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松本紹圭の方丈庵

このnoteマガジンは、僧侶 松本紹圭が開くお寺のような場所。私たちはいかにしてよりよき祖先になれるか。ここ方丈庵をベースキャンプに、ひじり仲間と対話と巡礼の旅に出ませんか? …
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#僧侶

いまこそ、カンパニーへ

企業や、企業で働く人に、産業僧として何ができるか。体験を重ねるなかで感じているのは、必要とされている僧侶のスキル(あえてスキルと呼んでみたい)は、「布教力」ではないかということだ。 僧侶は、言ってみれば、ブッダや祖師の説いた教えを翻訳、伝達する「翻訳者」である。仏教が説く普遍的な智慧や教えは、現代を生きる人々、そして、目の前にある人の日常にどのようにはたらくかー。人生を歩むにあたって、どんな意味をもち得るかー。その答えは縁によって様々だが、どのような状況にある相手であっても

ダボスにて@世界経済フォーラム 2023 (5)

フォーラム最終日、Morning Meditaionを開いて3日目となる最後の朝。前日までの開催から口コミが広がり、今日は40人を超える人が集まった。日本人の参加者もあり、何人もの方から、深く心に響いたと感想を寄せてもらった。参加者の声も、フォーラム主催者からのフィードバックも嬉しい内容で、無事に終えられてほっとしている。 政治経済を議論する世界経済フォーラムの会場で、こうして先祖に想いを馳せる時間を成立させられたことは、これまでの複雑なコンテクストを含む道のりを思うと感慨

ダボスにて@世界経済フォーラム 2023 (4)

期間中、3日間にわたって朝の時間帯に開催している "Morning Meditaion" は、前回書いたように祖先に想いを向ける時間だ。連日のミーティングで声は枯れかけているが、お経を読んで「How can we become better ancestors?」をみなさんに問うている。毎回15〜20人の参加者があり、感覚をシェアしてくれる人も多く嬉しい感想もいただいている。 ◉ Wysa Chatbot for Mental Health https://www.wys

ダボスにて@世界経済フォーラム 2023 (3)

3日目の朝、メディテーションの時間が始まった。メディテーションといっても、禅の修行経験もなく、一般の人以上に坐禅の苦手な私にできることーーお経を読み、「How can we become better ancestors?(いかにして、私たちはよりよき祖先になれるか)」を集まるみなさんに問いかけた。 過去に想いを巡らせて、アンセスター(祖先)につながる「Deep Time」を設けることも、ひとつのメディテーションと言えるだろうか。スピーカーとして呼ばれて登壇した他のセッショ

ダボスにて@世界経済フォーラム 2023 (2)

自分は「Civil Society(市民社会)」という市民参加枠の招待を受け、ダボス会議に出席している。 2日目の今日は、そういう意味で自身が一員でもある「Civil Society Meeting」が開催された。参加したのは主に宗教者の集まりで、気候変動や生態系の多様性をテーマに、宗教コミュニティがWEF(世界経済フォーラム)のようなプラットフォームとどのように連携し得るか議論された。 仏教者は自分一人だったが、会合に仏教が含まれていたこと自体に意味があろう。宗教者の集

ダボスにて@世界経済フォーラム 2023 (1)

昨年5月に続き(前回報告)、2023年1月16日〜20日開催の世界経済フォーラム(ダボス会議)に参加している。スイスの山間部、ダボスの町に世界から忙しなく人々が集まっている。 メジャーなカンファレンスはオンラインでもLIVE配信されているので、興味があれば、世界経済フォーラムのサイトからぜひアクセスしてみてほしい。自分はカンファレンスを聴講しつつ、会って話をしたいと思っていた方々や、会場で声を掛けていただく方との個人的な対話を大事にしよう。 まずは1日目、話をした方々の記

エコーする過去と未来

※本記事はnoteマガジン「松本紹圭の方丈庵」の定期購読者限定記事として執筆していますが、これからのお寺や宗教に携わる人にとって特に読んで欲しい内容なので、5/25まで期間限定で特別一般公開します。いつも定期購読してくださっている方には、改めて感謝申し上げます。 ◆ 前回のnote記事「「日本のお寺は二階建て」のリフォーム案」(2021.5.10)の続編となる記事なので、よければ先にそちらをお読みください。 ◆ 前回の記事で話したように、お寺の一階は、Time Sca

