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パリにあらわれる配管

ポンピドゥセンター 

この建物を初めて見たときの印象は「なんだこりゃ」だった。

世界でも有数な歴史的都市であるパリの中心地に、突如としてあらわれる原色の配管が突き出た奇抜な建物。

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建築を始めたばかりの何も知らない私は、当然のように拒絶反応を示した。「パリの中心地にこんな建物をつくるとは何事だ!」と1人で憤っていた。

しかしこの建物、知れば知るほど面白いのである。

ポンピドゥー・センターはジョルジュ・ポンピドゥー元大統領がパリに芸術拠点を作る構想をし、1977年に完成した。

設計者は当時、フランスで初めての国際コンペで選ばれたイギリスのリチャード・ロジャースとイタリアのレンゾ・ピアノのユニット。そんな2人が設計したポンピドゥー・センターの特徴はただ一つ

普通は隠すものを外に出してしまったのである。

外観で最も目につくのは青い管だ。

この青い菅は空調のダクトである。普通空調ダクトは、天井裏やダクトスペースに隠れているから表には見えない。それに隠すものだから美しくはない。

しかし、当時悪ガキだったこの2人の偉大な建築家は、こともあろうに、格式高きパリの中心地で、その美しくないものを晒してしまったのだ。

しかし、なぜ外に出したのだろうか。こんな建物をパリのど真ん中に建てたら、それはそれはものすごい騒ぎになることは当然予測できたはずである。実際、完成後はものすごい批判を浴びた。そこまでしてなぜ。

世界的に有数の歴史的都市であるがゆえに、国としても民意としても、都市を保存しようとする力が働くのは当然である。

そんな空気を若い悪ガキ2人は気持ちよく感じなかったに違いない。

パリの街の新陳代謝を促したかったのではないだろうか。異物を挿入することで、新たな風を吹き込もうとしたのではないだろうか。

ポンピドゥーセンターは、当時は猛烈な批判を浴びたが、現在はパリになくてはならない場所となっている。新型コロナウィルスによる一時閉館が明けた際は、長蛇の列ができたとのことだ。

当時はまだそれほど知られた存在ではなかったものの、現在は2人とも世界的建築家として活躍し、建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞も受賞した。

しかし、本当にすごいのは、パリの中心地にこのような建物をつくることを許可したポンピドゥー元大統領である。元大統領は、建物の完成を見ずしてこの世を去った。元大統領は今や偉大な世界的建築家となった悪ガキ2人の先見性を見抜いていたのだ。

その先見性に脱帽である。






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