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森のカブトムシ学校

息子の友達が泊まりにやってきた。

「何がしたい?」

「カブトムシが採りたいです」

おおっ、やっぱり男の子だなぁ。最近の子ども達は、野生のカブトムシよりホームセンターなどで売っているのしか見たことがない。森の木にとまっているカブトムシをつかまえてみたいのだ。
これはなんとかゲットしなければ。

「カブトムシは夜行性やから夜に採りにいくけど大丈夫か?」

「ハイ。大丈夫です」

これはかなりのプレッシャーだ。なんとか一匹は採らないといけない。
1日目、夜の8時に山の麓のクヌギの木がある場所へ向かった。

「いるかなぁ」

ワクワクしながら懐中電灯を照らす。

「オバケいないよね?」

「さあ、わからんな」

「えー」

「ウソウソ」

そんなことを言いながらクヌギの木を照らすと

「いた!」

ノコギリクワガタが

「スゴイ!あれ何?」

黒い虫が

「ゴキブリやな」

夜間はスズメバチはいないが、いろいろな虫がいる。カミキリムシ、ムカデなど。

「あっ、カブトムシ」

よくみるとメスのカブトムシだ。

「捕まえてみ」

恐々、捕まえると満面の笑みを浮かべる。

「ヤッター」

最高の瞬間だ。帰り道

「ぼく生まれてはじめてカブトムシ捕まえた」

こんなに喜んでくれたら、こっちまで嬉しくなる。

「明日はオスだ!」

さあどうなるか?


翌日、あまりに暑いので

「川でも行くか?」

息子と友達に言うと

「行きたい、行きたい」

吉野川に行くことにした。
奈良には海がないので、泳ぎに行くなら、プールか川しかない。プールより川のほうが、断然に涼しい。
車で1時間も走れば、川遊びができて泳げる場所に行ける。普通ならテントを張って太陽の光をさけるが、木陰を探してその下にレジャーシートを広げて弁当を食べた。

「さあ、自由に遊んでや」

浮輪も膨らませ、川に流されたり、泳いだりして子ども達は遊んでいた。

「お父さん、魚とりたい」

「じぁやるか」

短い網を片手に川に入る。

「だいたい、川の際の草の下に魚は隠れてるねん」

そう言って、草の下に網を突っ込んでガサガサやると網に魚が入っている。

「やってみい」

息子と友達はガサガサやるが

「採れないよ」 

「もっと下までグッと突っ込まんと逃げられる」

素直にやると

「なんか採れた」

「うわーカニ」

魚、おたまじゃくし、カニいろいろと採れて興奮していた。

「もうそろそろ、戻ろか」

レジャーシートまで戻ってお茶を飲む。

「もうちょっと泳ごう」


そう言って二人で川に入る。
私は、レジャーシートで横になってくつろいでいた。

「これがニクセンかなあ」

何もしないで、川の音、セミの鳴き声に耳を傾けていた。ほんとにリラックスできた。そんなリラックスタイムも

「お父さん網、網。魚がいっぱいだ」

水中メガネをして川をのぞくと、別世界が広がっていた。透き通った水の中で魚たちが泳ぎまくっている。二人は必死になって潜って魚をゲットしようと頑張っていた。

「見える魚はなかなか採れないで」

そんな言葉も彼らの耳には入らない。ひたすら泳ぎまくっていた。あっという間に日が傾いてきた。

「さあ、帰ろう」

最後の最後まで粘るが魚は採れなかった。帰り道、温泉で汗を流しサッパリとする。

「惜しかったね」

「もうちょっとで採れたよ」

そんな会話が車の中で交わされていたが、次の瞬間、車の中が沈黙に包まれた。バックミラーを見ると、二人は首を傾けて爆睡していた。
魚になった子ども達は眠りについた。


短い夏休みが終わる。
川遊びで車の中でぐったり眠っていた子ども達。家に帰って夕食を食べると復活していた。

「最後の夜だから、カブトムシのオスを絶対に採りたい」

二人は意気込んでいた。

「まあ、風呂に入って来い」

「ハイ!」

そう言って風呂場へ向かっていった。

「なんとかして、採らなあかんなぁ」

カブトムシがいそうな場所を何か所か考える。
風呂上がり

「さあ、行くか?」

「行こう!」

少年二人と元少年で車に乗り込む。先ずは、前夜カブトムシのメスがいた場所へ。樹液が溢れるクヌギの木には、カナブンとコクワガタだけだった。

「いないねえ」

20時を過ぎて暗くはなっているが、少し早い感じした。

「違う場所へ行こう」

車の停めた場所に戻ると、別の家族が虫かごを持って歩いてきた。

「今夜はライバルが多そうだね」

週末の夜だから仕方ない。車を運転していると

「やっぱりオスは採れないかなぁ」

「どうかなぁ」

「採れないことないよ!」

「そうやなぁ!神さまに祈れ」

すると、何を考えたのか歌声が後部座から聴こえてきた。

♪神さま どうかどうか 一匹だけでいい
カブトムシをつかまえさせてください♪

どこかで聴いたメロディーだと思ったら米津玄師のorionの替え歌だった。あっという間に車内は大合唱になっていた。
次の場所に着くと、人の気配がない。

「これはイケるんちゃうか」

「ホントに」

三人で森の中へ入っていく。以前、カブトムシをつかまえた木に着く。LEDライトを木に照らすがカブトムシらしきものはいない。

「んーあかんな」

「いない」

「もう一本だけみてみよ」

そう言ったが、たぶん無理かもしれないと思っていた。
カブトムシがいそうな木をみつける。クモの巣が侵入を阻んでいた。クモの巣をはらい、ライトを照らすと黒く光るものが。

「オイ!いたかも」

「エー!」

ゆっくりと近づくと、そこには立派なツノをつけたカブトムシのオスが樹液を吸っていた。
緊張しながら、短いツノをつかんで少年二人に

「ゲットしたぞー」

「うわー!ヤッター!」

森の中で三人で叫んでいた。
飼育ケースに入れて少年二人は

「カッコイイねえ!」

「やっぱり神さまが叶えてくれた」

「ホンマやな感謝やな」

まるでマンガのような結末だった。自宅に帰って三人で乾杯した。私はビール、子どもはカルピス。

「カブトムシおめでとう🎉カンパイ」

「カンパイ」

久しぶりに感動した。カブトムシ採りでこんなに興奮するなんて、子ども達のおかげだ。

次の朝、

「おはよう」

と声をかけると

「おはようございます」

なんとなく元気がない。朝ごはんもあまり食べない。

「どうした?疲れたか?」

「そんなことない」

「帰る準備しなきゃ」

二人には、お別れの時間が近づいていた。

「お昼にはお母さんが迎えにくるって」

どんどん言葉数が減っていった。そして、お母さんが迎えにきた。

「あっという間にだったね」

「そうだね」

「また、来たらええ」

「本当に」

「うん」

お母さんの車に乗り込んでガラス越しに手を振っていた。車が走り出すと

「バイバイ」

息子も目一杯、車が見えなくなるまで手を振っていた。振り向いた息子は、ポロポロ涙を流していた。
ふと忘れていた、あの日の感情を思い出した。
あかん、こっちまで泣きそうになってきた。

夏休みは子どもを成長させる。

そして、大人もちょっと成長させる。






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