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『ドールハウスの惨劇』刊行記念★遠坂八重インタビュー<全文掲載>

第25回ボイルドエッグズ新人賞受賞作『ドールハウスの惨劇』が、2023年1月13日いよいよ発売! 異例にも、刊行のはるか前にシリーズ化が決定済みの業界注目作。その刊行を記念し、著者の新人作家・遠坂八重先生の特別インタビューをお届けします。

お手柔らかにお願いします…

――初めての著者インタビューということで、緊張されているようですが…

遠坂八重(以下遠):はい、緊張してます(笑)。お手柔らかにお願いします…。

――ボイルドエッグズ新人賞を受賞されたのが2022年5月、ようやく刊行となりましたが、現在率直に感じられていることをお聞かせください。

遠:率直にものすごく嬉しいです! ありがとうございます。
 小説家になるのが、夢でした。何度も新人賞に落選して、さすがに現実を見るべきなんじゃないかと思うこともありましたが、あきらめないでよかったです。
 それと同時に、受賞してから刊行までが、何も知らずに自分で想像していたのより、ずっと長くて。改稿だったり、実際に紙に印刷されたものをチェックしたり。色々な作業があって、やっとデビューまで辿り着くことができて、今はほっとしています。

――ご家族やご友人など身近な方々は、どのような反応でしたか?

遠:今のところ報告したのは母と、普通に仕事もしているので、勤務先の人事と上司のみです。
 母には受賞してすぐに話しました。私が小説を書いていること自体知らなかったので、とても驚いていました。父と、兄もいるのですが、ふたりはまったく小説を読まないタイプなのと、なんとなく恥ずかしさもあってまだ話せてません。
 勤務先には、副業にあたるので許可を得るために、だいたいの出版時期が決まった段階で伝えたのですが、思っていたよりあっさり受け入れていただけたので安心しました。

スプラッター系のホラー映画だけは人よりくわしい自信があった

――単行本の最後にあるあとがきでも触れられていますが、改めて本作の執筆の経緯を教えてください。

遠:『ドールハウスの惨劇』は、過去の失敗や反省からできあがった作品です。
 私は元々、パニックホラーや破滅的なストーリーが好きで。そういう作品しか書いていませんでした。なんというか…スプラッター系のホラー映画だけは、人よりくわしい自信があったので、それが自分にとっての得意ジャンルだと思い込んでいて…。

――なるほど…言われてみれば、ホラーが好きそうな雰囲気は、文章のちょっとしたところで感じられるかもしれません。

遠:でも、これだ!と自信を持って新人賞に応募したゾンビもの2作が、続けて落選してしまって、それをきっかけに『好きなもの』と『書けるもの』が違うのかもしれない、と考えるようになりました。
 ゾンビ、ホラー、スプラッターではなくて。自分の好きな要素、得意だと思っていた要素をいったんぜんぶ排除して、〝日常が舞台できちんと救いのある物語〟を書こうと思いました。それが『ドールハウスの惨劇』です。
 ミステリーを書くのも、学園ものを書くのも、キャラクター色の強い登場人物を描くのも初めてだったので、ほんとうに何から何まで初めてづくしの作品でした。
 とても楽しく書けたのですが、正直あんまり手応えは感じなかったので、受賞の連絡をいただいたときは嬉しいより先にびっくりしました!

――いやいや、はじめてとは思えない書きぶりでしたよ。とくに主役ふたり、蓮司と麗一が魅力的でした。

遠:実を言うと、応募した時点では、彼らふたりが主人公だという認識がなかったんです…。主人公は美耶と沙耶の姉妹ふたりのつもりでいて、蓮司と麗一は狂言回し的なイメージでした。
 祥伝社さんから出版させていただくことが決まって、お打ち合わせをしたときに『蓮司と麗一をもっと掘り下げてほしい』というアドバイスをいただいてはじめて、読む人はそう捉えていたんだと驚きました。
 
