「予測不能の時代」~"予測可能"の前提を変えて、常識を見直す~
日々の読書に記録を、メモ程度の備忘録として残していきます。週1冊更新が目標です。
予測不能の時代 データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ / 矢野 和男(著/文)
著者の矢野 和男のことを知ったのは、前著の『データの見えざる手』を読んだ時だ。普通に衝撃だった。ここまでデータにストイックである在り方自体もそうだし、人は1日の総活動量が決まっているという主張をデータから導き出すという点などはエキサイティングだった。今回の本はその続編と言っても良いだろう。副題にもある通り、引き続きデータを軸にしつつ、かなりの分量が、幸せ・幸福について書かれているのが特徴的だ。
大前提として、まさしくタイトルにある通り、世の中は、予測不能な時代なのであるということを謳っている。そんなことは当たり前の話だろうと思うが、その当たり前がどれほど無視されているか。企業活動のほとんどは、未来が予測できる前提で組み立てられている。"ルール"しかり、"計画"しかり、"標準化"しかり、"内部統制"しかり、世界は予測不能なのだから、柔軟な対応をすべしといった考え方とは真逆のあれこれである。これは一人の社会人の実感としても全くその通りとも思う正論ではあるが、なかなか変化が難しいというのも良く分かる話だ。
しかし、それでもデータをみれば、予測不能な社会に適応していくためには、これまでの行動の常識を変えていく必要があるということが書かれているのが、この本だ。少なくともデータがあるということが、その主張を強固にする。個人的にかなり記憶に残ったのが、「FINE」の話だ。これは、大量のデータをもとに、ポジティブで幸せな組織に普遍的に存在する4つの特徴の頭文字である。以下の通りだ。
FLAT(フラット)=均等
人と人とのつながりが特定の人に偏らず均等である。つまり、格差や孤立がない。
IMPROVISED(インプロバイズド)=即興的
5分から10分の短い会話が高頻度で行われている。人と人との会話においては、大は小を兼ねない。
NON-VERBAL(ノンバーバル)=非言語的
会話中に身体が同調してよく動く。
EQUAL(イコール)=平等
会議出席者の発言権が、職制に左右されず平等である
そして、これをより実践的な状態に当てはめると、以下の4つの条件を整えることになる。
(1)組織図にとらわれずに繋がりあう。
(2)予定表にとらわれないタイミングで会話しあう。
(3)立場の違いにとらわれずに会話を身体で盛り上げる。
(4)役職や権限にとらわれずに発言しあう。
個人的には非常に納得感のある話だ。ただし明らかにこれまでの常識とは外れている。統率を大事にするためには組織図を意識したコミュニケーションが必要だし、計画的な仕事のためには予定表を意識する必要があるし、特に立場が上の人には礼儀正しく接することが求められるし、役職や権限を意識した発言はむしろ求められていたはずだ。これまでは。予測可能な未来を前提に置くならこれでも良い。しかし、もはやそれは無理だ。予測不能な未来を前提に置き、思考を転回しなければ、そう遠からず手に負えない歪みが生まれることは必至である。
コロナ禍という難しい状況の中でのマインドや取り組みの指針となるような話であり、それらがデータから導き出されたというのは、とても勇気がもらえる話だ。そういったことが、この本には詰まっている。そして、話はどんどん広がり、最終的には、より本質的な幸福の在り方にまで到達する。幸福という最も普遍的であると言っても良いだろう概念に対して、データを武器に時代と真正面から向き合い、これまでの常識とは違った主張を導き出す。全編通して、非常にエキサイティングな内容であった。
参考
「予測不能な時代」に求められる新たな処方箋とは 【第3回】幸せな集団に見られる「FINE」とは - Executive Foresight Online:日立
矢野和男さん 『予測不能の時代』を語る | VOOX - プロから直接学ぶ音声メディア
『予測不能の時代』体の動きで心を変える、心の動きで組織を変える - HONZ