わたしは父親が死んだのも病名も知らなかった

父が亡くなったのは、私が5年生になる春休みだった

そして5年生から私の心も死んだ

それまでの記憶はほんとにほぼない

ショックで消えた、というのが正しいと思う

消えるもんなんじゃない?と思ってたけど、みんな小さい頃の記憶をよく覚えてたりするもんだから、あぁ消えたんやって後々気付いてきた

それからの記憶も断片的にしかなくて、少し自分を心配する時もあった

ショックで記憶の回路がおかしくなったのか?

でもそのおかげもあるのか、わたしはそこから塞ぎこまずマイナスに病まないで生きてこられたんだ

わたしは表向き明るく、生きにくく消えたいと思いながら実はさみしく生きてきた

最近あることがきっかけでカウンセリングを受けたり、自分のことを話すことをしてきたけど

「よく病まずにこうしてしっかりと優しく、心や命亡くさずに生きてきてくれたね」

みたいなこと言われた

かなりびっくりした!動揺した!

いやいや、大げさな~!

なんて最初は思ってたけど

数人に言われたもんだから、その時初めて

(あぁ、わたしって表向きは何の苦労もなく明るくしあわせに生きてきたように周りに映してきてたけど、、、

自分で自分をそう囲んで見ないようにしてきてたけど、、、

ほんとは辛くてしんどくて孤独でさみしくて、、、

十分心病んでたんやな~)

って気付いて、自分の内に向き合えた

自分の心に向き合えた

今まで自分の気持ちをずーーーっと無視し続けていたんだな!

わたし、ごめん!



小学校5年生になったわたし

そんな自分を形成したきっかけの歳だ

その夜体調が悪くて入院していた父親が、お家に帰ってくると母親から聞いたもんだから、うれしくてウキウキして待ち遠しくて、当時住んでいた5階建てのマンションの道路が見える部屋の窓から弟とずっと車が到着するのを待っていた

しばらくして、確か白いワゴン車が止まって、後ろの扉から担架で運ばれるのが見えて

「あっ!お父さんが帰ってきた!」

って待ちきれずウキウキして玄関に駆けていったら、

「あんた、何を喜んでるの!!」 

叔母に怒鳴られた!

(・・・・・えっ??なに?)

叔母:「・・・・・・・・もしかして、知らんの?聞いてないの?」(ヒステリー気味)

すぐ横にいた母親に

叔母:「この子たちに何も言ってないん??何でなん?」(みたいなこと)

母親:「言われへんわ!」(泣き崩れながら)

叔母:「お父さんは死んだんやで!!!!」


私:「・・・・・・・・・・!!!!!うそや!!」

この瞬間、目の前真っ暗を経験し、周りの声が膜がかかったように聞こえ、動きがスローモーションに見え、自分がそこにいないような不思議な感覚になった

ここの時間だけは、言葉のひとつひとつは曖昧でも、空間としてははっきり鮮明にわたしの心に残っている

消えることはない


時間は待ってくれず、父親は自宅玄関に着き、静かに横たわって担架に運ばれている父親は、何も話さずわたしを見ることもなく奥のリビングへ運ばれて行った

わたしはどう表現してもしきれない、どんな感情かさえ自分でも分からないものをどうしたらいいのか分からず、立ちすくんだ


たくさんの親戚が集まっていた

普段会うことのない遠くの親戚

普段交わることのない親戚同士

父親の退院で顔を見ようと集まっていたのかと思ってた

だから尚更、特別なおめでたいことなんだなって感じてた

退院の日だから!


瞬間的にわたしに恥ずかしいのとショックとで押し潰されそうな感情が襲ってきた!

わたしだけが知らんかったんや!(弟と)

わたしだけ浮かれとったんや!

みんな知ってたんや!

わたしのお父さんやのに!

わたしのお父さんやのに!!

わたし知らんかった・・・・・・・・

そう思ったらみんなのところに行くのも怖くて、顔も合わせるのも嫌で

何よりお父さんは死んだんや

っていうことが段々確信に変わってきてたまらなく悲しかった

たまらなく・・・

だって生きて帰ってくると思ってたから

思ってたんじゃなくて、そうだから!!

わたしのなかでは生きてる!!

でも死んだ・・・・

今でもこの時の感情に当てはまる言葉の表現がむずかしい


わたしは猛ダッシュで自分の部屋の布団の中に潜り込んで、布団を口に思いっきり押し付けて、声を押し殺して泣いた

喜んで笑顔だった自分が、死を知って突き落とされて泣いていることさえも恥ずかしく感じた

隠したかった

とにかくそんな自分の存在を隠したかった

従妹がわたしを心配して、わたしが潜り込んでいる布団に向かって声を掛けてきたとき祖母が何か答えてくれた

はっきり思い出せないけど、安心した記憶はある

従妹に返した言葉から、私の気持ちを少し分かってくれてたと感じたからか


父親の病名は白血病だったそうだ

入院してから1度しか病院に行ったことがなかった

帰ってくると当たり前に思っていて、帰ってこなかった

父親は生きていると当たり前に思っていて、死んでいた

もう話せない

もう触れ合えない

もう、もう、父親はいない

私は38歳

今年で39歳になる

父親が死んだ歳だ


わたしは父親が死んだのも病名も知らなかった


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