「日本のお寺は二階建て」のリフォーム案

※本記事はnoteマガジン「松本紹圭の方丈庵」の定期購読者限定記事として執筆していますが、これからのお寺や宗教に携わる人にとって特に読んで欲しい内容なので、5/25まで期間限定で特別一般公開します。いつも定期購読してくださっている方には、改めて感謝申し上げます。 ◆ これまでたびたび「日本のお寺は二階建て」論を語ってきたけれど、この度、翻訳中の『The Good Ancestor』からインスピレーションを得て、その二階建てをどのようにリフォームしていけばいいのかという方向

リンク

このところ『The Good Ancestor』の翻訳三昧行に入っていて、それ以外のことがまったく手につかない。毎日10時間以上の翻訳を、来る日も来る日も続けている。翻訳の仕事はマラソンのようであり(マラソン走ったことないけど)、一度途切れると最後まで翻訳仕事をやり切れる気がしないので、どうしてもこの勢いでやってしまわないといけない想いに駆られている。このnoteマガジンでも、5月半ば頃までは、この「The Good Ancestor」の話題が続くと思うけれど、訳文先出しキャ

名前の話

星覚、という良き友人がいる。星覚は、お坊さんらしいお坊さんだ。永平寺を降りてから20年近く、この資本主義社会の中にありながら、貨幣経済による価値交換からできるだけ距離をとり続けた生活を実践し続けているのは、本当にすごい。 星覚は、コロナ前にアメリカでmonk manager実験プロジェクトをやった時、当時住んでいたベルリンからアメリカへ飛んでくれた戦友でもある。 ◆ 星覚と長年付き合ってきていつも感心するのは、彼の人との接し方だ。人との関係を大事にするというのは、こうい

仏教は、正気を生きる道。

現代仏教僧侶(Contemporary Buddhist Monk)にも、いろんな形がありうる。 nestoでご一緒している藤代健介くんが「風の民、土の民」の話を時々してくれる。先日のポッドキャストでも、少しその辺りの話題も出たような気も。 「風の民、土の民」を自分の文脈に(ちょっと強引に)当てはめてみるなら、自分のお寺に定住して特定のローカルに根ざして活動する「住職」は土の民、土地や立場に縛られず遊行・流浪する「ひじり」は風の民、と言えるだろうか。歴史をさかのぼってみれ

共時性

「朝のオンラインTANDEN瞑想会」が良い。 AM6:00〜6:30の30分間、6月25日にスタートしてから毎朝続けられている。Youtubeにせよ、小出遥子さんの有言実行の継続力にはいつも感心する。 早起きが苦手な僕はまだ数えるほどしか参加したことはないが、早起き習慣づくりのためにも、ここ2日ほど続けて参加してみた。30〜40名の参加者と同じ時間を共にする朝の瞑想は、オンラインながら仲間感があって、なかなかいい。「みんなが起きているから、自分も起きよう」と思えるので、早

現代仏教と古典仏教の配合比

ふと振り返ると、テンプルモーニングラジオのトークゲストには、アーティスト系のお坊さんが登場する率が高いです。実際に美術や音楽のプロフェッショナルとして二足のわらじを履いている人もいるし、お坊さん専業だとしてもかなりアーティスト的な性質の強い人が多いと思います。お坊さんならそれが当たり前では?と思われるかもしれませんが、実際のお坊さん世界ではむしろ理論派というか学者肌というか、右脳よりも左脳系の人の方が「出世」している印象。テンプルモーニングラジオでは、トークの内容以上に「言葉

僧侶はブルシット・ジョブか

NYC行きの飛行機で読んだ『デモクラシー・プロジェクト』ですっかりファンになってしまった人類学者でアナキスト(アナリスト、ではなくて、アナーキスト、無政府主義者の方)のデヴィッド・グレーバー。彼の最新作が『ブルシット・ジョブ〜クソどうでもいい仕事の論理』。 面白すぎて、一気読み。自分の仕事に違和感を持つあらゆる人に、心からオススメしたい。原書は2018年だが、図らずも日本語に翻訳・出版されたタイミングである今のコロナ下に読むと、内容はいっそう妥当性を増しているように思う。