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工場見学で静岡のものづくりにムーブメントを | 株式会社山崎製作所 山崎かおり社長インタビュー

昨年10月、本社をまるごと移転しました。これも「オープンファクトリー」の取り組みへの第一歩です。開かれた工場・開かれたオフィスを意識しています。
 
そう楽しそうに語るのは、株式会社山崎製作所山崎かおり社長です。

同社は金属加工への熱い情熱と熟練の技術で地域のものづくりを支えてきました。また昨今では、板金技術を用いたモダンなデザインのかんざしやインテリアが全国から注目を浴びています

KANZASHI

山崎製作所の山崎社長は、ものづくりの魅力を伝える工場見学イベント「静岡オープンファクトリー」の中心人物でもあります。

静岡みんなの広報は山崎社長に、オリジナルブランドに込めた想いやオープンファクトリーを開催するまでの経緯を伺いました。


知られていない静岡のものづくり

静岡は県を上げて「ものづくり」をアピールしていますよね。ヤマハのピアノにタミヤのプラモデルもある、ツナ缶や医療機器生産高も日本一ですし、ほかにもたくさん全国に誇れるものづくりがあります。

ですが、まだまだアピールの余地は残っているのではないでしょうか?

たとえば、自社製品の展覧会で県外に赴いた際、「静岡で金属加工をやっているなんて珍しいですね」と言われたことがあります。静岡の板金工場なんて全然珍しくないのに……。

守秘義務があったり、情報発信まで手が回っていなかったりで、地元の方々にもその魅力が正しく伝わっていないと肌で感じています。

静岡県のものづくりの技術は本当にすごいんですよ!

ただ、私たちのような製造業者は、取引相手のほとんどが企業です。小売業の方々と違い、消費者との接点があまりありません。そのため「あの商品をつくっている会社ね!」と知られにくい問題が挙げられます。

この問題に突破口を見出すために取り組んだ結果が、弊社のオリジナル製品「KANZASHI」であり、静岡の工場を一般の方々に開く「オープンファクトリー」への挑戦です。

山崎製作所工場内の様子

おかげさまで、KANZASHIは弊社のヒット商品に成長しました。また、オープンファクトリーも、プレイベントにもかかわらず多くの方々に関心を持っていただいています。ありがたいことです。

ここに至るまでには、板金の業界、ひいてはものづくり業界全体にも関わるちょっとした気づきがありました。

オリジナルブランド「三代目板金屋」誕生

みなさんは燕三条という地域をご存じですか?

燕三条は新潟県にある刃物や洋食器の製造で有名な場所です。じつは日本に出回っているフォークやスプーン、ナイフといったカトラリー製品の9割が燕三条でつくられているんです

みなさんのご家庭にあるフォークやスプーンの裏側に「メイドインジャパン」と書いてあるものは、ほぼほぼ燕三条製。さらに燕三条の地でつくられたカトラリーは世界で愛用されるブランドにまで成長しました。

ではなぜ、燕三条が世界から注目されるブランドになれたかというと、金属加工に特化していたからなんですね。

一方で静岡県は、いろんな産業が発達しているせいで個々が目立ちづらいのかもしれません。「クラス全員が優等生だから一人ひとりの成績が目立たない」みたいな感じだとイメージしています。

また、先ほども申し上げたように、一般のお客さまと接点が少ないことが知られにくさに拍車をかけていると考えました。

そこで私たちは悩んだ末、「自社製品の開発」に着目しました。

板金作業の様子

もし自社製品がヒットすれば、「アレをつくっている会社」というルートで弊社を知ってもらえるかもしれませんし、そこから派生して静岡の産業を知るきっかけになるかもしれません。

では、いったい何をつくろう?

私たちの強みといえば、なんといっても金属加工の技術です。金属の板と棒からどんな形でもつくってしまいます。この強みを活かし、かつ消費者の方々に認識されやすい独自性の強い製品とは……。

アイデアをくれたのは一人の女性社員でした。

工場に新たな視点を

彼女の「パソコン用のデスクが欲しい」の一言から、インテリアグッズの販売が決まりました。

現在も幾何学的デザインのインテリア「ORIGAMI」シリーズはオンラインショップでご好評いただいています。

このインテリアの開発を通して気がついたのは、工場に「女性の視点」を持ち込むことの利点です。

これは何も、“女性だから”とか“男性だから”といったジェンダーの話ではありません。

昔は金属を加工するために、体力と筋力がかかせませんでした。したがって、どこの板金工場も力の強い男性が主体となって築いてきたので、ものづくりにも男性の意見が反映されやすい環境にあったと考えられます。

