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チンピラ共の夢のあと【5分で読める短編小説(ショートショート)】

「おい!クソガキ!テメーんとこの若いの預かってから今すぐこいや!」

電話を出るなり、名を名乗ることも相手を確認することもなく怒鳴られた。

「どこのチンピラだかしらねーが、まず名を名乗れ」

大きな声を出すことなく冷静に答えた。

「だとコラ!テメー、こいつがどうなってもいいのか?おう!」

ダメだこんなサル以下の奴にまともな会話は出来ないらしい。

無言で電話を切った。こんな非常識な馬鹿と電話するほど暇ではない。

すぐに電話が鳴ったが無視を続けた。すると電話が切れた。

ようやく諦めたか。と思ったが、今度はショートメールが届いた。そこに添付されていた写メを見た瞬間凍り付いた。

幼馴染の健太が全裸にされ血まみれで横たわっていた。それは壮絶なリンチを受けたことを簡単に想像できるほどであり、一瞬誰かわからなかったが、刺青で健太だと分かった。

健太とは同じ団地で育ち、幼稚園、小学校、中学校と同じ学校に通った。中学に入学すると俺と健太は憧れの不良になり、喧嘩に明け暮れ無敗を誇った。

中学卒業と同時に暴走族を作り、あっという間に500人を超える組織になった。その頃には「生きる伝説」と言われ、数々の組事務所からスカウトが来たが全て断った。

20歳でオレと健太はあっさりと暴走族を引退した。

その後、俺らは「何でも屋」になった。

窃盗、拉致、恐喝・・・良いこと以外、頼まれたら何でもやった。特に健太が得意としていたのは薬物関係だ。

頼まれたら、マリファナだろうがシャブだろうが何でも用意した。

しかし、それがある組の逆鱗に触れたらしい。何度か警告を受けていたが、完全にシカトしていた。

そして今日、健太は拉致られリンチをされた。

怒りで震える手で相手に電話をすると健太が出た。

「悪いしくじった。普段だったらこんな雑魚どもに負けないのに」

ドンッ!

「あーーーーー!」

「健太ーー!」

「おい、クソガキ今から1時間以内に1000万もって事務所にこい。住所は後でメールすっからよ。1分でも過ぎたらこのガキ、埋めっからな」

電話を切るとすぐに住所が送られてきた。すぐに家を飛び出しタクシーに飛び乗った。この時間なら30分もかからないだろう。

自分を落ち着かせるため目を閉じた。すると小学校の頃、健太と二人で行った駄菓子屋の光景が浮かんできた。

ある日、健太が隣町の小学生と喧嘩になった。当時、俺たちは4年生、相手は6年生だった。

相手は名の通ったガキ大将。しかも小学生の時の2学年上となると勝ち目はない。しかし、男と男の喧嘩に年齢は関係ない。

タイマンだったので俺も手は出せない。当然、健太はボコボコにやられた。

「俺はまだ負けてねー!」

次の日、健太はまたガキ大将とタイマンを張った。もちろん、ボコボコにやられた。

「だから、俺はまだ負けてねーって!」

次の日もその次の日も健太はボコボコにやられた。

「俺は負けてねーよ!」

いつしか喧嘩終わりに三人でコーラを飲むのが日課になった。

何とも言えない友情が芽生えていた。

結局、最後まで健太は勝ことができなかった。


「お客さん、着きましたよ」

タクシー運転手の声で現実に戻ってきた。

タクシーを降り、雑居ビルの一室に向かった。

事務所の前で深呼吸し扉を開けた。ボコボコにされた健太が目に入った。

無言で健太に近寄り「遅くなって悪かったな。帰るぞ」と言って健太を立たせ、服を着せ出口へ向かった。

その時、一人のチンピラが「おい、クソガキ、金おいていけ!ただで帰れると思ってんのか!コラっ!」と叫んだ!

俺は両手にチャカを持ちチンピラに向けた。

「テメーらこそ、トウシロのガキ相手にここまでしてただで済むと思ってんのか!」と言い返した。

一瞬の静寂が包んだ。すると、部屋の奥で事の成り行きを見ていた親分らしき男がドスの聞いた声で「おい、あんちゃん。トウシロのガキがプロにチャカむけてただで済むと思ってんのか」と言った。

これまで誰にもビビったことがなかったが初めて恐怖を感じた。

そして、俺は一丁のチャカを健太に渡すともう一丁のチャカでエンコを弾いた。

「トウシロのガキが組事務所に乗り込んできてエンコ詰めたんだ。これで手打ちにしていただけないでしょうか?」と親分を睨んだ!

「おい、誰か車回せ!ガキども病院に送ってやれ」

一番下っ端と思しきチンピラが運転する車で病院へと向かった。

しかし、指は死ぬほど痛かったが病院には行かず、俺らはチンピラに駄菓子屋に送ってもらい車を降りた。

駄菓子屋はそこにはなくアパートが立っていた。

「なぁ、健太。俺たち真面目に働くか?」

「そうだな」

「クソガキ、その指で働けんのか?」

背後でチンピラの声がした。

振り向くといつかのガキ大将が3本のコーラを持って立っていた。

「俺は負けてねーよ」










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