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またここに帰って来たい、そう思えた場所

この場所を知ったのはTumblrで見た写真だった。

家屋と家屋の間から覗かせる美しい海の色に猛烈に感動を覚えた。それは阿寺渓谷の阿寺ブルーと呼ばれる青とは違い、また寸又峡のエメラルドグリーンとも違う青だった。美しいがどこか物寂しく、そして温かみを感じさせる海の色だった。その青をどうしてもこの目で見たかったのだ。

行きたいと思い続けて3年の月日が流れた。この3年間はまるで生まれ故郷を思い返すかのようにこの海の色が想起された。実際に見るこの海は僕の目にはどのように映るのだろう。そんな少しの期待と、知らない土地に足を踏み入れるという少しの不安が入り混じっていた。

先月ふとしたきっかけでこの土地に行く機会が巡ってきた。これまで何度かここに行く計画を立てていたのだが、天気が悪かったので行くことをやめたということが3回くらいあった。どうせなら快晴の気持ちの良い日にここに行きたいと心に決めていた。陽の光が水面に煌めいている光景を見たかったからである。

僕が来るのを待っていてくれたのかのように、その日は快晴だった。まさに春がやってきたと言わんばかりの快晴だった。その週は雨予報が多く、向かっている途中も雨が降っていたが、奇跡的にその日だけ晴れてくれたのだ。

向かう途中の車からチラチラと恋焦がれていた海が顔を覗かせる。流行る気持ちを抑えながら、木造の家の間を抜けて行った。

車を停め、一目散に海へ向かった。

長い長い階段を降り、暖かい春の風と少し冷たい浜風を全身に浴びながら海へと足を進めた。

3年間待ち望んでいた海が目の前に広がった。「うわぁ…」とも「綺麗」とも言えず、ただただその海を目に焼き付けていた気がする。あの日Tumblrで見た写真の海より何倍も綺麗だった。

以前にここに来たことがある気がする。初めて来たことは分かり切っているのに、この場所の暖かさがそう思わせてくる。誰もが持っている「故郷」というものと同じ暖かさ、匂い、空気感を感じさせるからだろう。ようやく故郷に帰ってきたのだ。

この大きく暖かい海がいつまでも僕の帰りを待っていてくれる、そんな気がした。

京都府 伊根の舟屋

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