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子どもが朝起きれず学校にも行けない。病院に行くべき? 起立性調節障害(OD)の可能性は?

夏休みなど長いお休みが終わって学校が始まったのに、子どもが朝起きれず、学校にも行けなくなってしまった。

それはただ怠けているのでなく、思春期に起きやすいからだの病気である起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation、OD)の可能性も考えられます。特に中学生の10%がODであるとも言われ、午前中の早い時間帯に頭痛や腹痛、吐き気などに悩まされています。

ですが、子どもがODなのかどうか判断するのは難しく、病院に行くべきかどうかも決めかねると思います。そんなときの判断材料として役立つ情報を、『起立性調節障害お悩み解消BOOK 「朝起きられない」子に親ができること!』(翔泳社)から紹介します。

夏休み中の生活習慣が原因でODになりやすくなることもありますし、学校の人間関係や勉強のプレッシャーなどさまざまなストレスが積み重なって症状が現れることもあります。朝起きれず、辛そうにしているお子さんのために、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

◆著者について
吉田誠司(よしだ・せいじ)

大阪医科大学(現大阪医科薬科大学)卒業。2014年、起立性調節障害に関する研究で医学博士号取得。現在は、大阪医科薬科大学小児科で心身症外来を担当。小児科専門医・指導医、子どものこころ専門医・指導医、漢方専門医の資格を有し、日本小児心身医学会理事(ガイドライン統括委員会委員長)、日本自律神経学会評議員を務める。テレビ・ラジオで起立性調節障害について解説する他、監修本に『10代のためのココロとカラダの整え方 自分でできる&ラクになる自律神経コントロール』(メイツ出版)、分担著書に『小児心身医学テキスト』(南江堂)などがある。


起きたくない? 起きられない?

  • できるだけ「ODかも」と気づいてあげましょう。

  • 日常生活に支障がでるようなら、小児科を受診しましょう。

起きてこない=サボり?

「朝起きて立とうとすると、頭痛やめまいがして起き上がれず、みんなと同じように学校に行けない……」という子に対して、周囲の人が「この子はODかもしれない」と気づいてあげることはとても大切です。

病院でODと診断を受けるまでの間「どうして私だけこんな症状があるのだろう」「治らない大変な病気になってしまったのではないだろうか」と悩んでしまう子が多いです。また、ODだと気がついていない親や学校の先生に「怠けているだけでしょ! しっかり頑張りなさい」といわれることもあります。そうすると、子どもは孤立してしまったり、頑張れない自分を責めてしまったりします。

誤解されやすい理由

ODなのに怠けていると誤解されてしまう理由に、次のような症状(特徴)があります。

  • いつの間にか元気に
    朝起きるのがしんどくても、午後になり症状が落ち着いたら、朝の様子が嘘のように元気になってしまう。

  • 用事がある日は朝から元気
    テンションが上がる楽しいことがある日(修学旅行や遊びの約束があるときなど)なら、朝から元気に過ごせる。

また、ODの子は自律神経の乱れにより、夜眠れなくなってしまうことがあります。そのため、「夜更かししているから、朝起きられないんだ」と、誤解されることもあります。もし、こういった症状で日常生活に支障がでていたらODを疑い、病院を受診するようにしましょう。

ODの可能性があるかチェックしてみよう

ODが疑われるサインに、次の11項目があります。3項目以上満たすとODの可能性があります(出典:『小児起立性調節障害診療ガイドライン 改訂第3版』(日本小児心身医学会,2023))。

  • 立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい

  • 立っていると気持ちが悪くなる、ひどくなると倒れる

  • 入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる

  • 少し動くと動悸あるいは息切れがする

  • 朝なかなか起きられず午前中調子が悪い

  • 顔色が青白い

  • 食欲不振

  • 臍疝痛をときどき訴える

  • 倦怠あるいは疲れやすい

  • 頭痛

  • 乗り物に酔いやすい

まずは病院に行ってみよう

  • 学校生活に支障が出ている場合は、小児科を受診しましょう。

  • 早めの治療が早期改善につながります。

診断が安心につながることも

ODの症状によって学校生活に支障が出ている場合は、病院を受診しましょう。病気と診断されず周囲から「怠け」などと誤解されてしまうと、子どもが1人で悩み、症状がさらに悪化してしまうことがあります。OD(もしくはほかの病気)と診断されることで「自分はからだの病気だから、学校に行くのが難しいんだ」と思うことができます。また、学校に理由をきちんと説明できるようになることで、子どもの安心にもつながります。

病院に行ってすることとは?

