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宝箱【5分で読める短編小説(ショートショート)】

お盆でもなければ正月でもGWでもない平日に有給休暇を使い地元へ向かっている。車窓から見える風景と共にあの頃の記憶が徐々に蘇ってくる。

そして、トンネルを抜けた瞬間、20年前にタイムスリップした。

★★★

「そうだ!みんなで宝箱埋めようぜ!」

ある日、学校帰りにワタルが突然言い出した。

私とユウジは何を言っているのか分からず返答に困っていると・・・

「だから、玩具とかを缶に詰めて埋めるんだよ!それで大人になったら開けるんだよ」

どうやらタイムカプセルの事を言っているらしい。私は「楽しそうじゃん!やろうぜ」と言い、ユウジも「俺もやる!」とのってきた。

「よし、じゃ後で宝物もって基地に集合な」

そうワタルが言うと、みんな一斉に家に走り出した。

自宅に着くとランドセルをベッドに放り投げ、手も洗わずに玩具箱をひっくり返し宝物をかき集め、母の「おかえりなさい」と言う言葉とほぼ同時に「行ってきまーす」と言って家を飛び出した。

自転車のカゴに宝物を乱雑に放り込むと立ちこぎで秘密基地に向かった。

到着するとすでにワタルとユウジの姿があった。

「おせーよ!」とワタルとユウジに言われ「ごめん、ごめん」と言って自転車から飛び降りた。

ワタルが持ってきたクッキー缶に宝物を詰め込み、三人で深さ1mほどの穴を1時間かけて掘って埋めた。

その後、興奮気味の三人は秘密基地で1本のコーラを回し飲みした。

「このことは誰にも言うなよ、俺たち三人の秘密だからな」とワタルが言い、ユウジが「いつ開ける?」と言った。

みんなで相談した結果、20年後の今日に決まった。

三人が30歳の9月3日にここで会い開けようとなった。念のためノートに宝の地図を描いた。

『20××年9月3日に3人が揃った時、宝箱を開ける』と地図に書いた。

★★★

あれからちょうど20年が経った。

20年前の記憶を頼りに秘密基地へたどり着いた。すると、ワタルとユウジがいた。「おせーよ!」と、あの時と変わらぬ声が聞こえた。

一瞬でタイムスリップすると、あの頃の二人がそこにいた。

二人は現在も地元に残り、お互い家業を継いでこの街で暮らしている。

「ワタル!ユウジ!久しぶりじゃねーか!成人式以来だから10年振りだな!二人とも変わらないなぁ。しかし、お前らよく今日の事、覚えてたな」

「あたりめーだろ!なんせ言い出しっぺは俺だからよ」

「それに3人揃わないとダメってあの時、約束したろ」そう言いながらユウジが地図をヒラつかせた。

そして、ワタルとユウジが用意したスコップで穴を掘り、宝箱を取り出した。

あの頃のクッキー缶が本当の宝箱に見え、胸の高鳴りが抑えられない。こんなに童心に帰りワクワクしたのはいつ以来だろう?

そして、ワタルが宝箱を開けた。

中にはメンコやキン消し、プロ野球カードなど10歳にとっての宝が詰まっていた。あきれるほどガラクダだが、それらを手にすると自然と笑いが起き、しばらく3人で笑いあった。

「しかし懐かしいな~。あの頃は毎日、ここに来てたよな。明日のことなんか考えないで悩みもなく毎日が楽しかったな」

「何だよお前!その様子だとだいぶ東京にやられてるな!」

「サラリーマンはつれーよ」

「とりあえず飲めよ」そういうとワタルがコンビニ袋から缶ビールを取り出し渡してきた。

10年振りの再開と宝箱を祝して三人で乾杯した。あの頃は3人でコーラ1本だったが今では一人1本のビールだ。

酔いが回り出し、幼馴染と話していたら自然と涙がこぼれてきた。

これまで必死に東京で働いてきた。会社に利益をもたらすことが正義だと思っていた。出世争いの中で裏切りや足の引っ張り合いは日常だった。そして、ある程度の成功を収めた。でも、いつも孤独だった。

仕事に追われ親友との交流もおざなりになり、何のために働いているのか自問自答したことは何度もあった。仕事をやめようと思ったこともあった。

でも・・・今日ここでワタルとユウジという「宝物」と再会し元気が出た。

明日からまたしばらく東京で頑張れそうだ!





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