『スピッツ論  「分裂」するポップ・ミュージック』~スピッツをテーマに「批評」を学ぶ~

日々の読書に記録を、メモ程度の備忘録として残していきます。

スピッツ論  「分裂」するポップ・ミュージック / 伏見瞬(著/文)

音楽好きとして、身近な音楽を独自の角度から語ってくれる書き手は出来るだけチェックするように心がけているが、伏見瞬はいつも興味深い文章を読ませてくれるので、特に見逃せない。今回初の単著ということで、もちろん欠かさずチェックした。

といいつつも、正直なことを言うと、スピッツについてはほとんど興味関心がない。もちろん超有名曲は認識しているのだが、これまでの人生での接点はほとんどなかった。唯一実体験を伴って想起される記憶は、学生の話題の一つであったが故にチェックしていたフジテレビ系『あいのり』にて、主題歌となっていたスターゲイザーぐらいか。

この本を読んで、なぜスピッツとの距離が遠かったのか、良く分かった。そもそもこのバンドの存在自体が、決して分かりやすいものではなく、「分裂」しているからだろう。そこに良さを見出せるほど、感受性が豊かな子供ではなかったろうなと自分でも納得する。そんな自分でも、1987年の結成以来、マスと適切な距離感を取りつつ、日本のポップシーンに君臨し続け、ここまでの熱量と分量のテキストが生み出されるほどのバンドであることが、十二分に理解できる本であった。

上述のような話もあり、内容について言及するのはなかなか難しいのだが、批評という観点で見れば、「分裂」をキーワードに、ここまで多様な観点を引き出し、そこに一つひとつの具体の要素を拾い上げて組み上げるという、丁寧な営みが行われていることは驚きしかなかった。しかし、「おわりに」で著者本人が書いている通り、もともとは「分裂」で書くつもりはなかったというし、トークイベントにて「分裂」の概念はあまりに汎用的すぎる、便利すぎるのでマジックワード的ではないかという批判もあることを承知の上でこの構成としたという話をしていたと記憶している。確かに「分裂」を使えば、他のアーティストもそれなりのことが書けそうな気はする。ただ、ここまでのクオリティになったのは、スピッツというアーティストの偉大さ、そして伏見瞬の批評の力があってこそに違いない。改めて、圧巻の展開と内容だった。

そしてもう一つ、刊行後のshirasuでの大谷能生、荘子itとのトークイベント「Loveと絶望の果てに届く音楽批評 ──『スピッツ論 「分裂」するポップ・ミュージック』刊行記念」が素晴らしかった。音楽批評、もっと言えば音楽について何かしら書いている人は皆見るべき内容だ。技術的な話もマインド的な話もふんだんにあるのだが、8時間という長時間の中で、話題がごちゃ混ぜになりながら、お酒も入って、次々と斜め上にドライブしていく展開は、常に刺激的な時間だった。
特に良かったのは、7時間30分頃からの、"書くこと"における職業と趣味の話。もうそれでしかないな、、、という素晴らしい話だった。まさしくこの本は、書かなければいけないという宿命に突き動かされて書かれたものだろうなと改めて感じる。
いまだに自分はなかなか文章が上手くならないが、少しは良い文章が書けるようになるように、実践を続けていきたい。そう思いながら、この文章も書いたのであった。

参考

人気バンド・スピッツが表現してきた「エロスとノスタルジア」の正体(伏見 瞬) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)

スピッツが、椎名林檎から受けていた「意外な影響」をご存知ですか?(伏見 瞬) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)

大谷能生×荘子it×伏見瞬「Loveと絶望の果てに届く音楽批評 ──『スピッツ論 「分裂」するポップ・ミュージック』刊行記念」 #ゲンロン220121 | ゲンロン完全中継チャンネル | シラス

【ゲスト伏見瞬+乱入ゲスト春木有亮、荘子it(ビデオ通話)】スピッツ論・LOCUST北海道特集刊行記念、失われた批評再生塾を求めて | 春木晶子のムーセイオン | シラス

伏見瞬『スピッツ論』の紹介 - SoundQuest

#155 結成30年、改めてスピッツの偉大さを語ろう Guests: 伏見瞬、有泉智子(MUSICA) - 三原勇希 × 田中宗一郎 POP LIFE: The Podcast | Podcast on Spotify

#156 死とセックス、醒めない夢の魔術スピッツ Guests: 伏見瞬、有泉智子(MUSICA) - 三原勇希 × 田中宗一郎 POP LIFE: The Podcast | Podcast on Spotify

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