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こんな夢を見た

腕組みをしてあぐらを組んでいると一人の坊主が私の前で経を詠み始めた。
なんだと目を見開いたら、坊主の後ろには喪服の知った顔が大勢いるじゃないか。

どうしたと思ったがこの位置関係。私はどうやらこれか昇天するみたいだ。なんだ私は死んだのか、いつ死んだんだ? 考えても思い出せない。それはそうか死んだら瞬間なんて誰も覚えてはないだろうと思いつつも耳障りな念仏を聴きながら私は辺りを見渡していた。

妻は勿論、一人娘に隣の婆さんも泣いていた。婆さんが泣いてるよと私は大声で笑ったが私の声は届いてはいない。「あぁやっぱり死んだのか」と私はこの時やっと実感することができた。
 
私は妻と娘の泣き顔なんて滅多に見れるもんじゃないとまじまじ眺めていたのだが、坊主の念仏が五月蝿いこと五月蝿いこと。焼香が始まると喪主である妻がまずやってきた。妻は泣きじゃくりながら私に言った。
「そっちに行ったら殺してやる」
 私はまた大口を開けて笑った。気の強い妻らしい一言だ。娘は何を言うかなと聞き耳を立てていたが余程ショックなのだろう何も言わなかった。

それから親戚の婆さんに、近所の爺さん、爺さん婆さん。爺婆だけかよ! と溜息を付くと、幼なじみの馬鹿どもの列が出来ていることに気が付いた。

初めはガリ勉。ずっと学級委員長だったよな。わざわざ東京からこんな田舎まできてくれたのか。次は花子。トイレの花子さんみたいで、花子花子っていじめてたっけ。茂樹は一層頭が寂しくなったな。里美は相変わらず美人だな。幼かったあの頃、みんなで馬鹿やっていたあの頃、好きだの嫌いだのってくだらないことで笑っていたあの頃がふと甦ってきた。最後は、健太、妻を取り合った高校生のあの時から一言も話していない。
「なんで死んだんだよ。まだ仲直りしてないだろ?」
と彼は言った。私は彼の顔を見つめると涙が頬へ垂れた。大粒だった。私はこの時初めて「死にたくない」と感じた。
 
生前どれほどその人物が愛されていたかは参列者の数を見れば分かるとは言うが、私は皆から愛されていたのだろう。
「お別れの時間みたいだ」そう私は呟くと妻と目が合った。妻は微笑みを浮かべ「またね」と言った。身体が宙に浮き視界が薄れていく中、制服を着たあの時の彼女が手を振っていた。

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