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「Twilight Space online ―シンデレラ・ソルジャー―」第一話

あらすじ

  • 268文字

VR用ブレイン・マシン・インターフェイスによる生体ユーザー認証機能を、チェーンブロックのマイナー選別に応用したNFTーVRMMOゲーム「T.S.O」。

主人公・今原カエデは、T.S.Oで自らを試すため、大手ギルドの開催した公開オーディションへと挑む。彼女は恋人や個人用アシスタントAIの力を借りオーディションを進めていくが、談合によってプレイヤーを狩っていたグループの罠にはまり、恋人からもらったゲームの銃を奪われてしまう。主人公は様々な思いを抱えながら、その銃を取り戻すべくT.S.Oの戦いへと挑み、銃を奪った敵を倒すことに成功する

  • 本編約130000文字

本編・第一話

  • 7469文字

『また天国は、ある人が旅に出るとき、その僕どもを呼んで、自分の財産を預けるようなものである。すなわち、それぞれの能力に応じて、ある者には五タラント、ある者には二タラント、ある者には一タラントを与えて、旅に出た。』

「マタイによる福音書(口語訳)」第25章 14-15節

「はじめまして、皆さん。こんにちは、ニーハオ、ハロー。もしかしたら、そちらは”こんばんは”でしょうか? 

 私はいま、CB-48星系・第六惑星衛星、F25「コーサ」という星にいます……ほら、こうするとよく見えるでしょう? この青空に浮かぶ、あのうっすら見える輪を持った、大きな惑星。

 そうです。いま私はあの大きな惑星の軌道上を回っていて、そう。こちらがあの惑星の月なんです。

 ええと、この世界――この宇宙は、この動画のタイトル・概要欄の方にも書いてあると思うんですが、「T.S.O」トワイライト・スペース・オンラインというVRゲームの中の仮想現実の世界です。このゲームにはこうして約十億個もの恒星系をもつ巨大銀河まるまるひとつが、手続き型自動生成によって再現されているんです。

 そう、十億もの恒星系。何万光年も隔てられて、夜空に浮かぶ小さな星々。そしてその恒星を回るああした惑星から、このコーサのような比較的小さな衛星まで。そこにはあのような巨大なガス惑星――木星型惑星もありますし、ここよりもっと生命に充ちた、生命体の住む地球型惑星も無数に存在しています。

 凄いですよね。最新のフルダイブ型VRで、こんなにもリアルな仮想空間上の惑星の数々。さらには、そうした星々が無数に存在する、大きな銀河そのものを。いまはまだかなり高価なんですけど、私もこうしたVR機器を……ちょっと。その、えっと――

 ――はい。でも、もしかしたらこの「T.S.O」というゲームを、もっと別の形で耳にした人もいるかもしれません。

 世界初のPoP型、準仮想通貨取引ネットワークを提供するNFTゲーム。

 ええと、プルーフ・オブ・プレイ、つまりこのゲーム遊ぶことによって、その台帳に新たに記帳される新規通貨を受け取れる……というか、その権利を得られるゲーム。以前ネットニュースなどにも話題になった、ゲーム内総資産約三千億ドルにも上る、遊んで稼げる最先端のVRMMO。

 まあ、私もこの動画をとるにあたって色々調べ途中で――そこまで詳しくないんですけど。

 2010年代でしょうか、現在でも取引されている仮想通貨の老舗有名銘柄ビットコイン・BTC。それから、同じく初期からの有名銘柄であるイーサリアム・ETH。これらには、プルーフ・オブ・ワークそれから現在のETHではプルーフ・オブ・ステークという仕組みを採用しています。

 つまりNFTの信頼性を保証する、ブロックチェーンへ次の取引記録を承認する代表者を、ある膨大な計算課題によって選別したり、もともとその通貨を持っている人から選んだり。

 ええと、なんて言えばいいんでしょうか……ようするに、取引記録の正しさを保証して編みこまれてゆくブロックチェーンというものに次のブロックを繋げるにあたって、その整合性のある正しい記録というものを信頼できる誰かが承認し、ネットワーク上の皆に共有させなきゃいけないんですけど――その信頼というのはべつに身分証明とか、年収とか、学歴とか……いえ、全然そういうものではなくて。ですから、そのネットワークを乗っ取ってやろうとか、そういう悪意のないユーザーでなければならない……みたい、なんですよね。

