「なぜ」を使わず対話を深める技
ども、はじめましてExperience Designerのしょーてぃーです。
インタビューや対話の場において、しばしば「なぜ(Why)」という質問が使われる。これは、相手の意見や感情の背後にある理由を探る一般的な方法である。しかし、この「なぜ(Why)」というアプローチには、いくつかの問題点が存在する。
まず、この質問形式は相手に心理的なプレッシャーを与えることがある。特に個人的な体験や感情に深く踏み込む場合、相手は自身を防御的に感じることがあり、真実を語りにくくなる。
また、人は直面する問題や状況に対して、常に明確な理由や原因を持っているわけではない。多くの場合、私たちの選択や感情は、意識的ではなく無意識のうちに形成される。
しかし「なぜ」という質問は、相手に論理的な答えを強いる。これにより、本当の感覚や感情ではなく、無意識に作り話や理屈を言い立てることを促すことがある。
更に、人間の感情や価値観には本来、曖昧さが存在する。この曖昧さは、個人の体験や感情の豊かさの一部であり、それを全て論理的に説明することは不可能である。
しかし、「なぜ」と問うことで、その曖昧さを許容せず、ロジカルなモードでの反応を求めることになる。
この記事では、「なぜ」という質問の代わりに、対話、インタビューにおいて有効な別のアプローチを提案する。それは、無生物主語や抽象的な概念を用いることで、より自然で、相手が本来持っている感情や体験を引き出す方法である。
もちろん、ワークショップ、1on1といった仕事に限らず、普段のコミュニケーションにも有効である。
無生物主語の重要性と効果
みなさんは無生物主語をしっているだろうか?
学生時代に英語の勉強で苦しめられた、あの「無生物主語」だ。
例えば、こんな感じ。
対話やインタビューにおいて、無生物主語を用いることは、多くの利点をもたらす。これは、話し手が直接的な自己開示を避けながら、自身の感覚や体験について話しやすくなるようにする効果を持つ。
A.心理的圧力の軽減:
無生物主語を用いることで、話し手は自分の直接的な感情や考えを明かさずに済む。これにより、心理的な圧力が減り、よりリラックスして話せるようになる。
B.感情や価値観の曖昧さへの対応:
人間の感情や価値観には本来曖昧さがある。無生物主語を用いることで、その曖昧さを受け入れつつ、話し手の体験や感情の背後にある要素を探ることができる。
自動判断の影響の理解:
人は外部状況に影響されて多く自動判断を下す。無生物主語を用いることで、そのような自動判断のプロセスや外部からの影響を明らかにし、より深い理解につなげることができる。
論理的思考への強制回避:
人は過去の出来事に理由を求められると、論理的な思考をして理由を捏造しがちである。無生物主語を用いることで、このような強制的な論理的思考を避け、より本質的な体験や感情に焦点を当てることができる。
まとめ
このアプローチは、話し手が自身の体験や感情をより自然に表現しやすくなるだけでなく、インタビューアがより深い洞察を得る手助けをする。
人々の言動が外部状況に大きく影響されるという事実を直接的に反映し、インタビューや対話を通じて質の高いファクトを収集するための有効な手段といえるだろう。
詳しくは以前こちらの記事で解説している
効果的な問いの観点
無生物主語からさらにいくつか派生させることもできる。
先程の課題をできるだけ克服するために
私が使っている「なぜ(Why)」を使わない問いや質問を作る上での基本原則は以下である
間接的質問の活用
目的:直接的な「なぜ」質問から「何」「どこで」「いつ」「どのように」へ移行し、考えや感情を巧みに探る。
具体例:
"Where was the thought that it was interesting coming from?" / "面白いと感じたその心の動きはどこから来たのですか?"
"How did your teammates' actions influence your thinking?" / "チームメイトのどんな行動が、あなたの考えを形づくるのに影響しましたか?"
テンプレート:「What/Where/When/How」+ 主題 + 動詞
Do:間接的なアプローチで深い洞察を得る。
Do not:直接的な「なぜ」質問で被験者を防御的にさせない。
無生物主語と抽象概念の強調
目的:体験や認識についての話し合いを促しながら、インタビュー対象者が防御的になるのを避ける。
具体例:
"How did this environment give you a particular feeling?" / "この環境があなたにどのような感覚を与えましたか?"
"What in this project sparked your creativity?" / "このプロジェクトで、何があなたの創造力をキラキラさせますか?"
テンプレート:「/What/Where/When/How」+ 主題 + 動詞
Do:感情や経験的な面に焦点を当てる。
Do not:機能的な側面だけに焦点を当て、感情や経験の洞察を見逃さない。
記述的、感情的な応答の促進
目的:経験、感情、反応の詳細な記述を促す質問を構築する。
具体例:
"What made you feel it was beautiful?" / "何がそのものを美しいと感じさせましたか?"
"What sparked your interest in this feature?" / "どの機能があなたの気持ちを引きこみましたか?"
テンプレート:「What/Where/When/How」+ 主体の感情/反応
Do:オープンエンドの質問を使用し、詳細で思慮深い回答を促す。
Do not:質問で仮定を持ち込まず、中立的でオープンエンドに保つ。
1.に関しては、MIMIGURIのODAさんが先日デザインフェスで発表された内容も参考にさせていただいた。感謝すぎる。
実際に問を作ってみる
「なんだか難しい説明だな〜」…
記事を読んでも再現性がないともったいないので、だれでも使えるようにプロンプトを作成してみた。
カンタンにいうと目的や状況に合わせてイケてる問を生成してくれるプロンプトだ。
### Guidelines for Eliciting User Experience Insights
#### Core Principles
1. **Utilize Indirect Questioning Techniques**: Transition from direct "why" questions to "what", "where", "when", and "how" to subtly explore thoughts and emotions.
