あかるい花園二番街の平和武装さん
嘔吐塗れの歌舞伎町を見たことあるか?
俺はある日、いつもみたいに朝まで歌舞伎町で飲み明かしてたんだ。綺麗なねーちゃんがいる店を何軒も廻ってな。
ドンペリなんてコカ・コーラを飲み干すみたいに何本も空けて、ショットを競いあって、くだらない馬鹿な話しを繰り返し話したんだ。
アフターで焼き肉に連れて行ってやったさ。三人ほどな。でも、俺はもう食えなかった。
酒で頭がぐーるぐるだ。本当にぐーるぐるだ。馬鹿みたいにぐーるぐるだ。
ねーちゃんたちはそんな俺を見て笑うんだ。
「あははは、馬鹿が頭回ってら」
てね、俺はねーちゃんたちが楽しけりゃいいんだ。そのあとも酒を浴びるほど飲んださ。
気が付いたら俺は掃き溜めの中にいた。ちょうど朝日が昇ってな、生ゴミのベッドで仰向けになって眺めたよ。
するとな、俺は異変に気が付いたんだ。
異臭だよ。掃き溜めの中にいるからじゃない。野良猫が発する体臭でもない。そんなもんよりも強烈な異臭さ。なんだと思って少しだけ躰を上げてみたんだ。するとな、笑っちまう。歌舞伎町の道という道が嘔吐塗れだったんだ。
最初はな、俺が吐いたもんかと思ったよ。でも考えてみろ! いくら頭がぐーるぐるで酔っぱらってたって、そんなに大量に吐けやしない。
俺はな、可笑しくなって大声で笑ったよ。笑ってるとな、なんだか楽しくなってきて昨日一番可愛かったねーちゃんを思い出しながらラブソングを唄ったんだ。
中島みゆきの「ミルク32」さ。
俺は英語の発音が良くてね、ねえ、メイルクってぐあいに唄ったさ。
その内、朝日が一段と眩しくなってね、またどうしたんだ? って思ったら反射してたんだ。道いっぱいの嘔吐に反射して、ウユニ塩湖のようだった。ウユニ塩湖が天空の鏡って言われるんなら、そうだな——、歌舞伎町は無表情達の墓場だ。
綺麗だったよ。あんな綺麗な嘔吐塗れの歌舞伎町は今まで見たことなかった。
掃き溜めで唄うラブソングも悪くないと思った。
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