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「人間をやめてみた」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.5 (3/7)

すると突然、湖の底から、ごごごごご……と重低音が響き、水面がうねりはじめた。

「うわっ」

若者はびっくりして、腰をぬかした。

水中から美しい女性がせり上がってきたのだから、無理もない。しかも、よくみると彼女の髪や衣服は、全く濡れた様子がない。

そして、女性の手には、奇妙な形をした金色の小瓶と銀色の小瓶がにぎられている。

「こんにちは。どうやら、お疲れのようですね。ところで、あなたが落としたのはこの動物の薬ですか?それとも植物の薬ですか?」

女性は若者の顔の前で、小瓶をちらつかせながら、たずねた。

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「へ?動物……?植物……?いや、これといってなにも落としてないですけど?」

「あら、なにも落としてない?おかしいわね。でも、さっき、動物になりたいとか植物になりたいとかって、そんなようなため息が落ちてきたんだけど」

「ああ、それか。それのことなら、おそらくわたしです」

「なんだ、やっぱりあなたでしたか。それはよかった」

女性はにっこり笑って、今一度若者の顔の前に小瓶をつきだした。

「ここに『動物になれる薬』と『植物になれる薬』があります。どちらかひとつ、お好きな方を選んでください。ちょうど今、お願いキャンペーン中なので、無料でさしあげますよ」

「お願いキャンペーン……ですか」

怪しい。怪しすぎる。若者は、顔を引きつらせた。

「あ。怪しいものではありません。わたしはこの世界では神様と呼ばれているような存在です。どうぞお見知りおきを」

「か、神様!?」

若者はすっとんきょうな声を上げた。どう考えても怪しさはマックスだが、確かに普通の人間なら、一滴も濡れずに水の中から登場できるわけがない。これは、ほんものかもしれない。だとしたら、ものすごいチャンスだ。

今どきの神様は、ずいぶんと軽いのりで願いを叶えるんだなと思いながらも、若者は動物と植物、どちらになりたいか、少し真剣に考えてみることにした。

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「人間をやめてみた」 (4/7)につづく

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