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バカでもバカなりに楽しめる『TAR/ター』

鑑賞前にあまり情報を入れたくないので、この映画も「ケイト・ブランシェット主演」「女性指揮者の話」「何やら緊張感」「ちょっと怖そう」程度の情報&イメージしかなく、『ブラック・スワン』みたいなサイコ・スリラーかなー、ってワクワクしていました。

世界的に著名な女性指揮者が、プレッシャーや緊張感で精神的におかしくなっていく話、なんだろうなーと。
こういう映画ってポップコーンとの相性いいよねー、みたいな。

結論から言うとそんな話では全然ありませんでした。
だけど年をとると自らの非を認めるのに時間がかかるようで、半分くらい観終えて、やっと「うん、これは『ブラック・スワン』ではない」と脳内を方向転換することができました。

鑑賞前に情報を入れたくない!
自分の感性で観たい!
なんて気取っておいて、わずかな情報で勝手な先入観をつくりあげる。
私は本当にバカです。

この映画は簡単に言ってしまえば「リディア・ターという世界的に著名な女性指揮者が炎上するお話」です。
いわゆる「キャンセル・カルチャー」です。


でも、これ以上、この映画について語りたくありません。
だって、きっと、これは、すっごく頭の良い人たちが作った映画だから。
『ブラック・スワン』だー!なんて観にいった私なんかが語り出すと、たちまちバカがバレまくりそうで怖いです。

まずリディア・ターという女性指揮者と彼女を取り巻く人々は架空なのですが、映画中にたっぷり散りばめられた人名や事象、音楽史などは、ほぼ実在する(した)ものと思われます。

だけど、私には、その知識がまるでない。

私は「野球」に関しても無知で無興味なので、たとえば仕事で上司のおじさんに「まるで何々の時の誰々の起死回生の満塁ホームランだな!」みたいな褒められ方をしても、ひたすらポッカーン!としてしまうのですが、そんな時間が映画中にけっこう続きました。

ま、でも、それは理解できなくても映画の大筋には関わらないので大丈夫ですけど。
知っていたらすごく楽しめるだろうなー、という感じ。

それより、リディア・ターは最終的にキャンセルされてしまうほどの権力者なので傲慢なところも大いにあるのですが、彼女を取り巻く人々も、また、リディア・ターの権力の恩恵に与ろうとしていて小狡い感じがします。

主演がただのおじさんだったら「あーいるよねー、こういうパワハラ親父!」で済みそうなものの、ケイト・ブランシェットがそこに立っているだけで魅力的でカッコいいものだから「こんな人に指示されたら従っちゃうわなー」っていう、パワハラだか、カリスマだか、よくわかんなくなってくるんです。

それでいて映画の視点としては、どちらの側にも肩入れをせず、最後まで「答え」や「方向性」を絶対にくれない。
だけど、伏線やシークエンスは、ばんばん散りばめてくる。

それを自分ひとりで解釈しなくてはいけないなんて。
私みたいなバカに無理です。
なので、ここまで書いておいてなんですが、私のレビュー読むより、他の方のレビューを検索するのをお勧めします。

ホント、同じ人類とは思えないほど秀逸で詳細な解釈をしている方とかいて、映画本編以上に楽しかったりします。なんならそれらを読んでから、もう一度、観に行きたい。

私からはひとつだけ。
小学生みたいな感想を。

この映画、2時間半ほどの長い映画ですが、リディア・ターに「友達」というものの影が1秒たりともないんですよね。
パートナー(レズビアン)はいる。
愛人のような仕事のパートナーもいる。
近づいてくる人はたくさんいて孤独ではない感じだけど、リディア・ターの人生に「友達」の匂いが一切しない。

私の仕事場にも「この人は良い人なのか?悪い人なのか?」と思わせる、人を上手にコントロールしてしまうタイプの人たちが数名いて、観察をしてみると、そういう人たちの共通点ってこの「友達がいる気配がしない」だったりするんですよね。

ま、友達絶対主義(何その主義?)でもないし、友達なんていらないという人もいるだろうし、チャラチャラ一緒に騒ぐ人を友と呼ぶか、人生に一人、二人だけを友とするのか、友達の概念も人それぞれですし、それでいいと思うのですが。

人当たりはいい。結構明るい。仕事上の飲み会でも楽しそうにはしゃいでいる。だけど、そういえば、あの人から「友達が…」「友達に…」「友達と…」という話を一度たりとも聞いたことないなー、という人を、私はちょっと警戒します。
ま、仕事場ではプライベートな話をしないだけなのかもしれませんが。

ま、ともあれ、ケイト・ブランシェットの魅力を堪能する映画であることには違いありません。
そこは、賢い人も私のような人も一緒に楽しめると思います。

よかったら、ぜひ。

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