――そうだったんですか…! ちょっとわかりやすく言ってしまえば、高校生版のホームズ&ワトソンだと楽しく拝読していました。

遠:そうなんです、すみません!
 私が探偵と聞いてぱっと思い浮かぶのが、やっぱり小説のシャーロック・ホームズと石坂浩二さん演じる金田一耕助です。ふたりとも個性があって魅力的ですごくかっこいいですよね。麗一の人物造形は、かなり影響を受けていると思います。
 言葉はよくないかもしれませんが、「変人」「麗人」というのが、麗一という人物の柱になっています。改稿するときにもエピソードを追加したりして、それも楽しかったですね。

――いっぽうの蓮司は常識的に物事を整理してくれたり、ふたりのやりとりも楽しいです。

遠:蓮司は読者の方にいちばん近い存在になってほしいと考えていて、感情移入しやすい、好感の持てるキャラクターになってくれるように意識しました。平凡平穏な家庭で大切に育てられた、平凡平穏な男子高校生です。
 ちょっとひと癖ふた癖あったり、闇を抱えていたりというキャラが多い物語なので、逆に癖のない〝普通らしさ〟こそが、蓮司のいちばんの個性になってるんじゃないかと思います。
 読者の方に好感を持ってもらえるキャラクターを、というのをやっぱり一番に意識したので、ふたりのことを好きになっていただけたらとても嬉しいです。

エナジードリンク片手に徹夜を

――平日昼間は普通のお仕事をされながらご執筆されている。大変ではなかったですか?

遠:正直…大変でした。
 元々キャパが小さくて、職場と家の往復だけでヘトヘトになってしまうタイプなので、平日はちょっと執筆する元気がありませんでした…。基本は休日のみ。どうしてもというときだけ平日も机に向かう、という感じです。
 
――改稿もサッと上げていただいて、ゲラ(編注:校正用に紙に印刷されたもの)のお戻しも、設定していた日にちより早かったと記憶していますが…。

遠:ぜんぜんそんなことはなくて…。不慣れなこともあって、ゲラをいただいて確認してお戻しするというのが、要領のよくない自分にとっては大変でした。
 もう若くないので体力的にもきつかったのですが、しめきり直前は『終わらない、終わらないよ~』とうめきながら、エナジードリンク片手に徹夜していました。

――いや先生、まだ三十路じゃないですから、ぜんぜん若いです。そして、むしろ出版社ではよく見られる光景です(笑)。

遠:そうなんですね(笑)。不慣れで大変だったのも、いつか振り返れば、いい思い出になりそうです。

作家を志した理由:『ハーモニー』(伊藤計劃)、『ぼくらの』(鬼頭莫宏)

――若くデビューされる方もいますが、活躍されているのはやはり30代以降の作家さんですよ。いつから作家になろうと考えていたのですか?

遠:子供の頃からぼんやりとした憧れはあったのですが、はっきり自覚したのは大学2年の冬です。
 伊藤計劃さんの小説『ハーモニー』と鬼頭莫宏さんの漫画『ぼくらの』を読んで、私もこんな物語を創ってみたいという衝動に駆られたんです。それからすぐに、SFホラーのような長編を2作、拙いながらも一気に書きあげて、ライトノベルの新人賞に応募しました。そんなに甘いものではなくって、やっぱり落選だったのですが…。
 大学3年になったらもう就活の時期で、目の前の現実と向き合わなくちゃいけなくて、小説を書けなくなりました。就職してからも、社会人としての生活に適応するだけで精一杯で、長いこと書けないままでした。

――やっぱり就職して最初の3年、5年は自分の時間なんてなかった気がします。

遠:それで諦められたら楽だったんですが。やっぱり、小説家になりたいという気持ち自体はまったく消えず、ずっとモヤモヤしたまま20代も終わりが近づいて…。いつのまにか憧れていた作家さんがデビューしたときの年齢を、軒並み追い越しまくっていたことにも気づいて、モヤモヤを抱えたまま生きていくことにも耐えられなくなって、改めて、やるしかないと腰を据えて小説を書きはじめました。

ジャンプっ子からの振れ幅(文学部卒ならでは圧倒的熱量)

――何人か作家さんのお名前が出ましたが、どんな小説を好んで読まれていたんですか?

