Tully'sの女の子の話
「私ね、彼から連絡が来るのをずっと待ってるの」
Tully'sで偶然隣り合った女の子が、連れの女の子にそう話していた。
「もうどれくらい連絡来てないの」
「2週間」
彼女の目の前のチーズケーキは手つかずだった。
「寂しくないの?」
友人がフォークでケーキを切り崩しながら言う。
「寂しいよ。心がねじ切れるくらい寂しい」
彼女は薄く微笑みながら答えた。
「じゃあ自分から連絡すればいいじゃない」
「しないよ」
「どうして」
「彼から連絡がないってことは、今私は求められていないということか、あるいは彼の中の優先順位が低いということでしょう。それなのに私だけが寂しくて、私だけが会いたくて、それを伝えてしまうなんて、敗北したみたいで悔しいじゃない」
彼女はそっと、恐らく冷めているであろうコーヒーに口をつけた。
「彼がもう、自分のことを好きではないかもしれない可能性は考えないの?だとしたら、あなたの2週間は無駄になってしまうのよ」
友人は少し憤慨したようだった。
「そんなことは、とっくに覚悟してる」
彼女は人差し指で、そっと口元を拭った。
「あの人を思っているのは私だけかもしれない、それでも、あの人が好きだと思えているうちは、せいぜい馬鹿みたいに思い続けていたいの」
「辛くないの?」
「辛いよ」
「彼に怒りは湧かないの?」
「怒ってるよ、すごく」
彼女は笑った。
私はその女の子を、とても愛おしく思った。私が彼女好みの素敵な顔立ちであったら、迷うことなく口説いてしまうのに、と思った。
「恋愛なんて、馬鹿になってないとやってらんないのよ」
彼女はそう言って、初めてチーズケーキに手をつけた。
――この子を手放そうとしているあなたは愚かだよ。
私は、どこの誰だか分からない「彼」に向かって忠告し、コーヒーを飲み干して立ち上がった。
この記事が参加している募集
眠れない夜のための詩を、そっとつくります。