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記憶舞い戻る『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』 (映画感想文)

ネタバレします。
嫌だったら即退散を!



撮影スタッフの若い女性がロンドンの街を何かに怯えながら逃げる冒頭シーンを観て、ふっ、と数十年ぶりに舞い戻った記憶がありました。

それはまだ高校生だったころのこと。

夜の公園のトイレで小を足していると、突然、私より体の大きな外国人2人が入ってきて襲われました。1人に口を塞がれ、もう1人に体を持たれ、彼らは私を一番奥の個室に連れ込もうとしました。

そこはいわゆる発展トイレ(知らない良い子は知らないままでよし!)ではなかったので、目的は体なのか?、それともお金なのか?、それ以外になんかあったっけ? と、そんなことをぐるぐる考えながら暴れていた記憶があります。

個室の鍵が閉められる寸前に逃げ出すことに成功しました。外に出て、わずかな時間でも自転車に鍵をかけてしまう自分の性分を恨みました。開けてる暇はないので、それを担ぎあげて逃げました。今思えば、自転車はひとまず諦めればよかったのに。

ようやく人のいる明るい場所にたどり着きました。気がつけばチャックは開けっぱなしのポロリ状態で、ジーンズは自分の尿でびしょびしょでした。そして、やはり恐怖だったのでしょう。目に涙が浮かんでいました。

…なんてことをすっかり忘れていました。

あまりの恐怖に記憶が抹消された、というわけではありません。単純に忘れていただけです。その瞬間のインパクトは強かったけど、私にとっては、そこまで強く記憶に残る出来事ではなかった、ということです。

ついでに言えば、先日、友人に「セックスドラッグを飲まされたことがあるか?」と尋ねられました(どんな会話?)。

で、思い出しましたが、2度ありました。
深夜のクラブでの出来事でした。
どちらも「あれ?おかしい…」と気づいて、1度目は気力でなんとか持ちこたえ、もう1度はトイレの個室に籠城しました。
尋ねられるまで、すっかり忘れていました。

それがトラウマにならなかったのは、結局のところ大事には至らなかったこと。私がそれらに対抗しえる腕力を持ち、たとえレイプをされても妊娠をさせられることのない男だから、などなど理由はいくつもあると思います。

だけど、男性でもセクハラなどで深く傷つく人はいるわけだから、単なる個体差なのかもしれません。もしくは単なる無神経なのかもしれません。

ともあれ、こんな私に性的な乱暴や屈辱を受けた人の深い苦しみや悲しみの本質などわかるはずもありません。

私の感覚だけでジャッジしてしまえば、多くの人を傷つけ、多くの人に嫌われるでしょう。

だとすれば、学ぶしかありません。

それを学ぶのに『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』はとても適した映画でした。

言わずとしれた『#MeToo』です。
『ハーヴェイ・ワインスタイン』です。
ハリウッドにはびこる闇を暴いたニューヨーク・タイムズの2人の女性記者を中心に、この性犯罪の全貌が描かれます。

性犯罪っていうと、その場で何が起こったのか、ということに目がいきがちですけどね。だから男なんかは簡単に「ちょっと触られたくらいで!」なんて言ってしまうんだけど。

性犯罪が起こって、まわりに訴えても結局は示談にされ、加害者は世にはびこり続け、被害者は示談金では心が癒えず、むしろあの時すぐに逃げ出さなかった自分を責め、示談にしてしまった自分を責め、だけど示談金の代わりに「公言しない」という契約を交わしてしまったから誰にも話せず…深い苦しみや悲しみを胸の奥に潜ませたまま人生を送っている、そういう人たちがいて。

そんな人たちの胸の内を「いいのよ、解き放しましょうよ、みんな一緒だから、悪いのはあっちなんだから」と訴えていたのが『MeToo運動』だったんだな、というのが非常に良くわかる映画でした。

主演の2人がとても良かったです。
キャリー・マリガンは『プロミシング・ヤング・ウーマン』も良かったから、なんだかウーマンリブ担当女優って感じだけど、むしろそんな強そうに見えない人だから逆にリアリティがあるんですかね。

もう1人のゾーイ・カザンは、私はあまり馴染みのない女優さんだったけど大好きになりました。自分の生活のあれこれと仕事への情熱を両立しようと頑張っている、そこらへんにもいそうな働く女性っていう感じのリアリティが素晴らしい。

ちなみに被害者の1人であるグウィネス・パルトローは、当時の恋人ブラッド・ピットに被害を告げると、彼は直接ワインスタインのもとへ出向き啖呵を切ったそうです。

そんなブラッド・ピットがこの映画のプロデューサーに名を連ねています。

そりゃあ、モテるはずよねー。
そんな男なら私だって抱かれたいもん。

良き映画でした。
みなさんも、ぜひ。

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