見出し画像

「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (3/7)

ふりむくと、うすよごれた店の軒先に、すすけた像が置いてあった。この辺にこんなさびれた古道具屋なんてあっただろうか。男はふしぎに思った。

「そんなすすけた像などいるものか……いや、まてよ」

男は、もう一度その像をながめた。

なるほど。こいつは、神秘の泉にうってつけかもしれない。ぴかぴかの像より、これくらいくたびれていた方がほんものらしく見えることもある。よくみれば、なかなか含蓄のある表情をしてなくもない。

男は少し考えてから、こう言った。

画像1


「よし、買ってやろう」

「お買い上げありがとうございます」

男はその像を持ちかえり、さっそくあのしょぼくれた泉の真ん中へおいてみた。ついでに〈奇跡の泉〉と書かれた大きな看板もとりつけた。
「うむ。なかなかいいできだ。これならすぐに、だれかやってくるだろう」

男は満足げに泉をみつめた。

次の日、さっそく車いすにのった女の子が母親とやってきた。

母親が泉に小銭を投げてお祈りをすると、不思議なことに女の子は車いすから立ちあがった。

「まぁ。ほんものの奇跡だわ。奇跡の泉さまありがとう」

画像2


車いすにのっていた女の子は、母親と歩いて帰っていった。

次の日もその次の日も、人がやってきた。彼らは小銭を投げてお祈りをすると

「ほんとうに奇跡がおこった。奇跡の泉さま、ありがとうございます」

と口ぐちに感謝の言葉をのべた。どうやら、みな病気やけががなおったようだった。

こうして、なんの変哲もないただの泉は、ほんものの奇跡の泉として知られ、多くの人びとがおとずれるようになった。その様子をみて、一番驚いていたのは家主の男だった。

────

「ほんものの泉」 (4/7)につづく

────

「ほんものの泉」をまとめて読む

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?