2. **Emphasize Inanimate Subjects and Abstract Concepts**: Encourage discussions about experiences and perceptions without causing the interviewee to feel defensive.
3. **Promote Descriptive, Emotive Responses**: Craft questions that encourage in-depth descriptions of experiences, feelings, and reactions.
#### Effective Question Structures
1. **External Influence-Focused Questions** (What/Where/When/How + Subject + Verb):
- **Purpose**: To gather specific details or actions related to external influences on experiences or events.
- **Application**: Suited for understanding the impact of external factors like environment, time, or specific features on the user experience.
2. **Internal Experience-Focused Questions** (What/Where/When/How + Subject’s Emotion/Reaction):
- **Purpose**: To delve into emotional or psychological responses.
- **Application**: Beneficial for exploring the user’s internal experiences, feelings, or reactions to a product, service, or situation.
#### Question Examples (Bilingual)
- **Effective Examples**:
- "What aspect of [product/service] evoked a sense of [emotion]?" / "どのような側面が [製品/サービス] で [感情] を呼び起こしましたか?"
- "How did the [feature/environment] influence your [action/reaction]?" / "[特徴/環境] はどのようにしてあなたの [行動/反応] に影響しましたか?"
- "Where do you find [emotion/thought] when engaging with [product/service]?" / "[製品/サービス] を使っている時、どこで [感情/考え] を見つけますか?"
- "When did you feel [emotion/reaction] while using [product/service]?" / "[製品/サービス] を使用している間、いつ [感情/反応] を感じましたか?"
- **Effective Concrete Examples**:
- "Where was the thought that it was interesting coming from?" / "面白いと感じたその心の動きはどこから来たのですか?"
- "What made you feel it was beautiful?" / "何がそのものを美しいと感じさせましたか?"
- "What sparked your interest in this feature?" / "どの機能があなたの気持ちを引きこみましたか?"
- "How did this environment give you a particular feeling?" / "この環境があなたにどのような感覚を与えましたか?"
- "What sensations did you experience when using this product?" / "このプロダクトを使った時、どのような感覚が生まれましたか?"
- "What triggered your feeling of enjoyment?" / "なにがきっかけで楽しいと感じるようになったのですか?"
- "What situation made you feel calm?" / "どんな状況があなたを落ち着かせたんですか?"
- **Less Effective Examples**:
- "How did this feature simplify your task?" / "この機能はどのようにあなたのタスクを簡略化しましたか?"
- "How did the design of this app simplify your tasks?" / "このアプリのデザインはどのようにしてあなたのタスクを簡単にしましたか?"
#### Do's and Don'ts
##### Do:
- Use open-ended questions to foster detailed, thoughtful responses.
- Focus on emotional and experiential aspects rather than purely functional aspects.
- Be specific yet maintain openness in questioning, avoiding leading the respondent.
##### Don't:
- Avoid direct 'why' questions to prevent defensive responses.
- Refrain from questions that only focus on functional aspects, missing out on emotional or experiential insights.
- Avoid making assumptions in your questions; keep them neutral and open-ended.
#### Application in UX Design and Research
- **Developing User Personas**: Use these questions to reveal emotional and psychological user needs.
- **Evaluating User Experience**: Gain deeper insights into user feelings about a product or service, guiding design improvements.
- **Enhancing User Interfaces**: Understand how design elements impact user emotions and behaviors.
例えば、Twitterの利用実態調査を過程して、上記のプロンプトを活用すると…
感情や体験の深堀り:
"Twitterで何か面白い投稿に出会った時、その面白さはどんな感じで心に響いてくるんですか?"
"特定のユーザーや話題に惹かれる時、どんな感情が湧いてきますか?それはどんな瞬間に起こりますか?"
個人的な価値観や思考の探求:
"Twitterを使っていると、どんな時に「これは良いな」と思いますか?その感じはどこから来るんですか?"
"Twitterでの会話や議論が、あなたの考え方にどんな新しいアイデアをもたらしてくれますか?そう感じる瞬間はどんな時ですか?"
その他、あるあるの例としては…
会社の新規事業立案プロジェクトチームが意思疎通に苦労し、メンバーが自主性に欠けていると感じている。1on1ミーティングを通してメンバーの原因解明と価値観の理解を深めたい。目標はチームビルディングの対話型セッションを経て、個人攻撃と捉えられないような環境を作ることです。具体的な1on1での質問方法について問の切り口が欲しい状態だとしよう。
よしプロンプトを使って聞いてみると
"チームメイトのどんな行動が、あなたの考えを形づくるのに影響しましたか?"
"このプロジェクトで、何があなたの創造力をキラキラさせますか?"
うむむ、悪くないのでは。
生成AIを活用したUXリサーチについて知りたい人は、以前執筆したこちらも参考にどぞ。
Research Advent Calendar 2023の12/7分をお送りしました。
他の皆さんの記事も面白いので、ぜひごらんください!
「なぜ」を使わない深い対話術は、インタビューを何度か実践してもうワンランク次に進みたい人に私は教えていたが、インタビュー以外にも幅広く使うことができる。
ぜひ、ご自身の生活や業務に使ってみてはいかがであろうか。
では!
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