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やってから言って??~素人、M-1グランプリに出る~

ある日、居酒屋でご飯を食べていたら、隣の女性グループが「めちゃ面白いじゃん~うちら、M-1に出たら2回戦くらい行けるんじゃない??」と言っていた。
信じられなかった。悲しかったし、悔しかったし、正直怒りを感じた。どれほどの人間が1回戦を突破できずに苦労しているか。芸人さんがどれほど人生をかけているか。ネタを1本書くのにどれだけ時間がかかるか。ネタを覚えるのがどれだけ大変か。そして何より、見ず知らずの人前で漫才をするのがどんなに緊張するか。舞台袖の心臓が飛び出そうな緊張も、何度もトイレに行きたくなるような緊張も知っているのか??
知らないのにそんなこと言わないでくれ。
隣の声が勝手に聞こえただけなのに、とても悲しい気持ちになった。


副題の通り、昨年の10月に、僕は友人とM-1グランプリに出た。
結果は1回戦負け(当たり前)だったが、舞台に出る勇気や、知らない人に笑ってもらえる嬉しさ、自分でも何かを作れるんだ、という自信など、たくさんのものを得ることが出来た。

きっかけは、友人とM-1グランプリの話をしていたとき、ふと友人が
「じゃあ出ちゃう?」
と言い出したことだった。正直、思いもよらなかった。確かに、素人でもM-1に出られることは知っている。だが、自分が出るという発想は全くなかった。あれはお笑い芸人さんが人生をかけて挑む大会で、お笑いもやっていない素人が出るものではないと思っていたからである。今思えば、その友人はものすごくお笑いが好きという訳ではなかったからこそ、割と気軽に「出ちゃう?」と言ったのかもしれない。

ただ、当たり前だが、ネタがないとM-1には出られない。そして僕はネタ作りなんてしたことがない。上記の発言から1年半ほど、まったくネタは書けず、丸々1年間、M-1には出なかった。出ちゃう?発言から1年半後のある日、ふと思いついたネタを友人に送り、やっと出ることにした。エントリーシートを書き、ネタを何度も合わせて、緊張しながら舞台に出た。舞台に出る前は心臓が飛び出るかと思ったし、トイレに何度も行ったし、本当に直前にトイレに行きたくなって焦ったりした(舞台袖のトイレにあんなに感謝したのは初めて)。

結果、一回戦負け。本当にかけがえのない経験をさせてもらえたし、舞台に出た後は自信を持てるようになった。そして何より、あんなに苦労してネタを作成して、緊張しながら舞台に立っている芸人さんを尊敬できるようになった。

なにごとも、挑戦したことのない人が「簡単に~」「~くらいならできる」とか言わないでほしい、いや、言うべきではない、と思う。僕は、冒頭の発言を聞いて、ネタを思いついた瞬間の嬉しさを、あのネタ合わせの日々を、あの舞台袖の緊張を、なかったことにされたようで、本当に悲しかった。

どんなに簡単そうに見えることでも、実際にやってみると全然出来なかったり、見えない苦労がたくさんあったりする。やってみて初めて気づくことが山ほどある。それを見ずして「簡単に~」とか、「~くらいならできる」というのは、ひどい冒涜だ。僕は他人の挑戦を尊重しよう、そして、口が裂けても「簡単にできる」などというのはやめよう、居酒屋の知らないお姉さんたちの話を聞きながら、僕は決意を新たにした。

#お笑い #M -1 #漫才

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