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東京でOLをしながら小説を書いていた頃

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だいすきでだいきらいだった東京。
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2021年10月の記事一覧

傘

傘をなくした。

だから雨の日はずぶ濡れで外に出ていた。冷たくて寒かったけどどうでもよかった。自分を守るための傘を買うお金を、自分を傷つけることに使っていた。顔を濡らすのが雨水なのか涙なのかわからなくなっていた。

傘をもらった。

びしょびしょになっている私を見かねたのか、見知らぬおじいさんが「もってきな」と言ってくれた。大きくて立派な傘だった。不意をつかれて心の感度を取り戻しそうになったけど、

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日曜夜の戦中記

日曜夜の戦中記

書けない、と思ってこわくなったときはとりあえず書け、私。

床の上で泣いて目を腫らしたら、あとはもう冷やして明日に備えるだけだよ、私。

ゆるす、ゆるさないのを決めるのは私だよ、私。

「言葉なんていらない」という概念を表す言葉が存在する世の中だ、「言葉にしなきゃわかんないよ!」という台詞と「言葉より大切なものがある」という台詞が混在する世間だ、言葉にできない瞬間の蓄積でできた世界だ。言葉がうるさ

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身長差331.5メートルの恋人

身長差331.5メートルの恋人

東京で働き始めて半年(うち2ヶ月は休職)、
初めて東京タワーを見た。

職場の最寄り駅から山手線で2分だけ離れた場所に、
私のことなど知らんぷりで立っていた。

真昼間の浜松町の路上で、
東京タワーを見上げて感慨に耽る私の横を、

絶えず人々が行き交い、
時間は忙しなく流れ続けていた。

会いたいと思っていた人とは
必然的にかつ偶然的に出会えるように

心の準備を何もできていないまま
私は会いたか

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夢なんて言葉じゃ語れないくらいの

夢なんて言葉じゃ語れないくらいの

「物書きはかすみを食べて生きているわけではない」

最近触れた、柳美里さんの言葉だ。
血を吐く勢いで頷いてしまった。

私は文章が好きだから書く。
書くことは呼吸だから書く。

でも呼吸はできても、ごはんを食べなければ死んでしまう。家賃も年金も払わないといけない。

休職していた期間、お給料が出なくて、ものすごくこわかった。

私を経済的に支えてくれるのは会社で、会社を失ったら野垂れ死ぬしかなくて

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