諦めたらそこで試合終了 (建築設計実務の教科書 vol.6)
妻と娘が今さらながらスラムダンクにはまっている。だからと言うわけではないが、安西先生のセリフを引用させて頂いた。
そう、この伝説的な名言は、建築設計の実務にもしっかりと当てはまるのである。
「建築ってカッコイイ図面を描けば、カッコイイ実物が出来上がるんでしょ」と思われがちである。確かにそうとも言える。しかし、それだけでは不十分である。
建築は膨大な決定事項の集積の上に成り立つ。そのひとつひとつの決定の質が立ち上がる実物の質になる。
その決定事項は設計段階ではもちろんだが、工事現場でも山のようにある。
現場ではその勝負の瞬間が何度も何度もやって来る。
しかし、勝負が自分の思い通りになることは1割にも満たない。
例えば、「壁に木を貼りたい」と言っても「予算内に納まらない」「クレームになるからだめ」「法律に適合しない」、そんなことの連続だ。
それらの決定事項は、図面やパースで十分検討して判断するのだが、あまりにも思うようにいかないと、だんだん気が滅入ってくる。
「どうせ時間をかけて検討しても無駄だ」と、諦めムードになってしまう。
しかし、そんな時こそ安西先生の顔を思い出さなくてはならない。「諦めたらそこで試合終了」。
そこがまさに勝負の分かれ目なのである。諦めて決定の質を下げてしまうと、そのまま実物の質に直結してしまう。
独立前に勤めていた建築設計事務所で、一軒の住宅を担当した。その住宅への思い入れは強く、休みの日も出勤して図面を描いていたほどだった。
しかし、現場が始まると他の物件も忙しくなり、なかなか力を注ぐことが出来なくなってしまった。いつしか現場任せになってしまい、決定の質は下がり続けた。
結局、無事完成はしたが、細かい部分は十分に検討されているとは言えず、自信を持って人に見せれるものにはならなかった。
しかも、お施主様にもそれが伝わってしまい、なんとも後味の悪い結果となってしまった。
それ以来、二度と同じ過ちを繰り返さないと誓った。最後まで諦めないことを自分の当たり前とした。
世界の巨匠にも数えられる建築家ルイス・カーンは、工事現場でボルト一本の納りを現場監督と延々と話し合っていたそうだ。あまりのこだわりに、現場監督は参ってしまったという。
それは極端な話だとしても、やはり巨匠と言われる人は最後まで諦めなかったのだ。
私も最後まで諦めない姿勢を貫き通したい。
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