「テスカトリポカ」をどう捉えるべきか

日々の読書に記録を、メモ程度の備忘録として残していきます。

テスカトリポカ / 佐藤 究(著/文)

2021年の直木賞を受賞した大型エンターテインメント小説であるわけだが、まず表紙からして不気味すぎる。直木賞を受賞した作品ということで目には入ってきて、一度本屋で手に取ってみたが、表紙からして危うい空気がぷんぷんだったので、元あった場所にしっかりと戻した。しかし、それから、数か月間、折に触れて、Twitterでこの作品に言及する文章を目にし、やっぱり読んでおこうかという気持ちになった。(最終的には、ソースが見つからないのだが、樋口恭介もツイートしていて、読む踏ん切りがついたという記憶がある。)

ほとんど前提知識なく読み始めたわけだが、ほどなくして、メキシコの麻薬カルテルの話が主題の一つに据えられていることは理解できた。随分前だが、『ハッパノミクス 麻薬カルテルの経済学』という本をざっと読んだこともあって、この内容自体は結構すんなり入ってきた。しかし、正直それ以外の部分、特にアステカ文明の話については、20%ぐらいの理解度しかないだろう。個人的にはそれほど難解だったわけだが、この小説において、やられたのは、メキシコという遠い国の麻薬カルテルだと思っていたら、それがあれよあれよと、日本の川崎の話に繋がってしまったということだ。

小説の特徴として、固有名詞の多さが指摘されている。特に武器の名前や土地の名前など、リアルかフィクションか自分には判断がつかないものが多数ではあったが、正直どちらでもよい。明らかに"リアルさ"をもって、それらの固有名詞が、目の前に迫ってくる。そういう小説だ。まさか、こんなことが今の現代の日本で実際に起きているとは思えないが、ここまで"リアルさ"をもって語られると、もしかしてと思ってしまう。リアルとフィクションの境目が曖昧になってしまう。たとえ、フィクションだと頭では理解していても、身体はそう簡単にはいかない。というかここで書かれていることはフィクションだとしても、世界に目を向ければ、似たような話が起こっていても全くおかしくないわけだ。これは果たして、"フィクション"か?

そして、直木賞の議論の中では、"『こんな描写を文学として許して良いのか』『文学とは人に希望と喜びを与えるものではないのか』といった意見があった"らしい。まぁ分かる。だが果たして、"小説"とは?その意義とは?

そんなことを考えさせる、『素晴らしい』小説だったと思う。

参考

佐藤究さん「テスカトリポカ」インタビュー 暗黒の資本主義と血塗られた古代文明が交錯する、魔術的クライムノベル

『テスカトリポカ』が克明に描き出す「麻薬カルテルの論理」 一級のノワールを堪能せよ

話題の『テスカトリポカ』。古代アステカの人身供犠と現代社会のダークサイドが浮彫にした人間の本質とは?

第237回:アステカ神話が現代によみがえる壮大なノワール
『テスカトリポカ』

史上2人目の直木賞&山本賞W受賞の佐藤究さん「テスカトリポカ」とは…選考委員も1時間激論の超問題作の魅力


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