていった。部屋全体がガラスに覆われて、星の光に包まれた。といっても、星の光なんて少ししかないから、周りが真っ暗になったようなものだ。

「ここは宇宙です」

 またどこからともなく声が聞こえた。僕は訳が分からなくなり、涙も流れなくなってしまった。見上げると満天の星。僕は思わず、尋ねた。

「ここは宇宙船の中なの?」

 しばらく、静かになった後、

「ここは宇宙船です」

 と声が聞こえた。

「きみは宇宙船なの?」

 僕は続けて聞いた。

「わたしは宇宙船です」

 間の抜けた質問とその答えのようだと、僕自身も感じていたけど、そんなことはどうでもよくなっていた。

 「ねえ宇宙船さん、聞いてほしいことがあるんだ。僕は勉強も運動もダメで、クラスのみんなにからかわれてばかりなんだ。最近は学校にも行けてないし。どうしたら、学校に行けると思う?」

 僕は質問の答えを待った。しかし、宇宙船は何も言わず、静かにしているだけだった。

「宇宙船さん、何か言ってよ。僕は君だけが頼りなんだ。君が何か言ってくれたら、もしかしたら学校に行けるかもしれない」

 呼びかけにも宇宙船は何も答えない。もうダメなのかと思った時、

「ここは宇宙です」

 と宇宙船が返事をした。さらに宇宙船は続ける。

「わたしは宇宙船です。あなたの住む地球のことをいつも見つめています。あなたはひとりではありません」

 僕は胸の奥がじんとなるのを感じた。

「宇宙船さん……」

 そう呼びかけた瞬間、宇宙船の床がぐにゃりと曲がり、僕は気を失ってしまった。

 目が覚めると、僕は部屋の押し入れの中にいた。真っ暗な押し入れの中には、一筋の光も見えない。僕は押し入れのふすまを開けて、部屋の窓から星空を眺めた。

「僕はさっきまで、あそこにいたんだ」

 そのとき、流れ星が一瞬見えた。もしかしたら、あの宇宙船かもしれない。そう思いながら、僕はつぶやく。

「ここは宇宙です」


(了)

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