だったら、そこに女性の視点、つまり今までなかった物の見方を入れたらどうなるのだろうと、早速、女性社員だけを集めて新しいプロダクトの開発を始めました。

ORIGAMIのスツール

男性もそうだと思うんですが、同性だけで集まると意見が言いやすいんですよね。自分の意見を聞いてもらえるとわかれば、アイデアもどんどん湧いてきます。

こうして始まった女性のプロジェクトチームによる企画会議ですが、ふとしたタイミングに、静岡のものづくりのルーツについて調べる機会がありました。

ルーツは徳川家康にあり

静岡のものづくりの原点って、江戸時代にあったんですね

ご存知の方も多いのかもしれませんが、徳川家康が駿府城や久能山東照宮を築く際に、全国から優秀な職人たちが静岡に集められました。静岡市中心街には、現在も町名にその痕跡が残っています。

研屋町(とぎやちょう)には刃物の職人、紺屋町(こうやまち)には藍染の職人、大工町(だいくちょう)には大工、といったように職業別集住制の下、その道のプロフェッショナルが住まい、静岡の文化と技術を築いてきました。

これこそ静岡が「ものづくりのまち」と呼ばれる所以です。

職人の中には金属加工の専門家もいました。飾職(かざりしょく)と呼ばれた彼らは、たとえば刀のつばの細工だったり、箪笥の角の飾り金だったり、金属を加工して美しい装飾品をつくっていました。

調べていくうちに、飾職の中にはかんざしや髪飾りをつくる職人がいたこともわかりました。

「かんざし、いいじゃん!」「静岡の伝統を引き継いでるって感じするよね」「今の技術でかんざしをつくったらどうなるんだろう?」と、チームの中で話が盛り上がっていきました。

そのような経緯で生まれたのが、弊社の板金技術を用いてつくったステンレス製の「KANZASHI」でした。

三代目板金屋「KANZASHI」

星マークがついているだけのシンプルな形からスタートしたかんざしづくりでしたが、その後、世界中の髪飾りを研究するなどし、徐々に改良を加えて今の形になりました。

使ったことのある方にはわかると思うのですが、髪留めの爪ってとても折れやすいんですよね。その点、ステンレス製のKANZASHIは、ほとんど一生ものと言っていいほど折れることはありません。

購入された方の中には、長年ヘアアップに悩んでいた方やお仕事でヘアメイクをされている方なんかもいらっしゃって、「私たちの欲しかったものをつくってくれてありがとう!」という感謝のお声もいただきました。

中でも記憶に残っているのが、ご主人から名入りのKANZASHIをプレゼントされた女性からの言葉。

彼女は最初、「こんなお洒落なもの使えないよ」と身につけるのをためらっていました。しかし、その後ご主人がお亡くなりになり、彼女にとってKANZASHIは形見のような品物になったそうです。

それこそ江戸時代だと、かんざしはプロポーズの時に送られるほど愛情のこもった贈り物だったといいます。私たちのつくった製品が、誰かにとって特別な意味を持った贈り物になることもあるのだと実感して、涙が出そうになりました。ものづくり冥利に尽きますね。

KANZASHIが生まれるまでに、ゴルフのマーカーをつくろうとしてみたり、ジュエリーに手を出してみたり、あっちに行ったりこっちに行ったりジタバタジタバタしていました。

商品を思いつくコツはありますか?」なんてよく聞かれますが、正攻法なんてないんじゃないでしょうか。もしコツを挙げるなら、「あがくこと」かな。失敗をたくさん重ねた上で、初めて見えてくる光があると感じています。

ブランド名に込められた願い

ブランド名は「三代目板金屋」です。

おしゃれなデザインのかんざしやインテリアを扱っているのだから、もっとスタイリッシュな名前にしてもいいのでは? と思われるかもしれません。

たしかに、名前が決まる前は「横文字のブランドっぽい名前がいいよね」とか「鉄成分の多い惑星の名前にしよう!」と盛り上がっていました。しかし、名前を決める前に一度立ち止まって、私たちの目的をあらためて問いました。

このブランドを通して、私たちが何をしたいのか?