まず、ODと似た症状の病気が原因となっていないかを検査します。それらが原因ではないことが確認できたら、次にODの診断のための検査が行われ、診断されたら治療が始まります。ODの症状の原因を教えてもらい、それを理解したうえで、さまざまな治療を行うのが一般的です。ODの診断を受けることで学校へ診断書の提出が可能となり、配慮を受けられるようになるかもしれません。

1か月間治療を続けてみて、改善の傾向がみられたらそのまま治療を継続しましょう。改善の見込みがなく悪化していくようであればODの重症度が高いことが予想されますので、専門医のもとでの治療が必要になってきます。

治療を始めるのは早いほうがいい

ODは心理的・社会的なストレスで悪化するため、治療の開始が遅くなると、軽症・中等症でも治りにくくなる恐れがあります。発症から治療の開始までが3か月未満の子どもは、3か月以上の子どもと比べて「通常の登校が可能になる割合が高かった」という研究結果も報告されています(中澤,2014)。

何科に行けばいい?
基本的にODはからだの病気ですので、小児科や内科の受診をおすすめします。ODが長期化すると「やる気が出ない」「眠れない」などのメンタル面の不調が出てきますが、まずは小児科や内科を受診してODの治療から始めましょう。

病院を選ぶときのポイント

  • まずは家の近くの病院を受診しましょう。

  • ODの専門医はいませんが、子どもの心身医療に関する資格を持っている先生はいます。

どういった先生に診てもらう?

ODかも? と思ったときは、できるだけ早く診てもらうために家の近くの小児科または内科を受診しましょう。「子どものこころ専門医」や「子どもの心相談医」といった資格をもつ小児科医もいます。どちらも扱う病気は心身症や神経発達症などです。「子どものこころ専門医」のほうが専門性は高く、この資格を取得している精神科医もいます。

ODの標準的な治療で改善しない場合には、専門医に紹介されると思います。ODの専門医というものはなく、ここでいう専門医とは「心身医療の専門医」です。小児では日本小児心身医学会所属の医師などがこれに該当します。

ODには心身症の側面がある

ODには心身症の側面があるため、治療には心身医療がよいとされています。心身症はこころの病気と誤解されることもありますが、実はからだの病気で、心理的・社会的なストレスによりからだの症状が軽くなったり重くなったりするもののことをいいます。そのため、こころとからだの両面から治療を行うことが大切になります。

実は、多くの病気にそのような側面があります。たとえば、アトピー性皮膚炎もからだの病気ですが、ストレスにより症状が悪化してしまう、心身症の側面があります。

小児科は何歳まで受診可能?
小児科の初診時の年齢については、病院ごとに異なります。「中学生まで」としているところもあれば「成人するまで」としているところもあります。事前に、行く予定の小児科では何歳までが初診対象かを調べておくと安心です。もし初診の年齢に該当しなければ、内科を受診するようにしましょう。

ODと診断されたあとは?

  • ODの症状とつきあいながら、学校などに行くために必要な治療や準備を可能な範囲で進めましょう。

ODに関するさまざまな研究

大人になってもODの症状がある
ガイドラインに従い治療を行えば、大人になってODの症状があっても最終的には日常生活に支障を及ぼさない程度に改善し社会生活に適応できていく、という研究結果もあります(松島ら,2013)。

病気の治りがよくない子について
そのほかにも、病気の治りがよくない子の特徴として、①初診時の年齢が低いこと、②精神疾患の発症があること、とされています(藤井,2017)。ODを発症する時期が早いと、不登校の期間も長くなってしまう可能性が高いです。すると、社会での体験がとぼしくなり、人間関係を形成する力が育ちにくくなると考えられます。こういった状態が、治りにくさにつながっているようです。

高校進学について
ガイドラインでは、ODの子が自分の体力に合った高校に進学した場合、高校2~3年生になると約9割の子が治る(軽い症状は成人しても続く場合がある)とされています。また、全日制・通信制など体力に合った高校を選択することで、達成可能な目標設定ができ自己肯定感を高めることができる、とも考えられています(松島ら,2013)。

