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親の様子がおかしい? 認知症の兆しに早く気づいて対応するために必要なことは

両親と離れて暮らしている方にとって、たまに会う両親の様子が少し変わっていても、すぐに病気の予兆だと捉えるのはなかなか難しいもの。

ですが、昔と違うと感じた場合、もしかしたら認知症を疑う必要があるかもしれません。例えば、食器を洗い忘れている、料理の味が変わった、ゴミの分別ができていないなどの変化は認知症の代表的なサインです。

親が認知症かもしれない、と思うと不安になります。介護や見守りが必要になるのか、お金や保険はどうすればいいのか……。そんなときは落ち着いて、いま何をすべきかを考えることが大切です。

以前、遠距離介護をされている工藤広伸さんによる『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)という本を記事で取り上げ、親の言動に違和感があった際に確認すべきことを紹介しました。

不安を感じている方や、いざというときに備えておきたい方は、まずはこの記事を読んでいただければと思います。

今回は、その続きを抜粋して紹介します。ネガティブな情報に押し潰されないために必要な考え方や、頼れる人のリストアップ、嫌がる親を病院に連れて行く方法など、認知症のサインを見つけた段階からやるべきことが解説されています。

多くの方が両親と離れて暮らしている現代では、様子を見るにしても介護をするにしても、遠距離をどう克服していくかが重要です。ぜひ、著者・工藤さんの経験が詰め込まれた本書を参考にしてください。

以下、『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』の「1章 親の様子がおかしいな? と思ったら」の7~12を抜粋します。掲載にあたって編集しています。

1~6についてはこちらから読むことができます

7 ネガティブな認知症の情報につぶされないために

一番不安に感じているのは親自身

皆さんは認知症に対して、どのようなイメージをお持ちですか? 認知症になった親は何もできなくなる、住み慣れた自宅での暮らしはあきらめ、精神科病院や介護施設で生活してもらうしかないと考える方も中にはいます。

認知症と診断され、大きな不安を抱えているのは、子よりもむしろ親自身です。自分の人生に絶望し、自暴自棄になっているかもしれません。また、誰にも相談できず、孤独や不安を抱え、何も手につかない状況かもしれません。そんなときに親子で読んで欲しい、ある宣言があります。

認知症とともに生きる希望宣言

認知症当事者の団体「日本認知症本人ワーキンググループ(JDWG)」が発表した『認知症とともに生きる希望宣言』をご存知ですか? すでに認知症と診断された当事者の皆さんから、すべての人々に向けたメッセージです。

認知症になっても自分の人生をあきらめず、新しいことにチャレンジし、よりよい人生を生きていこうとする、認知症当事者の気持ちが分かります。それなのに、介護する側が親の人生を勝手にあきらめたり、チャレンジする機会を奪ったり、自立を妨げたりしてしまうことがあります。

認知症介護を始めるうえで、まずはネガティブに偏った認知症の情報から脱却して、冷静に親の自立への可能性を模索しましょう。認知症に対する正しい知識や情報を集めることで、親が元気で自立していられる期間を長くすることができますし、親の不安を解消できるかもしれません。

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8 親自身が介護している場合、子は何をすべきか?

「老老介護」「認認介護」の問題点

厚生労働省の「国民生活基礎調査」(平成28年度)によると、65歳以上の高齢者同士で介護を行う老老介護の世帯の割合は、54.7%です。

老老介護の問題点として、介護者の筋力低下が原因で、思うように身体介助ができない、介護者自身にも健康上の問題があり、共倒れのリスクがある、無職で収入がない、社会から孤立していることなどがあります。

また、老老介護の中に、認知症の高齢者が認知症の高齢者を介護する認認介護もあります。山口県のデータでは、老老介護のうち、認認介護の割合は10.4%でした。認認介護の問題点として、薬の飲み忘れ、食事の準備や金銭管理の困難、火事のリスクなどがあります。

離れて暮らす高齢の親を、同じく高齢のもう片方の親や親のきょうだいが介護していたり、高齢の親がさらに上の世代の、自分の親を介護していたりするケースもあります。

親から連絡がないと、元気にやっていると思いがちですが、子どもに迷惑をかけたくないから、連絡しないだけかもしれません。老老介護や認認介護が深刻になる前に、親の様子をチェックしておきましょう。両親の共倒れから、子が急に介護することになり、介護離職する人もいます。

子は頭を使って親を支える

親の介護の状況を知って、子は自分で介護をしようと考えがちですが、親が利用していないサービスや制度の調査から、まずは始めてみましょう。親より子のほうが、情報収集能力に長けています。親の介護を、知恵や工夫で支えてあげるのも立派な介護です。

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9 いざというときに頼れる人をリストアップしよう

子である自分が頼れる人をリストアップ
 
65歳以上の親と子の居住地がどれくらい離れているかを調査した、第8回人口移動調査(2016年度)によると、親子が別に暮らしている割合は55.1%でした。

このことからも、離れて暮らす親を介護する割合は多く、いずれ子が親の介護のために通ったり、ふるさとに帰ったり、親を子の近くに呼び寄せたりという選択を迫られる可能性があります。そうなる前に、いざというときに頼れる人をリストアップしておきましょう。

確実な対応・認知症への理解があるかで選ぶ

リストアップのポイントは、確実性と認知症への理解度です。確実性は、親の様子を見て欲しいと依頼したとき、確実に対応してくれるかどうか、認知症への理解度は、認知症への正しい知識を持ち、症状への対処法を理解しているかを指します。