遠:幼少期はかこさとしさんや馬場のぼるさんの絵本が大好きでしたね。中でも一番は『からすのパンやさん』。〝グローブパン〟とか〝かびんパン〟とか、いろんな種類のパンが見開きいちめんに載ってるページがあって、そのどれもとってもおいしそうで、眺めているだけで幸せでした。今も部屋にあって読み返すと、わくわくします。
 小学生の頃は漫画しか読んでいなくて、ワンピース、ナルト、ブリーチなど王道の少年漫画が好きでした。

――『ONE PIECE』が1997年開始なので、ちょうど世代ですね。というか、ぜんぶ「ジャンプ」作品ですね!

遠:はい! ジャンプっ子でした。
 小説を読み始めたのは、中学生のころです。中二の夏くらいまでなかなか友達ができなくて、休み時間はひとりで過ごしていました。本を読むしかなくって、かといって学校に漫画を持っていくわけにもいかず、自然と小説を読むようになったという感じです。
 当時は、恩田陸さん、森絵都さん、村上春樹さん、重松清さんの小説をよく読んでいました。とくに恩田陸さんの『麦の海に沈む果実』は思い出があります。全寮制の学園を舞台にしたミステリーなのですが、女の子の憧れがすべて詰まった宝石箱みたいで、幻想的というか美しい世界観と、その中にある冷たい不穏な雰囲気に魅了されました。もう何度も何度も読み返していますが、そのたびに胸がときめきます。

――小学校時代のジャンプっ子からの振れ幅が…(笑)。良い出会いだったんですね!

遠:高校生になって、太宰治の『斜陽』を読んだのがきっかけで、明治から昭和の文豪にハマりました。その中でも、川端康成は特別な存在です。
 とにかく文章が美しくて。大好きです。何気なく書かれたような一文にも息をのむような、心がふるえるような美しさがあります。私の永遠の憧れです。とくに『山の音』『温泉宿』『古都』が好きです。

――お打ち合わせのあとのお食事でも、尊敬する作家さんとして、川端康成とヘルマン・ヘッセを挙げられていました。

遠:外国文学だと、やはりヘルマン・ヘッセが大好きです。
 外国の作品は難しそうなイメージでそれまでほとんど読んでなかったのですが、大学に入ってからはたくさん読むようになりました。講義で触れたトルストイの『クロイツェルソナタ』がきっかけだった気がします。
 ついつい語ってしまうのは、やっぱりヘルマン・ヘッセですね。季節や自然の描写がほんとうに美しくて、『郷愁』や『青春は美し』などの穏やかで静謐な物語は何度読み返しても幸福に満たされますし、『デミアン』の自分自身の内面を追及するべきという教えには深く感銘を受けました。歳やその時によって変わりますが、今は『知と愛』がいちばん好きです。
 あとはやっぱり、ドストエフスキーがめちゃくちゃ面白くて衝撃を受けました。いわゆる文豪の作品を、むさぼるように一気読みしたのはドストエフスキーだけだと思います。『罪と罰』『死の家の記録』『虐げられた人びと』がとくに好きです。

――お好きなSFやホラーだといかがですか?