社会とできるだけ関わり続けよう

ODを受け容れ、症状と付き合いながら可能な範囲で学校などに行くことはとても大切です。友だちとお話をするなどを通して社会に参加することは「きっと大丈夫」と思える自己肯定感や「きっと何とかなる」と思える自己効力感を高めることにつながります。

学校以外でも構いません。興味がある習い事に通ってみたり、アルバイトができる学校でしたらアルバイトをしてみたりするのも有効です。こういったことは、ひきこもりやうつ病の予防にもつながると考えます。

学校に行けるようになるための準備

ODの症状は、午後になると落ち着くなど、時間の経過とともに改善していきます。動ける時間帯から少しずつ学校に行ってみるなどしましょう。

「学校に途中から行くのは嫌だ。 行くなら、ODを治して1時間目から行きたい」というお話もよくお聞きします。しかし、家でじっとしていてもODはなかなか治りません。学校に行けそうな時間帯やタイミングをみて少しずつ学校に行き、からだを動かしながら自律神経と生活リズムを整えることが大切です。

どうしても学校に行けない子には?
学校に行くためにさまざまな治療を試みても、いつまでも学校に行くことができない子もいると思います。こういった状態が続くことにはさまざまなデメリットがあります。社会とのつながりは大切ですので学校にとらわれずに、教育支援センターやフリースクール・習い事などの学校以外の社会とつながることも視野に入れつつ、子どもと少しずつ今後について話せるとよいと思います。

社会人になったら?

社会人になれば自分の体力に合った仕事を選ぶことができるようになるので、症状はよくなっていくことが多いです。たとえば、テレワーク(在宅勤務)やフレックスタイム制(働き始める時間などを自分で決められる)、立ち仕事のないデスクワークなどが選択肢としてあります。

気圧の変化や睡眠不足などにより、ODの症状が一時的にでることはあると思いますが、そのようなときだけミドドリンなどの薬を飲むことで乗り越えていけるようになります。

ODに関する悩みは家族の会に相談するのも1つの手

ODの家族会を一部紹介します。ODの家族の会は全国各地にありますので、是非ネットで検索してみてください。

  • 起立性調節障害(OD)家族の会~Snow~

  • NPO起立性調節障害ピアネットAlice
    このサイトには各地の親の会のリンクがあります。

  • 起立性調節障害なごや家族の会「ポレポレ」

ODと診断されなかったら…?

  • 再検査も1つの方法です。

  • そのほか、自律神経を整える取り組みも大切です。

再検査も検討しよう

ODの症状があるのに、ODと診断されない場合もあります。たとえば、新起立試験の実施が午後だと症状が落ち着いているため異常がでないことがあります。ODが強く疑われるような症状があったら、期間をあけてもう一度検査をしてもよいと思います。

ODと診断されなくても困っている症状があるのですから、その症状に対する治療が必要です。ほとんどは自律神経の乱れからくる症状なので、自律神経を整える取り組みをしましょう。

自律神経を整えよう

自律神経を整える方法とは、簡単にいうと「よく食べ、よく遊び、よく寝る」だと筆者は考えます。「よく食べ」とは暴飲暴食することなく1日3食、栄養のあるものをしっかり食べること。「よく遊び」とは交友関係を築きながら元気にからだを動かすこと。そして「よく寝る」とは質のよい睡眠をしっかりとることです。筆者が監修した『10代のためのココロとカラダの整え方 自分でできる&ラクになる自律神経コントロール』(メイツ出版,2022)も是非参考にしてみてください。

ストレスが原因で自律神経が乱れることもあります。

  • 部活や習い事の負荷が大きくなりすぎていないか

  • 夜更かしによる疲労がたまっていないか

などのからだのストレスについて、子どもに聞いてみましょう。また、人間関係や勉強などのこころのストレスの確認も必要です。教室で過ごす時間がしんどくなっているときは、別室で過ごすという対応を考えてみましょう。

よいストレスと悪いストレス
「よいストレス」は、頑張れば乗り越えられて自分を成長させてくれる適度なストレス(例:1日15分の散歩)です。反対に「悪いストレス」は、頑張っても乗り越えられない過度なストレス(例:1日1時間のジョギング)です。ストレスの量を調整しつつ「よいストレス」には頑張って取り組み、「悪いストレス」からは一旦距離をとって、体調が回復してから取り組むようにしましょう。


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