 そういう事情からビットコインでは、その代表記帳者への選別に非常に計算量のいる問題を課して、簡単には悪意あるユーザーが代表者になれないようにというPoW方式。そしてイーサリアムでは、そもそもその代表記帳者候補にその仮想通貨をある程度保有している人を選んで、通貨への信頼性を損ねるような行為を抑制させる仕組み、PoS方式をそれぞれ用いているそうです。

 そうして取引が信頼できるユーザーによってまとめられ、ネットワーク上の皆の台帳に記帳される。つまり、新しいブロックチェーンが作られるにあたって、その代表記帳者へ報酬として新規通貨が発行され贈られます。これがいわゆる仮想通貨のマイニングですね。

 こして仮想通貨がもらえるということが、皆にその通貨の安全性を守ってもらえるという安心につながり、そしてその安心というものがその通貨への信用価値を高めます。

 つまり仮想通貨などのNFTには、こうした悪意のないユーザーの選別と、そうした人々が台帳ネットワークに積極的に参加してくれる、訴求力あるインセンティブが必要なわけです。

 でも、もともとこのT.S.Oというゲームのプレイヤーは、ある程度の規格以上のVR機器によって、生体ユーザー認証が必須です。つまり自動botのような不正プログラムで、このゲームを介したユーザーネットワークを乗っ取ることは出来ませんよね。そして、そうしたこのVRゲームを自分自身の意志でログインしている人々は、大なり小なり必ずこのゲームに熱中しているわけですから、もちろん悪意あるユーザーということもないわけです。

 ……ただ、このゲームの仕様上。じつはプルーフ・オブ・プレイとはいっても、ただ本当にこのゲームをプレイしていて取引承認の代表に選ばれるだけでは、どうやら新規通貨がもらえるわけではないようです。

 このゲームの中の、非常に広大な宇宙空間。そこにはこの衛星コーサを含むような、銀河連邦共和国の首都近郊宇宙――とはいえ、半径数百光年もの領域をもつような広大な――インナースペースと呼ばれる空間。そして俗に”黒暗宇宙”とも呼ばれる、この銀河のそれ以外の全てである、アウタースペースという二つの大別された空間が広がっています。

 もちろん、そうした空間がはっきりとした壁やなにかで覆われているわけではないのですが。グレート・ウォールというインナースペースとアウタースペースへの航路上へ、ある種の中立兵器を置いてインナースペースを囲う中立兵器地帯も設けられています。

 そこから先へ出たほかの星系では、自動的にPvPモードへと移行して、宇宙に出現する敵対エネミーも強くなってしまうわけです。

 さて、この取引によって新規通貨が発行されると、その預かりはユーザー間のネットワーク台帳――このゲームのものは、”indra.net”と呼ばれていますが――一時このゲーム運営会社のものとなり、サーバー内で自動管理されます。そして私たちがそのアウター・スペース内で行った資源採掘、マイニングを行うと、この新規通貨と紐づけされたゲーム内リソースとして若干のレア・マテリアルというものを稀に入手することが出来るのです。

 レア・マテリアル、この星々からとれる稀少鉱物はゲーム内でも非常に重要なリソースなのですが、それがT.S.Oの首都惑星へと持ち帰られると、晴れて私たちは現実のネット上のウォレットへ、このゲームの準仮想通貨レア・マテリアル・ユニット・RMUとして入金することが出来ます。

 そうしたゲーム内での戦いのためにもそのレア・マテリアルが必要で、しかもその戦いによって破れると、持っていたレア……長いので、ここでは単にマテリアルと言いますが。そのマテリアルを奪われてしまい、しかもこちらが戦いの中で損傷した宇宙船や装備、それらの製造・強化に使った分のマテリアルもジャンクとして宇宙空間に残されてしまいます。

 そういったわけで、こうした惑星上の歩兵戦闘ならまだましですが、大規模な宇宙空間での戦争となると、それなりの額が動くわけですけど……そうした大きな宇宙船などの所有にもゲーム内の税金が課されており、長期間その所有を維持したければ、稼いだ仮想通貨であるRMUを運営会社に支払らう必要もでてきます。

 ……すこし、というかだいぶ難しそうですよね? なんでもかんでもそのマテリアルが必要で、それを得るための戦いも、おそらく厳しいものでしょうし。

 でもどうやらこのシステムによって、T.S.Oにはそうした複雑なゲームシステムを好むゲーマーたちが挑戦し――その彼らが高価な装備や宇宙船の維持のために課された税金が、このRMUという仮想通貨にヴァーチャル上ではありますが、法定通貨としての側面を持たせているとも指摘されています。