まずは介護保険サービスを利用して、決まった日時に訪問看護師、ヘルパーといったプロの目で見守る体制から構築しましょう。それ以外で緊急対応が必要な場合は、家族の要望に確実に応えてくれて、認知症への理解度の高い人から、優先的に依頼しましょう。親の近くにいるご近所さんは頼りになると思いがちですが、認知症への理解がない場合もあります。

最後に、自分自身をリストに加えてください。認知症介護において、家族にしか分からない、判断できない場面は必ずあります。いつでも自分が駆けつけられるよう、自分の働き方を見直し、自分の時間に柔軟性を持たせるようにしておくことも大切です。また、家族などの理解も得ておきましょう。

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10 介護で会社を休むための休暇とその使い方

介護休業・介護休暇の違いを理解しよう

親の介護が理由で会社を休む場合、育児・介護休業法で定められている介護休業・介護休暇を取得できます。介護が始まる前に、就業規則を確認しておくと安心です。

事業主は介護と仕事の両立ができるよう、柔軟に判断することが望ましいとされていて、医師の診断書を提出しなくとも、負傷、疾病、身体や精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする要介護状態の基準に該当すれば会社を休めます。

介護休業は、休業開始日から2週間前に会社へ書面で提出するという側面からも、介護の態勢を整えたり、介護施設を探したりするなど、計画的に長期で休む際に利用するものです。介護休暇は、口頭で当日電話申請しても問題ないので、親の急な病気や介護のときに、突発的・単発的に対応する際に利用しましょう。

現実的には、親が認知症かどうかを判断するまでに時間がかかってしまうため、有給休暇や代休を使いながら、会社を休むことになります。

介護休業は自ら介護するための休みではない

介護休業は自ら介護するためではなく、介護の態勢を整えるための休みです。介護休業・介護休暇によって、経済的に追い詰められることのないよう、貯金等を確認しておきましょう。

休業取得の一番の壁は、自分自身です。職場に迷惑がかかるからと休みを取らず、介護と仕事の両立で疲弊したり、誰にも相談できずに介護離職したりするケースが多いです。会社の人事や親が住む地域の地域包括支援センターに相談してみましょう。

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11 もの忘れ外来を調べておこう

医師から教わったいい認知症の医師の条件

離れて暮らす親に認知症の疑いがあったとき、どの病院を受診したらいいのでしょう? もの忘れ外来、脳神経内科・外科、老年科、精神科、メモリークリニックなど、種類も名称も様々です。また医師も、画像診断が得意な医師、問診に力を入れる医師、地域と連携している医師など様々です。

認知症は基本的に完治しないので、他の病気と比べて医師との付き合いは長期間にわたります。そのため、医師と相性が合わないと、ストレスを抱えたまま、診察を受け続けなくてはなりません。

わたしの知り合いの医師に、どういった認知症の医師を選ぶべきか尋ねたところ、人柄がいい、認知症の人や家族の話をよく聞く(問診を大切にする)、画像診断に頼り過ぎない、認知症の薬や他の薬を出し過ぎない、看護師や病院スタッフに高圧的ではない医師がいいと、教えてもらいました。

家族は大病院や最新設備のある病院に親を連れて行きたいと考えがちですが、それよりもこれらの条件に当てはまる医師のほうが、認知症治療の場合はいいようです。

認知症カフェで病院を見つけるのがおすすめ

病院探しは、あとで解説する地域包括支援センターに相談するのが一般的ですが、中立な立場が求められ、いい医師の情報まで得られない場合もあります。おすすめは親が暮らす地域の認知症カフェへ行き、他の介護者から病院の口コミを入手することです。

また、親のかかりつけ医から、連携している専門医療機関を紹介してもらうのもオススメです。情報量に地域差のあるインターネット検索だけでは、厳しいかもしれません。

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12 いやがる親を病院へ連れて行くには?

病院受診までに1年以上要する人は3割

「認知症の疑いがある親を、すぐ病院へ連れて行きましょう」と言われても、簡単ではありません。親は自分が認知症だと思っていないのに、説得して病院へ連れ出すのは至難の業です。また、子も親の認知症を受け入れられず、一過性のもの忘れだと思って、病院へ行こうとしません。

最初の受診までにかかった期間は平均9.5か月で、1年以上を要した方が約3割、2年以上は約2割というデータもあります。だからといって、親をムリに病院へ連れ出すのはよくありません。親の自尊心を傷つけないことが大切です。

いやがる親を病院へ連れて行く工夫

お世話になっているかかりつけ医がいる場合は、風邪など他の病気で病院に行く機会と合わせて、認知症の相談をするのもオススメです。また、子である自分の通院時に、親に付き添ってもらって、そのまま認知症の診断を受けたという方もいます。

もの忘れ外来によっては、家族のみの相談を受けつけている病院もあるので、まずはひとりで病院へ行って、医師と相談してみるのもいいでしょう。

どんなに工夫しても、親を病院へ連れ出せない場合は、認知症初期集中支援チーム認知症コールセンターに連絡して、相談してみましょう。親を病院に連れて行くのではなく、医師に自宅まで来てもらう在宅医療を行っている病院を利用するという方法もあります。

わが家は、市の無料健康診断があると言い、母を病院へ連れ出したところ、その場で認知症と診断されました。

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