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離れて暮らす親が認知症かも? 異変を感じたときに確認すべきこと

働き盛りの方が親元を離れて暮らし、顔を合わせるのは長期休暇や季節の行事のときだけ、という生活スタイルはいまや一般的です。

普段から接していないと変化にはなかなか気づけませんが、「親が同じことを何度も話す」「親の趣味嗜好が急に変わった」といった事態に出くわしたら、ふと違和感を覚えるはず。

それらは認知症の代表的なサインです。ですが、実家に滞在している短い期間では確証を持てなかったり、そもそもサインが現れなかったりします。確かめようとしても、本人に自覚がなく否定されてしまうことも。

では、違和感があるときどうやって確認したらいいのか? もし認知症だったとして、介護や見守り、さらにお金のことはどうすべき?

そんな疑問にお応えする本が、家族の遠距離介護を経験してきた工藤広伸さんによる『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)です。

工藤さんは東京で働きながら、2012年から認知症の母親の介護のために岩手に通いながら介護をしていると言います。仕事を辞めて実家に戻る選択肢もありましたが、それでも工藤さんは遠距離介護を選びました。

そんな工藤さんが培ってきた知見が詰め込まれたのが本書です。親が認知症かどうかを確認する方法から、誰に相談したらいいのか、どんな制度や保険が有効なのか、また、お金のやりくりや介護に役立つツールなどについても解説。

いまの生活や仕事との両立を図るための選択肢として有力な遠距離介護。何から準備し、対処していけばいいのかが網羅的に紹介されています。

今回は本書から、親の言動に違和感があったときにすべきことをまとめた「1章 親の様子がおかしいな? と思ったら」を抜粋して紹介します。不安を解消したい、きちんと対応したい、そんなときに活用していただければ幸いです。

また、9月21日(月)はちょうど敬老の日で、世界アルツハイマーデーでもあります。両親や祖父母と離れて暮らしている方は、ちょっと電話でもしてみませんか?

以下、『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』から「1章 親の様子がおかしいな? と思ったら」を抜粋します。掲載にあたって一部を編集しています。

1 認知症? と感じたら生活環境から探ろう

親の言動より生活環境から認知症を探る

親が同じことを何度も言う、趣味嗜好が急に変わるなどの代表的な認知症のサインは、子の短期間の滞在中には現れないことがあります。たまにしか会わない子やその家族を、親は客人のように考え、緊張感からしっかり応対してしまい、いつもなら出るはずの認知症のサインが現れないことがあるのです。

親の言動を探るよりも先に、生活環境から認知症のサインを探ってみてください。生活環境には、それまでの親の生活歴が反映されているので、言葉や態度で取り繕うことができません。

例えば、実家に帰ったら冷蔵庫を開けて、食料品の消費期限をチェックしてみましょう。消費期限のだいぶ過ぎた食べ物や腐った野菜が残ったままなら、日付を理解していないかもしれません。また、同じ食材が家中にいくつも点在していることもあります。

認知症のサインを見つけても指摘しない

久々に会った親の生活環境に異変を感じたら、最初は指摘せずに、子が自分の考える正常な状態に整えてみましょう。しばらくして実家に帰ったとき、左上表で挙げたような状況が目についたら、今度こそ認知症のサインかもしれません。

多くは、「あのとき、そういえば変だった」と、あとになってから親の異変に気づくものです。親も取り繕いますし、子も年相応の老いと考えがちです。そうならないためにも、日頃から意識して、親の生活環境の変化に目を光らせておきましょう。この段階では、親は自分が認知症とは思っていませんし、正面から指摘してもケンカになるだけです。

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2 親の異変を感じたら、1日単位で様子を確認しよう

認知症の症状は短時間で判断できない

認知症の症状は、1日の中で大きく変化します。短時間の滞在で親の元気な顔を見て安心し、しばらくして家に帰ったら、認知症が進行していて驚いたという話もあります。

認知症を早期で発見できれば、進行を遅らせたり、長く親らしく暮らすことができたり、または介護の態勢を整え、親と自分の将来について考えたりする時間が生まれます。できれば、親の家に泊まって、朝から夜中まで、1日の変化を見てください。

例えば、夕方になると自分の家にいるのに家に帰りたいと言ったり、ソワソワしたり、家を出てひとり歩き(徘徊)を始める夕暮れ症候群という症状があります。また、夜でも眠らない、急に活動的になる、暗闇を不安がる、大声で寝言を言う人もいます。

できれば数日滞在して症状を見極めたい

可能なら1週間程度、親と一緒に過ごしてみるといいでしょう。親が、曜日単位で決まっている家事やイベントを、きちんとこなしているか確認できます。例えば、曜日ごとに違うゴミの収集ルールに親はきちんと対応できているか、毎週ある地域のサークル活動に参加できているかなど、各曜日で決まった予定を忘れていないかチェックしてみましょう。

また親と同居する家族から認知症の症状を訴えられても、目の前にいる親が元気なので、信じようとしないというケースもあります。この場合も、親と1日ではなく、1週間生活してみると、同居する家族の訴えが正しいと理解できるかもしれません。

親の認知症の症状をしっかり見極めるためにも、数日単位で生活を共にする機会をつくりましょう

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3 まだ認知症予備軍の段階かもしれない

認知症予備軍から健常な状態になることも

認知症と診断される前に、MCI(軽度認知障害)と呼ばれる段階があります。認知症予備軍とも言われ、認知症ではないけれども、同世代の人と比べてもの忘れの程度が強くなります。

