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【医師のイギリス公衆衛生大学院留学】Imperial College LondonのPre-sessional Courseについて

8月30日にロンドンに到着して約3週間が経ちました。
本コースが始まる10月までは外国人向けの3週間のPre-sessional Courseに参加しています。
コース自体はとても充実しており、有料かつ高額ではありましたが参加して良かったなと思っています。実際申し込む時に情報が全然なくて参加することに悩んだので、自分の記録がてら情報を残しておきます。


キャンパスは良くも悪くもモダンな作りです。今年の9月は例年になく暖かい日が続き、英語ではindian summerと言うそうです。

Pre-sessional Courseとは

外国人がイギリスの大学・大学院に進学するためには英語試験のスコアが無条件合格の足切りを超えていないといけないわけですが、それがどうしてもクリアできない場合の救済措置としてPre-sessional Courseがあります。私の所属するImperial College LondonのPre-sessional Courseは、6週間のコースと3週間のコースがあるのですが、6週間のコースは明確に英語試験のスコアがクリアできていない人向けとなっています。6週間コース参加者はこのコースに参加して、コース内での評価を経て本コースに進めるかどうかが判断されます。これに加えて、6週間コース参加者は本コースをカバーするためのビザが発給されていない状態でPre-sessionalの期間を過ごしています。過去数年はPre-sessionalから本コースに進めなかった人はいないという噂ではありますが、Pre-sessionalは原則100%の出席率が求められるので、万が一体調不良で数日休むなどあった場合は本コースに進めずにそのまま帰国…というパターンもありうるのかもしれません。逆にIELTSなどがどうしても無条件合格のスコアに到達できない場合は、Pre-sessional Courseに進むことを前提に受験先を決めるという選択肢は手堅い方法ではあるとも思います。
一方で3週間のPre-sessional Courseは英語試験のスコアをクリアしており、本コースに無条件で進むことが確定している人しか申し込むことができません。このため3週間の方は、完全に任意参加のコースということになります。参加者に対する指導内容は6週間の方を知らないので何とも言えないですが、3週間の方は明確に「本コースが始まった後にAcademic Englishで困らないように」ということを目指して組まれています。なんとなく英会話学校のような3週間にはならないとは予想していましたが、単純な英会話や文法・読解などに関する授業は全くなく、あくまでもAcademic Writing、Acacemic Speakingの基礎を叩き込むコースという感じです。
Pre-sessional Courseは外国人として留学してくる全ての学生が申し込むことができます。このため母国で高校を卒業したばかりの18歳前後の人から、私のような大学院に進学する人まで年齢層は割と様々です。有料のコースとは言え、学部生になる前にこのようなコースに参加してAcademic Englishの基礎を叩き込まれるのは正直羨ましいなと思いますし、日本国外の高等教育の魅力はこういうところにあるのかなと感じる日々です。私自身は医師としてのキャリアの中で英語論文の執筆や国際学会での発表など色々と経験してきましたが、このようなAcademic Englishのスキルに関する指導にどこかで出会えていたら、もっと上手にここまで来られただろうなと思います。

参加者の内訳

外国人向けの英語コースなので、英語を母国語とする国の学生は当然いません。
3週間のコースは合計50人程度参加者がおり、それが4人の先生のもと10人前後の少人数クラスに分けられるので常ににインタラクティブです。国別の内訳は8割くらいが中国、残りの1割が色んなところから来ているという感じです。日本人は私を入れて3名でした。そのほか、フランス・イタリア・ベルギー・韓国・タイ・サウジアラビア・南スーダンなどの学生がいることは実際に喋って確認しました。
6週間のコースも合計50人くらいいそうで、国別の内訳も同じような感じかと思います。3週間のコースと6週間のコースはほとんど交わらないので正確なことは分かりません。

時間割

午前9時半〜12時半 午前の授業
12時半〜14時 ランチタイム
14時〜16時 午後の授業

という時間割でした。ランチタイムが長かったので、私は持参した動物園のサルの餌のようなランチをササっと食べて、可能な限りその日出た課題を休憩時間中にやっていました。

参加費用

2023年は、
6-week course on campus: £3,750
3-week course on campus: £1,870
でした。私は3週間コースで、1ポンド183円くらいでしたので合計34万円くらい支払いました。
実質の授業日数は土日を除く15日間なので、1日2万円…と思いながら日々を噛み締めて大事に授業を受けるようにしていました。

Academic Writing

文章を書く時は必ず以下の4項目を意識せよとというところから始まります。

・What is the piece of writing?
・Who is the intended audience?
・What is the purpose?
・How do the way you organise the text and the language you use relate to the audience and purpose of your writing?

