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杉本博司『瑠璃の浄土』展を訪ねて   (京都市京セラ美術館で〜10/4まで)

生まれ変わった「京都市京セラ美術館
 およそ3年間の改修期間を経たあと、本来なら今春にリニューアルオープンするはずだった京都市京セラ美術館。新型コロナ対策のため開館が遅れていたが、このほどようやくオープンした。6月下旬からは県外来場者も入館できるようになり、本格オープン。まずは新たに生まれ変わった京都市京セラ美術館と新型コロナ対策に配慮した入場方法から説明しておこう。

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 1933年(昭和8年)に開館し、日本で最も古い公立美術館建築としての歴史を誇る京都市美術館。リニューアルした建物は、なんとエントランスをこれまでの一階から新たに掘り下げた地下一階に移動させた。これによって来館者の導線がスムーズになり、ミュージアムショップと喫茶室を地下に設け、ゆったりとした空間構成になっている。しかも外装も内装も伝統的な建築様式を残しながら、曲線による現代的なフォルムとを融合させて新しい時代の美術館を印象づけた。

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螺旋階段と伝統建築を組み合わせた一階フロア

 新型コロナ対策として、来館には全て事前予約が必要に。登録の際には名前や連絡先を記入が必須で、開館から30分単位で入場時間を選べるようになっている。窓口で聞くと、当日ふらっと美術館に来ても予約に余裕があれば入場できそうな口ぶりだった。ちなみに企画展、常設展ごとに予約が必要。受付で美術館からの返信メールを見せて建物の中へ。チケットを買うと、アルコール消毒と検温モニタリングを経て展示室へ。「三密」を防ぐためには、これが「新しい日常」に基づいた美術館利用のスタンダードになるのではないか。混雑してなかったのでスムーズに入館できたが、人気展や週末はどうなるのか?運営側の試行錯誤はこれからも続きそうだ。

写真アーティスト・杉本博司の世界
 杉本博司は1948年生まれのニューヨーク在住。写真を芸術の域にまで高めた作家の一人だ。博物館に展示された野生動物のジオラマを写した「シロクマ」はニューヨーク近代美術館の所蔵作品となっている。そのほか、世界中の海の水平線を写した「海景」シリーズは、あの人気ロックバンド「U2」のアルバムジャケットにも使われたことでも知られる。古今東西の美術コレクターとしても知られる一方、最近は建築家として手掛けた作品も多い。

海景

代表作「海景」シリーズ

京都では初めての本格的な個展となる『瑠璃の浄土』展では、杉本のガラスへのこだわりを打ち出した内容となっている。瑠璃は一般には「群青色」をさす言葉だが、杉本によれば古代より「硝子」を表す言葉だったという。杉本はガラスの魅力について、「硝子は光を通過させる透明な物質で、その形だけが凛として存在する神秘な物質だ」と話す。

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特殊ガラスで作られた小さな五輪塔。球体の中には自身の「海景」の風景が閉じ込められている。この作品について杉本は「私はこの硝子の魔力に魅入られて多くの作品を作ってきた。世界中の海景をミニュチュア化して光学硝子に封印した光学硝子五輪塔もその一つだ」。硝子を記憶と時間を永遠に閉じ込めてしまう物質と表現している。

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硝子の箱

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OPTICS

杉本が問いかける、令和の「浄土」
 中でも圧巻は、杉本のライフワークでもある「仏の海」。京都・蓮華王院三十三間堂に並ぶ、国宝の1000体の千手観音立像を早朝の光だけで撮影した連作だ。杉本がこの作品を撮影したのは1995年。三十三間堂はあの平清盛が後白河法皇のために造営したものだが、この時の撮影について「私は後白河法皇が見ていた平安末期のある瞬間に立ち会っているかのような錯覚を撮影することができた」と語っている。今回は、千手観音立像の作品と合わせて、その中心に坐す「国宝・千手観音坐像(中尊)」の写真も初公開された。技術的な問題から完成までにこれまで時間がかかったそうだ。美術館に再現された、後白河法皇のみた浄土の世界。京都であればこそ見ておきたい作品である。

三十三間堂

 また今回の個展では杉本の膨大な美術コレクションの中から、硝子にまつわるものが色々と展示されている。驚くのは古墳時代に出土した副葬品の中に、驚くほど美しい硝子細工の美術品が多いことだ。硝子の持つ美しさに目を奪われる。

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古墳時代の硝子の腕輪

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古墳時代のガラス玉

 「硝子」という物質にある種の永遠性を感じ、浄土の風景を重ねた杉本博司。京都で初めてとなった今回の本格的な個展について杉本は「私にとってこの展覧会は瑠璃の浄土という仮想の寺院を建立するという行いである。日本人は長い間その心の中で浄土を希求してきた。しかし今の世ではその心は失せてしまったようだ。浄土は今、美術となったのだ」。世界的なアーティストである杉本が、この令和の時代に、しかも疫病で世界全体に大きな不安が漂う中で「浄土」を再現しようとしたその試みは、ある種の祈りを感じさせるものだった。杉本博司「瑠璃の浄土」展は、2020年10月4日まで京都市京セラ美術館で開催される。

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杉本博司氏

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(了)

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