 ええと、私もあまりわかってはいないんですが。租税貨幣論と言われる説によると、現在のお金、べつに金貨や銀貨と言った貴金属貨幣ではない紙のお金になぜ価値があるのか……という疑問に対し、それが国が定めた税金に対し支払わなくてはならないからだ、とういう説があるそうなんです。

 日本でしたら土地、資産、自動車とか、様々なことに税金がかかりますが、それは日本円でしか払えません。ですから私たちは豊かな暮らしをするためにはまず、日本銀行券である私たちのお金を手に入れて、政府へ納税する。そしてそうしたお金が欲しい人がたくさんいるために、そのお金によってサービスや商品を買うことが出来る。

 ですからその事が、このゲームとRMUにも言えるわけで……その事によってこのRMUは取引記録がこのゲームサーバーに依存した独立性の不完全で、しかも半中央集権化された”準仮想通貨”だとも呼ばれているのにもかかわらず、このゲームで安全なマイニングのための強力な装備を制作・維持したいユーザーによって、取引そのもは絶えず行われており――つまり信用度は少し不明なのですが、非常に訴求力のある仮想通貨として期待されている……みたいです。

 ああ、見てください。ほら、この星の夕方になりました……だんだんと、空が朱く……。

 綺麗ですよね。私、この星から見る日の入りが好きなんです。何度も何度も、見たくなるくらい。いえ実際、今日この撮影の準備とかしてて、もう三回も見てるんですけどね……でも、飽きないくらい。

 この衛星コーサは、だいたい一日が十六分。まあ、ゲーム内なんで時間変化はもともと早いんですけど。その十六分の一日を五百日くらいであの惑星の周りをまわって、その内四分の一くらいが、惑星の影に入ってしまう真っ暗な時期。私は夜の季節って呼んでますけど。

 ああ、そうです。じつはこのコーサという星は、私が一番初めに見つけたんですよ。すごいでしょ? まあ……とはいっても、それほど珍しい事じゃない――というか、この銀河の殆どがまだ未発見の星だらけなんですけどね。

 おおかた、航路と呼ばれるワープ範囲でつながった星と星の道は決まっていて、アウタースペースからインナースペース、そして首都惑星までのルートが共有されています。でもそこからアウタースペースの殆どの場所と、首都から航路へは繋がらないような星々は、だいたい未探索なんだそうです。

 それに、この星系の星がみんな単なる木星型惑星か、このコーサのような山がない、つまり造山活動のないなめらかな岩石惑星だからかもしれないですね。

 いえ、こうして見渡してみるとほら、どこもきれいなんですけど……どうやらそうした造山活動、惑星中心部の熱活動がない星は、鉱物資源なんかがうまくまとまって地表近くにないみたいなんです。ですからあまり資源が無くて、ここではアイテムや装備が作れない。

 でもほんとうに、ほんとうに綺麗な星なんですけどね。ほら、すこし丸い地平線。それにその先の向こうの、日の入り……あんなにも、空が……燃えて……。

 ――ええと、それから何の話でしたっけ? ああ、そうそう。ですからこのゲームって言うのは、すごく注目されていて。こんなにすごい宇宙を冒険できるんですけど、なんと基本料金は無料。

 運営会社はスペース・モンキーってところなんですけど、そこはユーザーからもらった税金やそれが払えず没収した装備、そのRMUやアイテムを売ったり運用したりってことで稼いでいるそんなんです。このゲームが活発になるほど、そして有名になるほど、この宇宙内の資源は増え、RMUもまた値段が上がってゆく。

 ゲームの人気と仮想通貨RMUの価格はそうした繋がりによって相関していて、私たちプレイヤーはゲームの中から、そしてこの仮想通貨に可能性を感じている投資家の人たちは、ゲームの外で。現実世界の株式会社みたいに、このゲームの大きなギルドは、そうした投資家の援助を受けて、このゲームを盛り上げようとしているんです。

 そうそう。それで、長くなってすみません。ここからが私のこの動画の本題なんですけど。

 今回、この動画はこのT.S.oの大手ギルド「鷹の旅団」さんが主催する、新規ギルド員の公開オーディションの一環として、こうして投稿しています。

 ええと、この私……あれ? もしかして、私まだ自己紹介してませんでしったっけ!? え、ウソ……。

 ――すみません。改めて、というか……いまから、自己紹介させていただきます。

 はじめまして。私、イマハラ……今原カエデといいます。今回は、ギルド鷹の旅団さんの公開オーディションへ応募しようと考えて、現在T.S.O内から仮想カメラ機能にて、この動画を撮影しています。