要するに、読者にとってフレンドリーな文章を書くことを常に意識せよということです。
特に4点目に出てくるorganiseというところが重要で、口語的で不明瞭さを持つ表現はとにかく避けるように指導されます。たとえばNowadaysはいつのことかわからないから使わない、a lot ofは誰にとってどれくらい沢山なのかわからないから使わない、some peopleは誰のことかわからないから使わない、のような感じです。

IELTSのWritingでは高得点を取るために、自分の英語力を「見せびらかす(show off)」必要があります。たとえばidiomを使ったり、linking words(However, moreover, in spite of…みたいな)を使ったりします。同じような意味の単語が頻出する内容の場合は同義語で言い換えて自分の語彙力を見せつけます。しかしAcademic Writingではこれら全てしてはいけないと教わります。シンプルで一貫した表現をすること、そして文章と文章の流れを作り読者が読むのに苦労しないこと。これをCohesion Techniqueと呼ぶそうです。

Cohesion Techniqueとして以下の3つを教わりました。
・Overwrapping vocabulary
・This/These noun
・Linking words

Overwrapping vocabularyは専門用語をはじめ、頻出する語句は表現を統一させることで曖昧さを無くします。

This/These nounはたとえば、
One way of estimating the population of fish in a body of water is by using a method called Capture-Recapture. In this method, a first sample of fish is caught, counted, tagged and released.
という文章の太字の部分のような表現をさします。このような表現があるだけで流れが圧倒的に良くなります。

Linking wordsは日本人も大好きな、However, Additionally, Moreover…のような文章と文章を繋げるための接続副詞のことです。コースではこれらの単語は想像している以上に強力な単語なので、100%狙った意味で使えているかどうかを必ず意識せよ、と教わります。そしてとにかく使いすぎるなと教わりました。上記のような文章の目的と構造がちゃんと意識できていて、Cohesion techniqueが効果的に使えていればlinking wordsはほとんど不要になります。たしかにlinking wordsがたくさん出てくる文章は少し幼稚というか、押し付けがましい印象がなんとなくありますし、逆に驚くほど読みやすく洗練された文章にはlinking wordsがあまり出てこないことにも納得です。唯一、Howeverなどの表現は非常に効果的なので狙って使うと良いとのことでした。

これらのような内容を基礎として、さまざまな課題に取り組みます。
3週間のコースではWritingに関しては採点される課題が合計3回出て、細かいフィードバック付きで返却されました。以下の文章はWeek2に課題で出された空飛ぶ3Dプリンターに関するエッセイで、私が書いたものが添削された後の姿です。このロボットを作っている研究者の講義動画と1000words程度の文章が2本ほど与えられて、その内容をまとめよというものでした。

この課題では、以下のようにTask response(課題にちゃんと答えているか)、Cohesion(文章の流れが良いかどうか)、文法、語彙の4項目が評価されます。ご覧の通り、この時は20点中16点でした。

ちなみに私は医学系ですが、このコースは医学系以外の人も沢山いるので授業や課題で扱うテーマはSTEMM(Science, Technology, Engineering, Mathematics, Medicine)のどれかが選ばれます。Academic Englishを学ぶコースなので、自分に専門性がなくても課題や授業はついていけるように上手く作られています。

Academic writingのド基礎を教わりましたが、これまでもスラスラ読める英文と何度か読み直さないと理解できない英文に出会うことがありました。後者に関しては自分の読解力や集中力の問題だけかと思っていましたが、今思うとreader friendlyな文章でなかった可能性もあるんだなと気づきました。今後綺麗に書かれていて読みやすいと思う文章を見た時は、なぜ読みやすいのかを分析して上手な表現を盗むような努力をしたいです。そして教わったテクニックを意識して、いつかは自分も流れるような文章を書けるようになりたいなと思いました。

Academic Speaking

前提として、3週間コースの参加者はIELTSのSpeakingセクションで6.5以上は取っているわけなので、みんな割と普通に英語を喋れます。しかし日常会話とAcademic speakingとなると話は別なので、どっちも上手になるように頑張ろうねというのが趣旨です。

