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つい聞きたくなるスライドは、プル型とプッシュ型で出来ている

リモート会議が増えたこの一年、「スライド共有します」「スライド見えてますか?」というセリフばっかり言っている気がします。

それくらい、画面にスライドを映しながら話すことが当たり前になりました。

そんな中、たまに文字が多くて見にくかったり、どこを話しているかわからないスライドもありますよね(私自身もやってしまいがちなのですが…)。

特にリモート会議は、スライドの見やすさがイマイチだと気持ちがスーッと離れてしまいます。

物理的な距離が遠いからこそ、相手を興味を引き続けるスライド作りが大事だなと改めて感じています。

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ところで、最近、学生向けのあるオンライン研修の講師を担当しました。

テーマは、「アイデアを生み出すファシリテーション術」。参加者は、将来学校の先生になる予定の教育系の学部で学ぶ大学生およそ40名です。

講座の最後の質問コーナー、で学生からこんな感想をもらいました

「先生のスライドが見やすかったです」

おお、ありがとう。ちなみにどのスライドが見やすかった?と聞くと、このページでした。

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おお、これか。

3時間の講座で100枚ほど用意したスライドの中でもかなり最初の方に登場した、導入パートのスライドです。

自己紹介の後、上記のスライドを使いながらアイデアが会議によって生まれる様子を話して、そこからファシリテーションの詳細へと進行していきます。

自分として何気なく作っていたページでしたし、後半にはもう少し凝ったページもあったので、意外な結果でした。

講座が終わった後もしばらく、なぜこのスライドが選ばれたのかなと考えていました。

確かに、文字を大きくしたり、イラストをうっすら下にひくだけで、だいぶ印象は変わります。

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情報量は変わりませんが、情報のスピードというか、頭にすっと入っていく滑らかさが増しているような気がします(自分で作っておきながら、自分で言うのも変ですが…)。

そこで今回は、学生の感想をきっかけに、自分自身が講座やプレゼンで大事にしているスライドの作りについて書いてみたいと思います。

関与度が低いことを前提に、プル型スライドで興味をひく

改めて上記の2枚のスライドを見てみると、ほとんど情報量はありません。

何か情報を伝えたくて作っているスライドではなく、「今から質問をするよ」「今からアイデアの話をするよ」という呼びかけをしている、いわば本や雑誌の「表紙」のような使い方をしています。

では、なぜ私は3時間の講座の冒頭にこのような「表紙」のようなスライドを多用しているのか。

それは、私が「参加者の関与度は低い」という前提で考えているからです。

関与(involvement)とは、関心の高さのことを指します。英語のinvolvementは「巻き込む」「含む」といった意味もあります。講座の冒頭は、参加者はまだ巻き込まれておらず遠くから様子を伺っている、そんな状態をイメージしています。

具体的には、なんとなくこの講座に参加して、「ファシリテーション」という言葉もよく知らない、そんな参加者もいることを強く意識して、スライドを作っています。

これは、日頃の仕事でも同じです。クライアントは前回までの話をあまり覚えていないのではないか、とか、上司は前回の面談を忘れているかもしれない、とか、良い意味で相手の関与度の高さを期待しないで、資料を作っています。

今回は初対面の学生ですから、まずは「今から質問をするよ」「今からアイデアの話をするよ」というシンプルなメッセージを、すぐに理解できる「表紙スライド」を使うことで、相手の興味を引きつけます。

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このような情報を、プル(PULL)型情報と呼ぶことにします。プル型情報とは、相手の興味関心を「引く」という意味です。

ちなみに、右のスライドは「アイデアはどうやって生まれる?」と疑問系で終わっています。このようなクイズ形式のスライドは、参加者の関与度を高めるのに有効です。

テレビのクイズ番組を見ていて、参加者でもないのについ問題を考えてしまう経験があると思います。問いかけられるとつい答えたくなってしまう、そんな人間の特性を利用するのです。

また、今回の講座場合は、講師である私が、参加者である自分を指名して答えさせる可能性が、わずかですが生まれます。それが、さらに小さな緊張感を生み出します。

実際に私が「●●さん、どう思いますか?」と誰かに問いかけでもしたら、「次に自分に来たらどうしよう・・」とドキドキし始めると思います。このような状況を作ることで、関与度はかなり高まります。

このように、講座や会議、プレゼンの冒頭では「プル型」のスライドや問いかけを通じて、参加者の関与度を高めていきます。

参加者の関与度が高まったら、大事なことはプッシュ型で伝える

関与度が十分に高くなったら、情報量を徐々に増やしていきます。

私が特に注意しているのは、何かを定義するスライドや、作業内容を説明するスライドは、なるべく詳しく記入することです。

ファシリテーションの講座では、次のようなスライドを使いました。左が言葉の定義、右があるワークの作業内容のスライドです。

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先ほどのスライドより、かなり情報量が多いことがわかります。

このようなページは、口頭で話すだけでなく、一言一句しっかり画面上で確認できるようにしておくことが大事です。なぜなら、私の話した言葉がうまく聞き取れなかったり、聞き逃してしまっても、全文が書いてあれば問題ないからです。

また、オンライン会議では、大事なページはスクリーンショットを取る人も増えています。定義のようなスライドは、後日見返したり、講座に参加していない人でもわかるように、詳しく書くと喜ばれます。

このような情報は「プッシュ(PUSH)型」、つまり講師から参加者へと「発信する」情報だと言えます。

他にも、プッシュ型スライドの典型例として、政治家が記者会見で使用しているフリップがあげられます。

下記の記事は言葉について書かれていますが、分かりやすく情報がまとめられたフリップの存在も、言葉の普及に一役買っていると思います。

このフリップも、記者会見に参加していない人でもわかるように、分かりやすく作られています。

このように、伝えたいことを1枚にまとめるスライドは、プッシュ型情報の代表例だと言えます。

流れに合わせてスライドの役割は変わる

ここまで、私の講座のスライドや記者会見の事例を参考に、読みやすいスライドとは何かについて考えてきました。

スライドは、一枚一枚を読みやすくすることはもちろん大事ですが、それ以上に参加者の感情に合わせて使い分けるのが重要です。

参加者の関与度が低い前半は、情報を抑えて興味を惹きつける「プル型」に。参加者の関与度が高まった後半は、知りたい情報をしっかり書き込んだ「プッシュ型」に。

図にしてみると、以下のような感じでしょうか。

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流れと情報の型の組み合わせを間違えてしまうと、参加者にうまく伝わりません。

例えば、前半から情報を詰め込んだプッシュ型スライドが続くと話についていけなくて「このプレゼン、よくわからないな・・」と、参加者がスーッと引いてしまいます。

逆に、後半の関与度が高い状態で、ちゃんと知りたいと思っているのに、スライドがスカスカなプル型スライドだと「聞き逃した!もう一回言ってくれ!」となってしまうかもしれません。

プレゼンやスライドを作る時も、聞く人の感情を元にして作ることが大事です。その際は、「自分が期待するほど、相手は自分の話に興味がないかも」と思い、やや低めの関与度を設定しておくとちょうど良いかもしれません。

※Twitterでも投稿しています。Twitterは有名人でもない限りプル型情報の方が良さそう。


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