遠:SF、ホラーだと、伊藤計劃さんの『ハーモニー』『虐殺器官』、クラークの『幼年期の終わり』、ケッチャムの『オフ・シーズン』、貴志祐介さんの『クリムゾンの迷宮』などがとくに好きです。
 あとは漫画も! 好きな作品を挙げたらきりがないのですが、『進撃の巨人』『ベルセルク』『ぼくらの』などがとくに好きです。『進撃の巨人』は、最終回までの怒涛の展開をリアルタイムで追うことができて、ほんとうに幸せでした。

もうひとつの世界になれるような物語を創る

――圧倒的な熱量で語っていただいてありがとうございます!(笑)  晴れて、挙げていただいた方々と同じく〝作家〟としてデビューです。どんな作家さんになりたいですか?

遠:挙げさせていただいた方々のような作家になるとは絶対に言えません!(笑)
 いちばんの目標は、読者の方にとっての、もう一つの世界になれるような物語を創ることです。私自身、現実でうまくいかないことが多くて、そのたびに物語の世界に救われてきました。
 どういうものが書けるのか、どういうものが求められているのか、まだまだ手探りの状態なので、周りの方や読者の方の意見を積極的に取り入れて、常に勉強という姿勢で執筆に取り組んでいきたいです。

――また、今作は新人賞としては異例の”シリーズ化”が決定しています。ネタバレせずお答えできる範囲で、次作のあらすじを教えてください。

遠:シリーズ化は、正直まったく想像していなかったので、驚きとともにすごく嬉しいです。
 次作は、冒頭でショッキングな事件がバーンと起きて、ある女子生徒からの依頼をきっかけに、蓮司と麗一がその謎を紐解いていくという展開で考えています。物語の核は、『ドールハウスの惨劇』以上にシリアスでダークなものになりそうです。
 本作からぐんとパワーアップしたものをお届けできるようにがんばりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

――最後に、改めて読者のみなさまへメッセージをお願いします。

遠:はい…。はじめまして、遠坂八重と申します。
 本作を見つけていただいて、本当にありがとうございます。皆さんに楽しんで読んでいただけたら、これ以上の幸せはありません!
 また、舞台である鎌倉や湘南を訪れられた際には、蓮司と麗一、ふたりのことを思い出していただけるとうれしいです。
今後ともよろしくお願いいたします。

――遠坂八重先生、長時間ありがとうございました! 改めまして、作家デビューおめでとうございます。

著者プロフィール

神奈川県出身。早稲田大学文学部卒業後、一般企業に勤務しながら、小説執筆に挑戦。 2022年、初めて挑戦した長編ミステリー作品である、本作『ドールハウスの惨劇』 で第 25 回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した。ぐいぐいと物語を前に進める筆力、エンターテインメント性に富んだ展開、楽しい人物造形が好評を得て、デビュー作としては異例のシリーズ化が決定。続刊は2023年夏を予定。尊敬する作家は、ヘルマン・ヘッセと川端康成。

『ドールハウスの惨劇』あらすじ

第25回ボイルドエッグズ新人賞受賞、衝撃のミステリー! 
カルシウム摂取量全国トップ・滝 蓮司 × 眉目秀麗の超変人・卯月麗一
高2の夏、僕らはとてつもない惨劇に遭う!

 鎌倉にある名門・冬汪高校二年の滝蓮司は、眉目秀麗だが変人の同級生・卯月麗一とともに、生徒や教師から依頼を受け、思ってもみない方法で解決を図る"学内便利屋"として活動している。その名も「たこ糸研究会」。会長は蓮司、副会長は麗一。取り壊しの決まっている古い校舎の一角が、ふたりの部室にして"事務所"だった。
 ある日蓮司は、道を歩けばスカウトが群がり学内にはファンクラブすら存在する超絶美少女、藤宮美耶という同級生から、ある依頼を受ける。
 その依頼とは――。
 蓮司と麗一が依頼を引き受けたがゆえ、惨劇の幕は開く! 舞台は、鎌倉に佇む白亜の豪邸。ふたりは特異な家族にまつわる、おぞましい事件の真相をひもといてゆく。
 新進気鋭の著者が放つ、渾身のミステリー!

書誌情報

ISBN:978-4396636371 四六判ソフトカバー 定価1980円

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