まずは、Speak clearlyとSpeak accuratelyから始まります。Writingにも共通しますが、曖昧な表現や慣れ親しんでいない表現を回避して、自分が心地よいと思う程度のレベルで喋ることを推奨されます。そしてWeek1の初っ端から、とあるテーマに関する講義動画を見て、それを2分程度にまとめてプレゼンする動画を撮影して課題として提出します。この際、原稿読みは当然一切禁止、録画はPCで行いますがカメラ一点凝視で目線をそらしてはいけない、ボディランゲージや抑揚などもうまくつけないと良い点がもらえないという代物でした。

Week2には自身の本コースと関連する教科書(本コースの1学期目のreading listに含まれている教科書を推奨)から1000words程度の文章を引っ張ってきて、その内容を専門外の人に3分でわかりやすく説明するという課題が出ました。この際、必ず図表を1点用いて、パワーポイントでそれを説明しながらクラスのみんなの前で立って説明するという流れでした。個人的にはさすがに緊張はしませんでしたが、専門外の人にわかりやすく説明するというところがとても難しく感じられました。私はvaccine epidemiologyに関する話をしましたが、そもそもvaccineという英語を知らない人もいる(日本で予防接種というように、各国で必ずしもワクチンというわけではない)ので、vaccineとはそもそも…という話をしたりしていました。なおテーマを決める際に、自身の本コースのwebページを隅々まで見てどのような研究が行われているのかを知ったり、図書館をはじめとした様々なリソースの使い方などを教わります。確かに本コースが始まってからも同じような流れで色々な課題をこなしていくだろうことを考えると、使えるリソースをいかに上手に使うかということを教えるというPre-sessionalの明確な目的も見えた気がしました。

Week3にはWeek2で読んで発表した内容を発展させて、パワーポイントで10分間のプレゼンをします。プレゼン後は2分間の質疑もあり、もはや学会発表のような雰囲気です。プレゼンの具体的な指示は、

自身が選んだ分野のコンセプト、デバイス、コンポーネント、方法、システム、アプローチ、プロセス、アプリケーション、テクニックのいずれか1つについて、10分間の有益なプレゼンテーションを行うこと。
プレゼンテーションの条件:
・トピックの背景を説明すること
・コンセプト、デバイス、コンポーネント、メソッド、システム、アプローチ、プロセス、アプリケーション、またはテクニックを説明すること。
・限界(limitation)を特定し、その限界をどのように克服できるかを説明すること。
・応用、将来の発展、関連する研究を要約すること。
・そのトピックを知らない人でも理解できるように話すこと。

というものでした。これって母国語でも結構レベル高いことを要求していると思いますし、英語なら尚更という感じがします。大変そうではありましたが、これから学部生になる子たちがこれをこなしているのは本当にすごいなと思いました。

これらの課題はWritingと同様にすべて採点されて、細かいフィードバックとともに返却されます。私はどれも大体16点/20点満点前後でしたが、他のクラスメートの点数を知らないので良いのかどうかはわかりません。

正直3週間のコースで英会話能力が劇的に伸びることはあり得ないと思っていましたし、実際ほとんど変わってないと思います。しかし効果的な英語プレゼンをするためにはということに思いを馳せる良い機会になりました。過去に参加した国際学会で内容を覚えられず原稿を読んでいた自分を叱り飛ばしたい気分です。

シンポジウム

上記のような個人課題に加えてシンポジウムというグループ課題がありました。
本コースが同じ、または似ている3~4名の小グループに分けられ、「自分たちの所属する学部で行われている研究が2050年のロンドンにどのような影響を与えているか」というテーマに関して、ポスター発表をするというものでした。
このシンポジウムの目的は、グループワーク課題に慣れること、準備から発表までの間に上記で習っているacademic writing, speakingのスキルを活かすこと、そしてポスター形式での学術発表に慣れることかと思います。特に近年国際的な学術集会では発表者と聴衆がよりインタラクティブなやりとりをすることができるポスター形式の発表がより好まれているとのことで、何となく米国感染症学会(IDweek)に参加した際に一般演題はほとんど全てがポスターで合計2000枚以上が会場に貼られていたことを思い出しました。
私のグループは同じコースに進む日本人医師、サウジアラビア人薬剤師、医療系の違うコースに進むイタリア人薬剤師の4名でした。Week1の最終金曜日に初顔合わせをしてテーマを決め、Week2には指導担当の先生にパワーポイントを用いて4分間で大筋をプレゼン、Week3の木曜に6週間コースも含めた全員が参加できる大きい会場にポスターを掲示して発表する、というものでした。私たちのグループはteam medicineでしたので、日本語でいわゆるオーダーメイド医療と呼ばれるようなpersonalised medicineについての内容にしました。Imperial College Londonでは興味深い研究が沢山行われていることも知られて良い機会になりました。

