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ポートランド滞在記録4 【ポートランド流、パブリックセンスを紐解く(後編)】

こんにちは!
前回はポートランドの公共スペースへの捉え方について、暮らしていて感じる体感ベースのことについて紹介していきました。

前半はこちら

さて、今回はその公共への感覚がどういった背景で育まれてきたのかについてポートランド出身の方にお話を聞く機会があったので

お話を聞いたのは、ポートランド出身で日本にも英語教師として10年ほど滞在していたスーさん。現在はポートランドに帰ってきて暮らしているとのこと。

連れて行ってもらったSTOMP TOWN Coffee。
サードウェーブコーヒー発祥のお店ということ。

ガーデンが本当に個性的で素敵ですよねと感想をシェアしたところ、「それは、めっちゃポートランドっぽいところだよね!」と。

やっぱりそうなんだ!

いろいろとお話を聞いていると
実はポートランドもポートランドにも工業化一直線の時代があったらしいのです。
ポートランドの象徴フット山。(日本の富士山みたいな山)
ダウンタウンからそのフット山まで高速道路を整備するという計画があったそうです。
その計画を受けて、ポートランドの豊かな自然環境の破壊につながることを主張し、市民の反対運動が起こりました。結果、計画は中止。
これをきっかけに、既にあった高速道路も撤去され、その高速道路の跡地には公園が作られたということでした。
高速道路の増設に使われる予定だった予算は、一部ライトレールやバスなどの公共交通機関の整備として使われたそうです。
同時期の1979年には都市開発局を中心に「都市成長境界線」が作られ、オレゴン州の法律により都市と農村・森林のエリアが厳格に分けられたようになり、都市部分がコンパクトに設計され、見境なく都市部分の開発が郊外まで及ぶことを防げる法律が制定されたということです。

その結果、都市部のコンパクト化が実現でき、徒歩や自転車公共交通で移動できる環境の整備ができ、郊外で農業が行われる土地が確保でき、都市と農地、自然の共存する環境が出来上がってきたとのこと。

感動。

この時期の市民運動を一つのきっかけに生まれたポートランド市民の誇りがあるから、ポートランドでは自分たちが住んでいる地域を大切にする、その結果が高い環境意識や市民運動感覚、道路や道への公共感覚なのではないかということでした。

ちなみに、庭先にさまざまな主張を書いているフリップを立てているお家がたくさんあります。これもまた公共感覚や市民活動感覚の高さの表れなのかなと個人的に興味深くみています。

近所の庭先のボード一つ目
近所の庭先のボード二つ目。

さらにお話を聞いていると、ネイバーフッド・アソシエーションという地域の自治組織があるらしいのです。
そのワードの組み合わせだけで、個人的な大好物な話題感がプンプンしたのでさらに聞いてみました。

ネイバーフッド・アソシエーションとは
・市に認められた公式な組織
・年間3000~5000ドルの活動予算を渡されているなど行政から指定された正式な組織であるから、その役割のためのサポートも受けている
・地域の景観保全や都市計画策定への参加、歴史的建造物の保存活動、低所得者向け住宅の開発提案など、住民と行政の橋渡しをしており、政策提案なども主な活動に入るのだという。
・基本的には個人で入る
・ポートランド全体で94組織ほどあり必ず各エリアに設置されている。各ネイバーフッド・アソシエーションは地域連合に所属する必要があり、そこの各エリアの連合が行政のトップ5部局との架け橋になるということ。

ちなみに、ポートランドでは市長含めて政治家は5名のみ。「コミッション制度」と呼ばれる体制をとり、市長を含め、「コミッショナー」と呼ばれる5人が日本で言うところの市議会の役割と、行政機関のトップの役割の両方を果たしています。

最初は、日本の自治会?組織と同じようなものなのかなと思ったのですが、聞いていると全然違いそうです。
アメリカではネイバーフッド・アソシエーションというものが結構盛んだったらしいのですが、ここ近年ではかなり活動としては下火になっているとのこと、そんな中でポートランドではネイバーフッドの活動が盛んに続けられているとのこと。


ポートランドシティより抜粋

一方で今、移住者が増えてきたり、新型コロナウイルスの影響もありこのネイバーフッドアソシエーションの活動やポートランドらしい気質が失われてしまってきているということでした。
・近郊からの移住者の拡大により、地価や物価は値上がり元々住んでいたエリアに住んでいられない人が生まれている。
・ダウンタウンは低所得者のホームレスの人が増え、ドラッグなどの元々の社会問題も併せて非常に危険度が高まっている。特に若者のホームレス。
・移住してくる人が増えることで、コンドミニアムなどの建物がたくさん立てられるようになり、景観が崩れ始めている。
・結果、お金に余裕がある層がさらに移り住み結果的にネイバーフッドの活動はやりづらくなり、ポートランドらしさが失われている

ここでもか。
経済的な発展は時に人の豊かな暮らしの環境を奪ってしまう。
自然資本、社会資本、文化資本は蓄積するのは一朝一夕ではできない尊いも
のだけど、壊されるのは一瞬。

今回のことについて語ってくれたスーさんは最後に今はバランスが崩れているだけ、ポートランドはこのバランスをうまく均衡させられると思うよ、と。

持ち前のレジリエンス感覚!!
その感覚をもってしてポートランドがポートランドらしく次の時代に新しい価値を提案してくれることもとても楽しみだなと思ったのでした!

公共空間や庭や道の活用方法の話から市民活動についての話、歴史の話を掘り下げ、ポートランドの人たちのナラティブを教えてもらえたことでポートランドの人たちの体験してきた世界について断片的だけど理解することができたような気がします。

景観があり、そこに人々の暮らしがあり、それを支える仕組みがあり、習慣があり、思考があり、感覚がある。
だからこそ、そこに表出している情景は人々の息遣いそのもので素晴らしく尊いものだなと思います。

それでは!

風の通り道。こちらも近所の方のお家。

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