【おしえて!キャプテン】#30 ゴールデンエイジ? シルバーエイジ? ヒーローコミックの時代について(前編)
キャプテンYことアメコミ翻訳者・ライターの吉川悠さんによる連載コラム。前回に引き続き、読者の皆様からいただいた質問に回答していただきました。今回はアメコミを知っていくとよく目にすることになる「ゴールデンエイジ」「シルバーエイジ」について。
コミックブックの時代分類
今回のご質問はコミックスにおける「ゴールデンエイジ」「シルバーエイジ」「ブロンズエイジ」についてですね。
実は以前、JSA(ジャスティス・オブ・ソサエティ・アメリカ)について解説した記事でも触れたことがあります。
ただ、「ゴールデンエイジ」「シルバーエイジ」「ブロンズエイジ」と呼ばれる歴史の分類だけに絞って書いたことはありませんでした。そこで、今回は前編を「ゴールデンエイジ」、後編を「シルバーエイジ」「ブロンズエイジとそれ以降」に分けて解説したいと思います。全2回のコラムになりますがお付き合いください。
ただ、今回の内容について注意してほしいのが、時代の分類というものはあくまでもグラデーションであり、さらに後から勝手にレッテル付けしているものだということです。考えてみれば当然ですよね。流行や雰囲気はあっても、バラバラの意図の元に作られ、日々刊行される多種多様なコミックを、一絡げにしてそう呼んでるだけですから……。
実際に昔のコミックの話になると「このコミックはシルバーエイジっぽいね」「いや、でも内容的にはブロンズエイジじゃない?」と、どうしてもファジーなやりとりになったりすることがあります。そこら辺はご留意ください。
ゴールデンエイジ・オブ・スーパーヒーローズ
ゴールデンエイジとは、主に1938年から1940年代にかけての、スーパーヒーローが大量に生まれた時代を指します(ヒーローもの以外を含める場合は1950年代まで延びるといわれています)。こうした1940年代のコミックブックの繁栄を「ゴールデンエイジ」と呼んだ最も古い例は、1960年のコミックファン向け同人誌で見つかっているそうです。
ゴールデンエイジの始まりは諸説ありますが、1938年の『アクション・コミックス』#1の刊行によるスーパーマンの誕生ということでほぼ一致しています。スーパーマンが誕生したことで、スーパーヒーローブームが巻き起こりました。そのブームに乗って多くの出版社が追随してさまざまなヒーローを生み出したので、「スーパーヒーローの黄金時代(ゴールデンエイジ)」と呼ばれるようになったわけです。
現実の世界ですから、こうした現象が起きた背景には社会全体の変化があります。19世紀から続く出版の発展、大恐慌時代における娯楽の需要、大衆向け文芸の広まりなど…。各種の事情はありますが、自分がたびたび参考にする書籍『Comic Book History of Comics: Comics For All』に、非常に納得できる説明が掲載されていました。今回はその一部をご紹介しようと思います。
簡単にまとめると、「新聞漫画の副産物だったコミックブックが、スーパーヒーローという独自のジャンルを得たことで、メディアとして急成長していった」という見解です。
新聞漫画からコミックブックへ
話が始まるのはコミックブックの誕生前夜、20世紀の初頭のことです。
当時は新聞の地位がはるかに高く、購読者獲得の競争も熾烈でした。その競争の中、新聞王として知られる実業家であり新聞発行人のウィリアム・ハーストは、新聞に掲載されている連載漫画が人気の秘密と見抜き、大枚をはたいてクリエイターを確保したと言われてます。
現代でもおなじみの数コマだけの漫画、一枚絵の風刺漫画はもちろん、誌面の半ページ~一面を使うような、多種多様な漫画が掲載されていました。日曜版には漫画専門の誌面がついており、ユーモアあふれる漫画が子供を中心に大人気を博していたようです。
さらに1930年代には『ディック・トレイシー』のような探偵物、また『フラッシュ・ゴードン』や『プリンス・バリアント』のような壮大なSF・ファンタジー冒険物が連載されるようになりました(現代のアメリカの新聞にもこの文化の名残は残っています)。
コミックブックの独立
新聞漫画の盛り上がりを受けて生まれたコミックブックは、当初はライセンス料を払って新聞漫画を再録・掲載した出版物でした。そこで、「高いライセンス料を払うより、自分たちで自前のコンテンツを作った方がいいのでは?」と気づいた出版社が、ちょっと話が書けたり絵心が多少あったりした若者を集め、新聞漫画を模倣したコミックを作らせたのです。
正直、当時の新聞漫画のクオリティを越える内容のものはそうそうなかったのですが、そうして集められた若者たちの中にスーパーマンの創造者、ジェリー・シーゲルとジョー・シャスターの2人がいた……というわけです。
スーパーマンそのもののルーツにも興味深い話があるのですが、今回は割愛します。大事なのは、スーパーマンが確立させた「スーパーヒーロー」というジャンルが、コミックブック独自のものだったことでしょう(新聞漫画の主人公達も当然ヒーローですが)。いかにスーパーマンがヒットしたといえ、ここまで後追いのヒーローが生まれてきた理由ですが、新聞漫画につきまとっていたライセンス料という経済的な枷から逃れるために、コミックブックは「スーパーヒーロー」という独自のジャンルを必要としていた。だからこそ、多くのヒーローを生み出したのではないか……。というのが先ほどの『Comic Book History of Comics: Comics For All』が提示している見解です。
ゴールデンエイジの終わり
急速に発達したコミックブックのスーパーヒーロージャンルですが、第二次世界大戦が終わる前に衰退を始めます。こちらの原因については、実は納得できる見解に出会ったことがありません。「戦うテーマに飽きたのでは?」などと言われますが、どれも個人的見解の域を出ないな……という感じです。もっとも、何のジャンルが流行って何が廃れるかの理由なんて、現在でもわかりませんからね。いずれにせよスーパーヒーロージャンルは廃れ、代わりに隆盛したのは犯罪、ロマンス、ホラー、SFと多岐にわたるジャンルでした。
スーパーヒーローコミックス自体も、タイトルと内容を別ジャンルへと変えていくことになります。スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンくらいは刊行を続けていましたが、ここで一度ヒーローたちは影を潜めることになります。ヒーローたちが戻ってくるまで、もう何年か待たねばなりませんでした。
次回は1950年代後半からの「シルバーエイジ」とそれ以降についてお送りします!
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