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認知症の当事者と「読みやすさ」を試行錯誤した本が完成するまで

「家族や支援者向けの認知症の書籍は多いけど、当事者向けのものが少ない……」

そこから企画したのが、2023年12月20日刊行の書籍『本人と支援者が教える!認知症になったあとも「ひとり暮らし・仕事」を続ける方法』です。

著者は、認知症当事者のかもしたまことさんと、若年性認知症支援コーディネーターの来島みのりさん。本書を制作するにあたって、編集の私と著者2名で「どのような内容にしたら当事者が読みやすい本になるか」を何度も話し合って考えました!

今回は、話し合った内容や、本の特徴・工夫などを紹介できればと思います。

(編集部:橋本)

そもそも「認知症当事者のための書籍」の内容って?

企画の段階で認知症についていろいろと調べていたところ、認知症のなかには若年性認知症(18歳以上64歳以下の人が発症する認知症の総称)の方がいて、「まだ現役世代なのに、認知症になったことで仕事を辞めざるを得なくなった」という声をたくさん見ました。

ただし、そのなかには「認知症と診断されたあとも生活を自分で管理したり、働いたりしている人もいる」ということを知りました。

そこで、「そういった方がしている工夫や、活用している制度などを紹介する内容にしてみてはよいのではないか」と考え、企画しました。

そして、実際にレビー小体型認知症と診断されてからも8年以上働き続けており、ひとり暮らしもされているかもしたさんと、若年性認知症若年性認知症支援コーディネーターの来島さんに執筆をお願いしました。

※本書の内容は1月9日公開予定の記事でも紹介します。以下のようなテーマを解説しています。
第3章:「自立した生活」をできるだけ続けるためには?
カギのかけ忘れ防止/忘れ物対策/スケジュール管理のコツ/自転車や交通機関を使うときの注意点/日用品や食品の在庫管理/主治医とのコミュニケーションのポイント など……

第4章:「仕事」をできるだけ続けるためには?
事例紹介/職場で症状とつきあう方法/会社から理解を得る方法/休職や退職を考えたときにすべきこと/障害者雇用などの選択肢 など……

認知症の人は文章が読みづらい?

かもしたさんの場合、「認知症になってから、文章が読みづらくなった」「どこまで読んだのか、わからなくなることが多くなった」とのことだったので、まずは「かもしたさんが読みやすいと感じる本にしたい!」という想いがありました。

いくつかの書籍や資料を持ち寄り、「どのようなものが読みやすいか」を検討することに。そのなかで、かもしたさんが読みやすいと感じるものの、共通点などを探りました。

読みやすいと感じたもの①

厚生労働省のホームページで紹介されている『本人にとってのよりよい暮らしガイド:一足先に認知症になった私たちからあなたへ』。認知症当事者が読むことを前提に制作されたもののようです。

読みやすいと感じたもの②

そして、弊社から刊行している『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本』。

これらが、かもしたさんが比較的読みやすいと感じるものでした。

それぞれの特徴や共通点を見て、主に次の要素を盛り込むことにしました。

本書で組み込もうと思った要素

  1.  難しい漢字は図形にみえることがあるため、難しい漢字は少なくする

  2. 1文が長いと読んでいる部分を見失いやすいので、1ページを左右に分けて、1文も短くする

  3. 文字が詰まっていると、どこまで読んだかわかりづらいため、適宜1行空ける

  4. 文章を読むことが疲れたときに全文読まなくてもよいように、マーカーや冒頭にポイントをまとめる

  5. (かもしたさんによると)感覚的に横書きのほうが読みやすいとのことだったので、横書きの構成にする

視覚的なわかりやすさ・読みやすさにこだわった誌面が完成!

デザイナーさんと相談し、最終的に出来上がった誌面がこちら。

ほかの書籍よりも、かなり多く空白の1行を入れています。Web記事などでは当たり前な構成ですが、書籍ではボリュームの都合などもあり、空白の1行をたくさん入れている書籍は、そこまで多くないと思います。

今回は、事前に空白の1行をたくさん入れることを決めていたので、書籍の判型も大きめにしました。
小見出し部分もいくつか案をいただき、「ここで区切られている」「ここからが新しい話題だ」ということがハッキリわかるものを選びました。

そのほか、来島さんとかもしたさん、それぞれの「お名前」だけではなく「アイコン(イラスト)」も入れて、視覚的にわかりやすい工夫をしています。

こういった、視覚的にわかりやすい・理解しやすい工夫は、認知症当事者だけではなく、幅広い人たちにとってのわかりやすい・読みやすいにつながるのではないかなと、今回制作をしながら感じました。

パッと見て理解しやすいカバーにしたい

誌面やカバーを考えるなかで、「どういった色の組み合わせが読みやすいか」も検討することに。デザイナーさんにいくつか案を出していただき、最終的には「黄背景×黒文字」の組み合わせがよいとなりました。

書店で認知症の本が置かれている棚に行くと、オレンジ色や黄色系統のカバーのものが多いので、そこでいい感じに馴染みつつ目立つのではないかなと思っています。

色だけではなく、デザインの案もいくつか出していただいたのですが、そのなかでも「①タイトルとサブタイトルで視線移動が同じ方向なので読みやすい」「②タイトルが下半分にまとまっているので、わかりやすい」という理由からこちらを選びました。

 特に②については、かもしたさん(当事者)からの「単語が少し離れていると、タイトルとして認識しづらいことがある」というご意見を参考にさせていただきました!

著者と対面して意見交換をする大切さを実感

企画書を作成している段階から「カバーや誌面、文章などすべて認知症当事者が読みやすいかどうかを大切にしよう」と決めていました。制作中はこういった軸があってよかったなと思うことが多かった印象です。

「ラフが出たらそれを持って、おふたりのところに直接会いに行く」。このようなことを何度か繰り返すかたちで制作しましたが、直接お会いしてご意見をいただくのはすごくありがたかったなと思います。

来島さん、かもしたさん、ありがとうございました!

本書では、来島さん(支援者)がいままでされてきた支援内容や制度の活用方法と、かもしたさん(当事者)の認知症本人としての想いや工夫・生き方を盛り込みました。 

認知症当事者とその家族、そして支援者の方に、手に取っていただけると嬉しいです。

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