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統計的知識が必要な時代の数学教育

高校数学でも統計分野が必修化されて久しいです。

本年度からはあらたに数学Ⅰのデータの分析の単元で仮説検定の内容が、数学Bにおいては統計的な推測の単元が必修となりました。

明らかに近年の数学教育において統計分野を重く扱う傾向が見て取れます。

なぜ統計分野を重視するか

その理由に関しては当然ICT化やビッグデータ、DXなどコンピュータや情報機器の利用が日常のいたるところに入り込んでいるから、というのは間違いないでしょう。

また、数学的知識や思考力の多くは数学や物理の内容に閉じたものであるのに対し、統計分野は実用的(に見える)であるため、より実社会に応用性を求める近年の傾向に沿うのも事実です。

高等学校学習指導要領 数学
教科の目標,数学Ⅰ
第1款 目標
数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
⑴ 数学における基本的な概念や原理・法則を体系的に理解するとともに,事象を数学化したり,数学的に解釈したり,数学的に表現・処理したりする技能を身に付けるようにする。
⑵ 数学を活用して事象を論理的に考察する力,事象の本質や他の事象との関係を認識し統合的・発展的に考察する力,数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表現する力を養う。
⑶ 数学のよさを認識し積極的に数学を活用しようとする態度,粘り強く考え数学的論拠に基づいて判断しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を深めたり,評価・改善したりしようとする態度や創造性の基礎を養う。

高等学校学習指導要領 数学

学習指導要領にも明らかに、「事象を数学化」という文言で現実的な事象とのつながりを重視する方針が書かれています。

現場数学教員の意識との乖離

このことについて、教育現場の数学教員や塾・予備校講師と文科省の意識の乖離が発生しているようです。

そのことを以下の2点に分けて考えます。

  1. 大学入試の観点から

  2. 数学教育の観点から

1.大学入試の観点から

大学入試の観点から考えると、共通テストでは統計分野が必須化したため入試には必ず出題されます。

一方で、記述試験に関しては現時点では統計分野の出題が増加するとはあまり考えられないように感じます。

記述での出題がしにくい上に、答案上で思考プロセスを読み取りにくいために、どの大学でも出題されるかというと疑問符が付きます。

一部の私立大学では出題が拡充される可能性はあります(私立大の数学は穴埋め形式が多いため)が、国公立では出題方法が確立される10年ぐらいは主流とはならないように感じます。

こうした状況のために、学校や塾・予備校で統計分野を重点的に指導するということは難しく、指導者側としても他分野の指導をメインにせざるを得ない状況は続くと考えられます。

2.数学教育の観点から

数学教員の多くは大学で数学を専攻しています。その専攻は大まかに以下の4つに分かれています。(実際にはそこから何百と細分化します)

  • 代数学(方程式や整数など)

  • 幾何学(図形や空間など)

  • 解析学(関数や微積分など)

  • 統計学(確率や統計など)

この4つのうち、数学教員に多いのは上の3つの専攻です。

統計学専攻者の多くは実社会での応用範囲が広いため、教育関係の職業に就くケースが少ないようです。

私の大学時代の理学部数学科はそもそも統計専攻が一番少ないようでした。おそらく私の世代以上でも同様でしょう。

最近はデータサイエンスの盛り上がりから人気かもしれませんが、その世代はまだ在学中かそれほど卒業して時間がたっていないため教育現場には多くないでしょう。

逆に、代数学専攻者は数学教員に多いように感じています。
(完全に個人の感想ですが、数学の教員、講師の方々どうでしょうか?)

人によっては統計学は数学ではなく、数学を利用した別の学問と定義することもあり、自身の専攻と異なるため、指導者側としても統計分野に数学の醍醐味や重要性を感じにくい部分も多いようです。

そうした状況から、現場教員の側にも統計分野への忌避感が存在するように感じます。

統計的知識を持つことの重要性

先日Twitterを見ていると以下のようなTweetがありました。

これは標本調査の典型的な例で、「みそ汁の味見」で例えられる話と同じものです。(鍋いっぱいのみそ汁を味見するにはスプーン一杯でよい)

もちろんNHKの調査対象のサンプリングが偏っている可能性はありますが、それは本件とはまた別の問題です。

実際の標本調査のサイズに関しては統計的な計算は以下のリンクなどを参照してください。

また、以下のサイトでは数値入力をするだけで求めることができます。

母集団を1億2千万、信頼水準95%、許容誤差5%とすると385人となっています。これをいじっているとわかりますが、1万を超える母集団においては標本サイズはほとんど増えなくなることがわかります。

ということは無作為抽出がきちんとできているのであれば、1200人の世論調査は十分有意であることは明らかです。

自分で判断する最低限の基準

ここまでの内容に関して、実際の計算手順は高校2年生から大学教養レベルの内容ですが、標本調査自体は中学校の数学内容です。

そもそも世論調査をするのに全数調査をすることはできないのです。予算的にも、時間的にもです。

また、コンクリートなどの強度実験も全数調査はできません。強度実験は破壊をする必要がありますから、全数調査は全てを破壊することになります。

こうした統計的な「当たり前」の感覚なども含めて、数学科のカリキュラムに入っている以上、私たち数学科教員はしっかりと生徒へ教えていく必要があるでしょう。

専門ではない、数学ではない、自信がない、そうした言い訳をせずにしっかりと学びなおしをして授業に臨みたいところです。

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