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BL名作 『おかえりオーレオール』 のタイトルの意味とは? 実は、めちゃくちゃ難しい作品だった!? 考察 ・ レビュー

近年、ものすごくオススメされる商業BL作品  高津『おかえりオーレオール』の徹底解説です。

その勢いはすさまじく、BL好きなら「『風と木の詩』は読まないと!」や「『同級生』は読まないと!」という雰囲気で語られる様子も珍しくありません。はたして、新しい世代の純愛BLの代名詞となるのでしょうか?

今回は、シンプルな非常にストーリーながら、そのタイトル元ネタの意味を辿ると実はめちゃくちゃ難しい『おかえりオーレオール』と題して、考察していきます。

※ 以下、ネタバレ注意です。




タイトルに込められた「オーレオール」の本当の意味とは?

タイトルに使われている言葉「オーレオール」は、作中で一切の説明がされていません。最後まで読んで、「?」と思った方も多いはずです。

オーレオール (aureole) を辞書で引くと、言語や分野によって様々な意味が出てきます。そこでざっくり簡単にまとめると、太陽や聖像の後ろにある「輪っかになった光」のことです。ちなみに、読み方としては、オーレオールは英語読みが近く、シンプルに「輝き」を意味することもあります。
専門的な気象用語では、「光冠」という太陽や月に薄い雲がかかったときに、光の円盤が見える現象のさらに虹色の色味が曖昧な状態になったもの 、太陽にできる円状の虹のいちばん内側の部分をオーレオールと呼ぶそうです。

虹といえば、同性愛のメタファーとしても使われますよね。しかし、それだけではありません。

今回は、なぜ "おかえり"オーレオールなのか? なぜ"太陽"なのか?を考察したいと思います。



不気味に描かれる "蛾" の元ネタとは?
"中学時代に砕かれる" 意味とは?


本作には、作中で意味深に描かれるも一切説明がないものがオーレオールのほかにもあります。それが、モトに彼女ができたタイミングで生まれる ”蛾"の象徴です。この蛾は、カズによって最終的に「壊した」という表現をされ、まるで砕かれるようにバラバラに描かれることで、元ネタが明らかになります。生きている蛾だったら、「壊した」という表現は変ですから「潰した」とかのほうが自然ですし、絵も、蛾がよく乾燥したものであるかのように割れてバラバラになるのも不自然です。実は、この蛾は、ただの蛾ではなく、蛾の剥製だったのです。
中学時代 - 砕かれる - 蛾と蛾の剥製 - 欲望 - 嫉妬 - 親友 - 大切なもの、と言えば、もう分かりますね。これは、中学校1年生の国語の教科書に掲載されていることで有名なドイツの短編小説『少年の日の思い出』のオマージュになります。エーミールの「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな。」というセリフは、よく話題にされるので、覚えている方も多いかもしれません。

『少年の日の思い出』を覚えていない方に簡単に説明すると、「蛾の剥製」というのは、大切なもの象徴です。同時にそれは嫉妬の原因でもあります。モトにとっては、初めての彼女への気持ちであり、カズにとってはモト自身が大切なものだったのでしょう。

ちなみに、「蛾の剥製」という "人間の手によってコレクションされた生き物" というのは、ラストの「水族館」のシーンや台詞の意味に繋がります。
蛾の象徴が描かれてなくなった後も、モトによってコレクションされてしまった "カズの一方的な恋心" は、水族館のような目に見えないかたちでずっと存在したんですね。

さて、この『少年の日の思い出』という元ネタが重要なのは、実は、蛾のシーンだけではありません!


ラストの見開きの本当の意味!!
なぜオーレオールは"夜"に描かれる必要があったのか?
明かされる 「おかえり」 の真実!!

本作では、クライマックスで作中唯一の見開きシーンがあります。オーレオールの「光冠」意味するであろう、象徴的な月と薄雲が描かれるのですが、このシーンが夜であることは、本作の最重要ポイントといえるでしょう。

オマージュされている作品『少年の日の思い出』には、忘れがちなテーマがあります。それは、子どもは、太陽などの外の自然光で遊ぶものだが、大人になると、人工的な明かりを使って室内で生活するようになるというものです。だからこそ、蛾と月明かりというのは、少年から大人になるにかけての曖昧で印象的なモチーフとして両作品に登場します。

オーレオールというのは、本来であれば、太陽の周りにのみできる円形の虹のことです。虹は、同性愛のメタファーなので、意味をまとめると、「"太陽"のもとで遊ぶ 子どもの時代には、自然に同性愛が目に見えている」ということになります。これはまさに、モトが小3〜18才までを振り返るきっかけとなった冒頭ラストシーンの遊びに駆けまわるモトのカズの二人の姿そのものです。

しかし、大人になるにつれて、太陽の下でのみ見える虹(同性愛)は、見えなくなってしまうんですね。作中で描かれるのが、朝や昼間のシーンから2人が成長するにかけて夜のシーンが多くなっていくのもポイントになります。

そして、同じくコレクションされた生き物であり、大切な欲望という意味で「蛾の剥製」と同じメタファーと判明する「水族館」での発言から、モトとカズはクライマックスの「月」のシーンへと進んでいくのです。

大人になったとしても、(つまり、"夜"になったとしも) 、オーレオールを見る方法 (つまり、"虹"= "同性愛" を見る方法)を2人は見つけました。それこそが、月の下にいくことだったのでしょう。

子ども時代には当たり前に見えていたオーレオールを大人になってもう一度取り戻すからこそ、この作品のタイトルは、『おかえりオーレオール』だったんです。

クライマックスの見開きシーンには、そんな意味が込められていたんですね。



まとめ

いかがだったでしょうか? 実は、難しい『おかえりオーレオール』解説、こんなにも複雑なメタファーの多い作品が人気だなんて、BLはすごい世界ですね。ではまた〜

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