厚生労働省の推計では、MCIの方は全国に約400万人いると言われ、認知症の方の約462万人とほぼ同数です。MCIになったからといって、すべての人が認知症に移行するのではなく、46%の人は健常な状態に戻るというデータもあります。そのため、MCIの段階で見つけることができれば、認知症の発症を食い止めたり進行を遅らせたりすることができます。

とはいえ、残念ながらMCIの治療法は確立されていないので、薬の処方ではなく、生活習慣や運動、食事の改善などに努めるしかないのが現状です。

MCIテストを受けてもらうための工夫をする

認知症とMCIの違いは、親が自立した生活を送れるかどうかで判断されますが、左表にあるMCIテストを受けてもらうといいでしょう。電話によるテストや微量の血液検査などの方法がありますが、いずれも保険適用外となります。

この段階で親は、自分がMCIだと思っていないことが多いです。また、親と離れていると、会う機会も少ないので、何年にもわたって、テストが受けられない可能性もあります。

親を心配する気持ちを伝えたり、親が信頼している人から声をかけてもらったりして、親の自尊心を傷つけないよう工夫をして、テストを受けてもらいましょう。親が早めにMCIを理解すれば、運動や食事の改善に意欲的に努めてくれるかもしれません。

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4 認知症の種類を理解し、混合型にも注意しよう

認知症の種類と変化

認知症は数多くの種類がありますが、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、脳血管性認知症の4つが代表的です。

最も割合が多いと言われるアルツハイマー型認知症ですが、医学博士の長尾和宏氏は、何でもアルツハイマーと誤診する医師もいるため、注意が必要だと述べています。

脳神経外科医の平川亘氏は、特に80歳以上の高齢者は、複数の認知症が混合する可能性があると述べています。一度、アルツハイマー型認知症と診断されたからといって、一生同じ病型が続くとは限らず、状態は常に変化します。

画像診断よりも大切な症状

平川氏は、CTやMRIなどの画像診断よりも、患者さんの症状はもっと大切だと述べています。

家族は親の家での様子や異変を、しっかり医師に伝える必要があります。家では見られる認知症の症状も、医師の前では現れないことはよくあるので、病院を受診する前に、親と過ごしたり、ご近所や介護職の方から、親の最近の様子を聞いたりしてから、医師の診察を受けましょう。家での様子は、日頃からメモを取っておき、親の前で医師に伝えづらい場合は、そのメモを渡すといいでしょう。

認知症は、薬の服用で進行を遅らせたり、一時的に症状が改善したりしますが、基本は根治しません。それでも、治療によって進行を遅らせ、時間を稼ぐことで、家族が認知症を理解するようになり、介護に余裕が生まれるようになります。

突発性正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫などは、病気を治療することで、認知症が治る場合もあります。

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5 認知症の代表的な症状と家族が困ること

中核症状と行動・心理症状(BPSD)

認知症の症状は、「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」の組み合わせで出現します。中核症状とは脳の神経細胞の破壊から起こる症状で、最近の記憶から忘れていく記憶障害や、今がいつか(時間)、ここはどこか(場所)、この人は誰か(人物)が分からなくなる見当識障害などがあります。

中核症状の二次的な症状として、行動・心理症状があります。行動症状には、些細なことですぐ怒り出す易怒性や、介護者を悩ませる暴言・暴力があり、心理症状には、自分で片づけた場所を忘れ、家族が盗んだと勘違いする物取られ妄想や、いないはずの子どもや虫が見える幻覚などがあります。

家族は、中核症状よりも、BPSDによって介護負担が大きくなります。そのため、医師も中核症状ではなく、BPSDをどうコントロールするかに注力した治療を行います。BPSDは、親の元々の性格や人間関係、生活環境なども関係するため、症状は人それぞれです。

親のBPSDを改善する

4大認知症ごとに現れる症状に特徴があります。

親が元々どういう性格で、どういう人生を歩んできたのかを、一番理解しているのは家族です。そのため、医師や介護職には分からない、BPSDの原因や背景を推測できることもあります。

認知症自体は根治できなくとも、BPSDは家族が親との接し方を工夫したり、親が生活しやすい環境に整えたりすることで、症状が改善される場合もあります。

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6 家族が必ずたどる認知症介護4つの心理的ステップ

認知症介護をする家族は、必ずこの4つの心理的なステップをたどります。おさえておきましょう。

第1ステップ「とまどい・否定」

しっかりしていた親の言動が変わり、今までできていたことができなくなった姿に、子は「とまどい」ます。そして、親の認知症を受け入れられずに、「否定」します。認知症について、誰にも相談できず、ひとりで悩む時期です。

第2ステップ「混乱・怒り・拒絶」

認知症の親の言動にとまどい、否定したところで、何も変わりません。意味が分からず、どう対応していいか「混乱」します。家族はそれでも頑張って介護を続けるのですが、何を言っても通じない親に対し「怒り」、声を荒げてしまいます。

ついには、家族は精神的・肉体的に追い込まれ、「こんな親、いなくなってしまえばいい」と考え、介護を「拒絶」します。認知症の知識もなく、介護保険サービスの利用も考えられない、自分の常識の中だけで親を介護し、ついには限界を迎えます。

第3ステップ「割り切り・あきらめ」

懸命な努力もムダなことだと分かり、次第に「割り切ったり、あきらめたり」するステップが訪れます。ようやく、認知症への理解や介護保険サービスの利用が見えてくるようになります。

第4ステップ「受容」

認知症への理解が深まり、親をようやく受け入れられる(=「受容」)ようになります。親のプラス面まで、観察できる余裕が生まれます。

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