小倉竪町ロックンロール・ハイスクール vol.08
「オリジナル曲を演るぞ!」
練習後の反省会では相変わらず厳しいことを言われていたけど、それでも少しずつは進歩をしていた。「カモン・エヴリバディ」と「プリティ・ヴェイカント」、「反アメリカ」、「白い暴動」の4曲がどうにか通しで演奏できるようになった頃、教室でショウイチからカセットテープを渡された。どんな曲かとゲンちゃんのウォークマンを借りて聴いてみると、テープにはラモーンズの曲が録音されていた。
「オリジナルの曲を演るんよね? なんでラモーンズなん?」
「細かいこと言うなっちゃ! イントロんところ変えるけん」
ゲンちゃんは横でニヤニヤしている。もうこのオリジナル曲のことは知っているらしい。
「“スタンド・バイ・ミー”と同じコード進行とかみんな演りよるやん。このコード進行を使えば、誰でも名曲が作れるとぞ!」
悪びれずそう言うショウイチに「それはそうかも…」と思ってしまった。ロックンロールの曲をコピーしてみると、キーは違えどほとんどが3つのコードの組み合わせで、パターンがだいたい決まっている。
「これでパクリとか言いいよったら、ロックとかみんなパクリやけね」
ゲンちゃんも同調してくる。
「好きなバンドから影響を受けるのはフツウやろ? それやったらオリジナルの曲が似てしまうのは当たり前やん」
そう言い放つショウイチの後ろにはセイジくんもいるが、何も言わないので、「そんなもんかな…」と思った。
「オレが次の練習までにカッコ良い歌詞を書いてきちゃるけん、その曲を研究しとけよ!」
歌詞はショウイチが書くらしい。
きあがった歌詞は、「崩せ! 崩せ! 崩してしまえ! 今すぐヤツらの目の前で…」と繰り返すものだった。「何が不満なん?」「“ヤツら”っち誰ね?」とかツッコミどころ満載だったけど、それを歌うのはショウイチだし、「こんな歌詞でも考えるのは大変やったろうな…」と思って黙っていた。
ショウイチからの言いつけを素直に守り、ラモーンズの曲を研究(コピー)したボクは、ベースのルート音をひたすらダウンピッキングで弾いた。ゲンちゃんもラモーンズのようにエイトビートをひたすら刻んでいた。でもこのままだとラモーンズのコピーになってしまう。だからイントロとスローになる部分はカットして、最初から最後までひたすら突っ走るようにした。そして3番にはセイジくんのギターソロ。間奏が入ることでラモーンズぽさはぽさは薄まり、オリジナル曲が完成した。
「なんかイイ感じやん! 名曲ができあがったんやない?」
ショウイチは自画自賛した。
オリジナルだから、どんな下手くそな演奏でもそれが正解になる。できるテクニックの範囲で、自分が弾きやすいように弾く。「オリジナル曲ってなんてラクなんやろ…。でもこんなんでオリジナルち言っていいんやろか?」と思った。
こうしてうちのバンドで唯一のオリジナル曲がレパートリーに加わった。
少し前になるが、一緒にルースターズのライヴに行った地元の友だちが、バイト先の先輩から人間クラブのデモテープを借りてきた。人間クラブは、ルースターズの前身バンドで、北九州では伝説のバンドだ。貴重なテープなので、ダビングさせてもらった。
そのテープはダビングしてバンドのメンバーにも渡したし、さらにそのテープもダビングされて友だちの友だちに渡されていったはずだ。
「どうしようもない恋の唄」や「ハーリ・アップ」といったルースターズでもお馴染みの曲が収録されたデモテープは、すべて人間クラブのオリジナル曲と聞いたが、メロディはロッカーズの曲とそっくりな曲があったり、歌詞は博多のサンハウスや京都の村八分を参考にしたのではないかと思うような曲があった。
ルーツ・ミュージックが同じだと、偶然に似てしまうことがあるのかもしれない。それともこれはオマージュと言うヤツなのだろうか?
深く難しく考えるようなことはしないボクらは、「ロックなんやけん、カッコ良かったら何でもありやん!」と思っていた。
できあがったオリジナル曲を加えてもまだ5曲。1ステージ分にはぜんぜん足りない。ショウイチとゲンちゃんが持ってきたテープの中から、モッズの「うるさい!」とダムドの「ラヴ・ソング〜マシンガン・エチケット」の練習も始めた。
「ダムドとか誰も知らんやろ? だってオレも最近まで聴いたことなかったもん。歌詞を書いてみるけん、オリジナルちゅうことにせん?」
ショウイチがそんなことを言い出した。
「英語の歌詞をおぼえるんがイヤなだけやろうが!」
「ちゃんと歌詞くらいおぼえてこんね!」
「オレらも練習が大変なんやけん、少しはオマエも苦労せんね!」
3人でツッコミを入れた。
ダムドが3大パンクバンドの一つに数えられているメジャーなバンドだってことをボクらはまだ知らなかった。
「こんな陰気な曲があるんやん…」
最初はダムドの曲がイヤでイヤでたまらなかった。
これでもまだ7曲。まだ足りない。ミーティングでメジャーな曲のカヴァーを演ろうということになり、セックス・ピストルズの「ザ・グレート・ロックンロール・スウィンドル」から「恋のピンチ・ヒッター(Substitute)」「ロック・アラウンド・ザ・クロック」「ジョニー・ B ・グッド」も練習曲に加えた。
ピストルズのレコードでもカヴァー曲はおざなりな歌詞で歌われているが、ショウイチはもっといい加減だった。「ロック・アラウンド・ザ・クロック」は「ロック、ロック、ロックンロール」としか歌っていないし、「ジョニー・ B ・グッド」は亜無亜危異が歌っている日本語詞を少しだけ変えて歌うようになった。(「亜無亜危異の前座を演るのに、さすがそれはないよな…」と思ったが、ショウイチは気にしていなかった。
歌詞について、セイジくんはあきらめてしまったのか、だんだんショウイチに注意しなくなっていた。
とりあえず本番に向けて、これ以上レパートリーを増やすのはやめた。
※亜無亜危異のライヴまであと42日
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