私たちはかっこいいブランドをつくりたいわけでないし、売れることだけをゴールにもしていません。真の目的は、板金の技術や文化を絶やさずに次世代に継承していくことです。

一目で何をやっているかわかる名前にしようと、伝わりやすさを優先してストレートに「板金屋」と名付けました。

なぜ、“三代目”板金屋なのか? ここにはNEXT(次)の意味が込められています

板金作業の様子

ずっと昔から受け継がれてきた板金の技術、その歴代の継承者を「初代」とカウントした時、私たちの世代は「二代目」にあたると考えます。つまりその先の世代、「三代目」に技術や伝統を引き継いでいくんだという気持ちを込めてこの名前を選びました。

ちょっと無骨で、とっつきにくい名前かもしれませんが、技術と結びつくので覚えてもらいやすいようです。

工場の魅力を伝える「オープンファクトリー」

静岡の産業を盛り上げたいと考えているのは弊社だけではありません。

もっと私たちを見てほしい! 知ってほしい!
静岡のものづくりは、本当はもっとずっとすごいんだ!

そんな熱い想いを持った有志が集まって開催するのが、静岡初のオープンファクトリーイベント「ファクハク」です。オープンファクトリーとは​​工場を開き、一般の方々に見学・体験してもらう取り組みのこと

工場って、中で何をやっているか想像しにくいですよね。

私たちはコンプライアンスを守って誠実に仕事をしているつもりなのに、中身が見えないだけで、「不気味だな」とか「危ない物つくってるんじゃないの?」とか思われてしまうこともあります。

でも反対に、「知っている」は応援に繋がります。ご家族や友人が働いている会社さんの商品を見かけたら、応援のつもりで買ってしまうことありますよね? 

同じように、よく知っている企業や工場は応援したくなるはずなんです。

一般の方々に工場を開放し、親近感を持ってもらうこと。そして、企業と地元の方々が一緒になってものづくり業界を盛り上げていくことがオープンファクトリーの主な目的です。

昨年の本社移転時には、すでにイベントの計画を進めていました。なので、どうせなら……と、中を覗きたくなるような工場、オフィスを意識して新しい社屋を設計しました。

昨年10月に移転したばかりの新しい社屋

今年の秋には取り組みに賛同してくれる会社さんを巻き込んで、大規模な工場見学のイベントを開催する予定です。

オープンファクトリーを通して静岡のものづくり業界に新しい風が吹くことを期待しています。

▼3月に開催されたプレイベント「ファクハク」の様子はこちら▼

社員を育てる工場見学

ものづくりへの理解を深め、親しみを持ってもらうことだけがオープンファクトリーの目的ではありません。参加する企業に多くのメリットをもたらしてくれます。

一つ例を挙げるならば、人材育成に繋がります。

オープンファクトリーでは見学に来てくださった方々に、自分たちの仕事について社員が説明をするシーンがあります。どんな作業をしているのか、どんな工夫があるのかといったことを、誰にでもわかるようにお話しするのって、案外難しいんですよね。

専門用語や社内の共通言語に頼って、普段あまり深く考えずに担当の作業をしていることが往々にしてあります。

工場見学の様子

それを誰かに説明するつもりで噛み砕いて言語化してみることで、自分の中でも情報が整理されて仕事への理解が深まるんです。仕事への理解は業務改善にも繋がります。

このように、オープンファクトリーは自分たちの立ち位置を客観的に見る良いチャンスになります。

また、日々当たり前にやっている業務でも、誰かにとっては新鮮で輝いて見えることがあります。「オレたちいいことやってるじゃん!」と気付かされ、仕事へのモチベーションがアップも期待できます。

オープンファクトリーの取り組みに乗り気ではない方々から、「あなたのところは工場が綺麗だからできるんでしょ。うちは汚いから……」とお言葉をいただくこともあります。

しかし、工場をオープンにしたことで社員の「5S」——整理・整頓・清掃・清潔・しつけへの意識が高まり、仕事がしやすい工場になったという事例もあります。

表面的な美しさ、スタイリッシュさが必ずしも魅力に繋がるとはかぎりません。美しさの本質は、ものづくりへの情熱や信念に宿っています。職人たちが磨いてきた熟練の技術、洗練された作業場というのは、人の心を動かす力を持っているはずです。

秋に開催される本イベントにもぜひ遊びにいらしてください!

お知らせ

静岡のものづくりの魅力を伝える「ファクハク公式note」は毎週火曜日に更新です。最新情報や関連企業の情報をアップしていきますので、こちらもぜひチェックしてみてください。

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運営企業:株式会社LEAPH


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