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マーケティングにも使える!ベストセラーをつくる思考法「書棚ずらし」

こんにちは!

この連載を始めて8カ月。「文章術」をテーマにしてきたのですが、はたと気づきました。自分の主戦場「ビジネス書の編集」についてちゃんと話したことがなかったな、と。

ぼくはビジネス書の編集を10年以上手がけてきて、おかげさまで10万部(全体の0.25%といわれます)も何冊か出すことができました。担当作で一番売れたのは『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(22万部)です。


今回は(とくにビジネス書の)ベストセラーをつくるうえで大切な「ずらし思考法」を紹介します。ビジネス書を出版したい人はもちろん、マーケティングに関わっている人にとっても参考になればうれしいです。

ビジネス書の編集者は、こうやって企画を立てる


ビジネス書の企画を立てるときは、まず大きく2つの方向性から考えます。

1つめは「著者」。ネームバリューがある人、すでにベストセラーを出している人、YouTubeやSNSでの影響力がある人、今後注目されそうな人など「誰が著者なのか?」「どんな実績をもつ人なのか?」は重要なポイントです。

2つめは「テーマ」。純粋に「こんな本があったらおもしろそう!」とドラえもん的に発想することもあれば、「生成AIをテーマにしよう」のようにトレンドに乗ったり、「リーダー×健康術はどうか?」と掛け算したり、「自分(や家族)の悩みを解決できる本をつくりたい」といった課題解決型で考えたりします。

「著者」と「テーマ」のどちらから企画を掘り下げるのかは、編集者によって異なります。著者を見つけるのが得意な編集者もいれば、テーマを考えるのが得意な編集者もいる。割合もまちまちで、「絶対『著者』から決めます!」という人もいれば、「『テーマ』をまず考えることが多いけど、ときどき『著者』から入ることもありますね」という人もいます。いずれにせよ、この2つを掛け合わせて、企画をつくり込んでいくわけです。

今回説明するのは、「テーマ」を見つけるための1つのアイデア(思考法)です。

書棚を変えると、新たな価値になる


どうすれば、売れるテーマを見つけられるか。

この回答は編集者によってさまざまでしょう。「書店に行って売れている本を調べる」「複数のメディアを定点観測して、トレンドや読者ニーズをつかむ」「のんびり散歩する」などなど。

そのなかでも、ぼくが実践的かつ汎用性が高いと思っているのが「書棚をずらす方法」です。書店に行くと、「ビジネス書」「健康」「文芸」「社会」「コミック」などのジャンルに分かれて本が陳列されていますよね。この「書棚」の仕組みを利用して、新しい切り口を考えるわけです。

じつは、ビジネス書の企画において「どの書棚に置くか?」はすごく大切で、これが売れ行きを左右することも珍しくありません。

どういうことか? 具体例を出しましょう。

10年ほど前ですが、『なぜ一流の男の腹は出ていないのか』という本が10万部を超えるベストセラーになりました(ぼくの敬愛する先輩の担当作です)。

この本、タイトルだけ見ると「腹が出ている」とありますし、「健康」の棚に置かれそうな気がしますよね。下っ腹が出てきて健康診断に引っかかった30〜50代の男性に向けて、不摂生な生活による弊害とともに、食事術・運動法などがまとめられている。そんな印象がある本です。

でも、書店の「健康」の棚を想像してみてください。そこに並んでいるのは、水色やオレンジ、ブラウンといったやさしい風合いの本たちで、タイトルや帯コピーも「ビジネス」を連想させるものはまずありません。立ち読みしている人の多くは、女性や高齢者です。つまり「仕事全盛期だけど、体に不調が出始めてきた男性ビジネスパーソン」が気軽に足を運ぶ書棚ではないわけです。

そこで先輩は、こう考えたそうです。

「健康」の棚に置かれたらターゲットに届かない。でも「ビジネス」の棚に置いてもらったらヒットするんじゃないか。

こう予測して、カバーデザインを黒くて男性的な、いわゆる「王道のビジネス書」として仕上げました。書かれていることは「食事術」が中心なので、内容だけ見れば「健康本」なのですが、デザインを「ビジネス書」にしたわけです。

これが見事に的中。結果として、10万部超のベストセラーになりました。「健康」がテーマでも「ビジネス」の棚に置くことで売れると証明した一例となったのです。

*補足すると、どこの書棚に置くかは書店員さんが判断するので、「この本はビジネス書だな」と第一印象で思ってもらえれば、内容が健康でもビジネスの棚に置いてもらえる確率が高まります。

「プログラミング」がテーマの「ビジネス書」をつくる


ぼく自身、この戦略を使ってヒット作を出したことがあります。

2017年ごろ、ぼくはプログラミングに興味があり(というかエンジニアになりたくて)、「自分みたいな専門外の人でもわかる入門書をつくりたい」と考えていました。

ただ、プログラミングの入門書はすでにたくさん出版されていたので、ストレートにつくったらまず売れない。「さて、どう差別化しようか」と悩みました。

そんなときに、ふと降りてきたのが「副業」という切り口です。当時は副業がメディアでも取り上げられ始めた時期で、副業の関連本も徐々に増えている状況でした。

テーマを「プログラミング×副業」にして、「副業」を前面に打ち出すのはどうだろう?

そう考えました。プログラミングの本は、一般に「コンピュータ」の棚に置かれます。何かしらの目的があって行く(あるいは、コンピュータ関連が好きな人が行く)棚であり、足を運ぶ人の数も「ビジネス」や「健康」より少ない。でもぼくと同じように、プログラミングに興味をもつビジネスパーソンは多い気がしました。しかもそれが「副業」となれば、時流にも合うのでは……。

そこで『文系でもプログラミング副業で月10万円稼ぐ!』というタイトルで制作を進めました。

カバーデザインはお金を連想しやすい黄色をベースにしつつ、イラストを散りばめて「脱PC書」を意識しました。狙った書棚は「コンピュータ」ではなく、「自己啓発」や「ビジネス」です。

結果として、3、4万部くらいのヒット作になりました。真正面からプログラミングの入門書を、しかも後発で作っていたら、ここまで売れなかったと思います。

みなさんも、次に書店に行ったとき、ぜひ「書棚」を意識してみてください。「この本が、新たな切り口で別の書棚に置かれたら...…」。そう考える習慣を身につけると、ヒット企画が思い浮かぶかもしれません。

そして、この「売り場をずらす思考法」は、出版に限らず、他の業界でも使えると思っています。

では、また次回の記事でお会いしましょう。



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