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政治家や公務員の給料は「高い」必要がある

「身を切る改革」という言葉が好きな人たちがいます。

自分たちの給与を下げ、溜飲を下げた国民の支持を得ようとする政治家や政党は後を絶ちません。
(実際には与党になった瞬間に引っ込めますが)

実際、政治家の議員歳費や公務員の給料が高すぎるという批判はよく聞きます。

しかし、彼らの給与や待遇を本当に下げてよいのでしょうか。

議員歳費は高いのか

そもそもの疑問として、彼らが受け取っている金額は高いかどうかということについて考えます。

例えば国会議員の場合、議員歳費として年額で約1500万円が支払われています。これに期末手当が年額で約650万円、総額で2200万円弱の金額を受け取ることができます。

さらに、調査研究広報滞在費として年間で1200万円が支給されています。
(これに加えて政党交付金や立法事務費が政党に支給され、一般議員に還元されることになります)

こうしてみると、かなり高額な金額が国会議員に支払われているように見えますが、果たして本当にそうでしょうか。

国会議員には秘書が必要です。すべての業務を自分一人でこなすのは難しいですし、東京と選挙区の2拠点で業務を行う以上、ある程度のスタッフが必要です。

公設秘書を3人、国費で雇うことは可能ですが、それ以外のスタッフは政治家個人で雇う必要があります。


スタッフの給与や事務所の固定費などまで考えれば、議員歳費は個人の給与ではなく、中小企業の年商に近いような意味合いになるため、決して高い金額とは言えないのではないでしょうか。

ここに選挙試験のことを加味すれば、どう考えても歳費で豊かな暮らしをできると考えるほうが無理筋です。

公務員の給与は高額か

次に公務員について考えてみます。

国家公務員の平均年収は650万円ほどになります。地方公務員は自治体の規模によって差がありますが、これより多少少ない金額になります。

一方で民間企業勤務の人の平均年収は430万円です。これを見て「200万円も高いのはけしからん」と感じる人も多いでしょう。

しかし、この平均年収は民間の場合は非正規雇用の人を含んだ金額となっています。

また年齢構成や公務員の大半が大卒であるなどを考慮すると、決して高いとは言えない金額です。

事実、県や政令市の行政職に採用数の多い大学の場合、公務員就職者は同期の民間就職者と比較して給与が低いケースがほとんどです。

もちろん、年功序列や終身雇用による安定感はアドバンテージではありますが、決して極端に高い金額とは言えません。

現状を見る限りは、私には決して政治家や公務員が高い金額を受け取っているとは思えません。

むしろ「高い」必要がある

政治家や公務員は許認可業務に関わる仕事であり、その業務を行うことは権力を行使することになります。

そのため、賄賂や買収、利益誘導に左右されない必要があります。

ところが、給与が低く生活にも困る状態の場合、そうした誘惑から逃れることができるでしょうか。

もちろん道徳心やモラル、順法意識によって恣意的な権力の運用を行わないというのは大前提ですが、強い安定とある程度高い給与によってそうした行為を防ぐというのも重要なはずです。

その意味ではむしろ彼らの給与は「高い」必要がある、とも言えるのではないでしょうか。

高い給料をもらう理由

私が好きな小説の一つに白石一文氏の「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」という作品があります。

この作品は週刊誌の編集長、カワバタの周囲で起こる事件を通して、筆者の社会問題に対する疑問や問題意識を様々な著作から引用しながらカワバタの言葉として投げかける、という形式で書かれています。

その作中で主人公のカワバタが若い記者たちに語る言葉が非常に印象的です。(作中の描写から週刊文春ではないかと推測される)

俺たちが何で高い給料を貰ってるのかをよくよく考えてみることだ。別に俺たちがメディアの人間がとびきり優秀だから高いわけじゃない。俺はいつだって、偉そうにふんぞり返って権力を振り回している連中に舐められないための高級なんだと思っている。そういう奴らに限って収入の低い人間を小馬鹿にして頭から舐めてかかるからな。

白石一文,この胸に深々と突き刺さる矢を抜け(上),講談社文庫,2011,p92

マスコミの人間が舐められないために高い給料を貰ってる、という見方をするのならば、それと同じように、政治家や公務員も「高い」給料を貰うことで有権者や国民に対し中立公平な立場を保てるのではないか、と思うのです。

そうした視点で考えた時、昨今の「身を切る改革」や「公務員バッシング」に関して果たして意味があるのかどうか、きちんと考え直す必要があるのではないでしょうか。

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