Succed in Imperial

という名前の特別講演が毎週木曜にありました。
大学所属でものすごく活躍している研究者が招待されて講演してくださりました。
いずれも医学系ではなかったのですが、キャリアの積み方、学部・大学院時代の時間の使い方、どのように今の研究に至ったか、非専門家とのコミュニケーションの取り方などが散りばめられていて面白かったです。
そして決して受け身で授業を受けるだけではなく、これはnote takingの訓練として時間を過ごすことになります。授業を受けた後に周囲のクラスメートとお互いのnoteを見比べて認識の相違がないかを確認したり、そのnoteを元に短時間でエッセイを書いたりしました。

ソーシャルイベント、その他

せっかくの機会だからということで、任意参加の交流会や放課後にみんなで公園や博物館に行ったりするイベントが週2回ほど企画されていました。ハイドパークや大英博物館、チャイナタウンなどにみんなで行っていたようです。私はこの手のイベントは気を遣いすぎて、ものすごく消耗してしまうので全く参加しませんでした。個人的にですが、仲良くなった日本人医師の方とご飯に行ったり、イタリア人薬剤師と土日に観光したりしていました。
後はなぜかクラスの中の代表に選出され(一番お兄さんだったからか…)、クラスの参加者の意見をとりまとめて先生たちにフィードバックする学級委員長的な仕事も拝命しました。

課題も結構出ますが土日はなるべく観光していました。こちらはPrimrose Hillという景色の良い丘で、みんなのんびり過ごしていました。
キャンパスの真裏にあるロイヤルアルバートホール。学位取得後の卒業式はここで行われます。

Pre-sessionalの良い点・悪い点

正直お金と時間が許すのであれば参加するメリットしかないと思いました。
何より純ジャパニーズの自分にとって、英語圏の国で朝から晩まで英語で授業を受けて課題をこなすというのがどんなものなのかを、本コースが始まる前に知ることができたのは本当に良かったです。
そしてImperialがどのようなリソースを学生に提供しているのかを知ることができたのも有り難いですし、高い学費を払っているので今後も存分に活用しようと思いました。
そして、本コースが始まる前にそこで出会うクラスメートに少し早めに出会って仲良くなれるのはとても大きいです。同じ外国人どおし1年間のコースでものすごく助け合うことになると思います…。
逆にコースの悪い点は、自費で支払うのであればかなり高額であるところ、社会人留学であれば本コースより1ヶ月近く前に渡英しないといけないところでしょうか。英語能力がそこそこ高くて学ぶことがあまりないという方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、Pre-sessionalのコースの先生たちはみな「ネイティブでもacademic englishには苦労する」と言っていたので、誰にとっても何かしら学びはあると思います。

その他
・応募の際にIELTSの通常版とIELTS-UKVIの違いを知り、大慌てしたのもPre-sessionalがきっかけでした…。詳細はこちら
・応募の際に定員があるのか、どれくらいの競争率なのか、早めに申し込んだ方が良いのか、などが謎でしたし、今も不明です。しかし直前まで申し込みが終了にならなかったので、おそらく人数制限はないと思います。多く参加してもらればその分儲かるわけですし。
・課題の難易度をどう感じるかは人それぞれだと思いますが、単純に宿題は結構多いので中には週の後半に疲れ切っているクラスメートもいました。
・クラスの9割くらいが中国からの学生で、彼らは集まって中国語を喋ります。先生たちもしょっちゅう英語で喋ろうねと指導していました。

最後に

本コースが始まる前にacademic Englishを勉強するPre-sessional courseに参加しました。
私は任意参加だったのですが、参加して本当に良かったと思っています。
本コースが始まってからも教わったことを思い出しながら課題に取り組みたいと思いましたし、使えるリソースを使いまくってやろうという思いです。
自身がPre-sessionalに申し込む時になかなか日本人からの情報が見つけられなかったので、今後誰かの役に立てば幸いです。

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