 そう。もしかしたら、鷹の旅団さんの公開オーディションについて知らない方も多いかもしれませんので、私からも改めて説明させていただきます。

 先日、鷹の旅団さんが公開した新規ギルド員募集の公開オーディション。このT.S.OというゲームそのもののPRも兼ねて、大々的に行われるもののようです。そして、大きく分けてその内容は三つ。

 ひとつは、期間内に行われる三回のバトルロイヤル大会。鷹の旅団さん所有のゲーム内の土地を利用して、参加者は装備持ち込みでこの競技に参加。

 成績は順位、生存時間、そして戦闘によるキル数を総合的に判断。競技は完全個人でチームはなく、したがってダメージアシストはなし――純粋にその参加者へのとどめを刺した選手にのみ成績を与え、また競技外での談合を抑制する目的で、このキル獲得に対するポイントは高めに設定。

 またこの協議へ持ち込んだ装備・アイテムはその場の他の参加者同士で奪い合いが許可。強力な装備を持ち込むことで有利にはなるが、その分の損失のリスクへはあらかじめ了解しておくこと。

 ふたつめは、現役のギルド員による参加者への面接。首都惑星の鷹の旅団さんのギルド会館にて、面接者三人、応募者三人による集団面接。

 エントリー完了後送達されるメールにて、希望の予定を伝え返信すること。後日予定調整が行われ、期間内には必ずこの面接は行わなければならない。緊急の用事、応募者の事情はある程度考慮し、リスケジュールは悪評価とならないが、無断の欠席、その後妥当な説明がない等は、心証に影響を与えるものと考えること。また、期間中に面接がかなわなかった場合、応募者は失格の扱いとなる。

 そして、最後。このオーディションに際し応募者はゲーム内、あるいはゲーム外においてT.S.Oに関することで、何らかのアピールできる実績を記録または活動を行い、それを簡単なポートフォリオとして用意すること。

 これらの事はこのオーディション期間以前のものも含め、T.S.Oでの活動や同ゲーム内の資産、また今後T.S.O内で役に立つであろう、応募者自身の現在の業務とすることや何らかのコネクション等々、特に制限は設けていない。ただしこのオーディション自体がそうであるように、T.S.Oにおける信用創造に貢献するような、何らかのイメージアップに関するものがより評価されることは、あらかじめ言い添えておく。

 また無論のこととして、衆目を広く集めることは重要ではあるが、ユーモアと悪ふざけを取り違えたような、当ギルドやT.S.Oゲームユーザー、またこのゲーム自体の信用を損なう行為は、著しく応募者の評価を下げる要因であることも留意されたし。

 これらの事について面接時にも軽い質問は行うものの、ポートフォリオの提出や活動自体は、期間内のものであれば受け付ける。

  ええ、コホン……と、いうことらしいです。

 ええと。説明はすこし堅い感じですが、ようするに私はこのオーディションへアピールできる活動として、この動画投稿を始めていく、ということになります。

 まあ、言ってしまうと……私自身なにも、その……ええと。なんていったらいいんだろう……。

 ――本当は私、この星のこと皆さんにみせるの、すこし嫌だったんです。

 いえべつに、ただ最初に見つけただけでこの星が私のものって訳ではないですよ? それにこんなにも綺麗な風景、きっと皆さんに見せられたこと、私自身、嬉しい事のはずなんです……。

 でも、その……なんていうか。たぶん、きっと……ええと、だから……。本当はこの星だって、じつは全然珍しい星なんかじゃないですし。だからこんな夕焼けだって、どこでだってすぐ見られる風景の一つなんです。きっと。

 だから、私……ううん、でも。なんとなくこのT.S.Oってゲームと出会って、私一人でずっと宇宙の中を漂って。今は少し勇気をもらっていますけど、でもきっとそれだけじゃ、ダメなんです。

 ずっとこんなふうに、ひとりぼっちの星にいて。ずっとこんなふうに一人で日の入りを眺めていても……きっとダメなんです、私……私。

 ――ごめんなさい。もう暗くなってしまいましたね。

 ええと、最後ちょっと変な感じになっちゃいましたけど、私の伝えたいことはきっと、なんとなく皆さんに伝わったと思います。私はこれから鷹の旅団さんのオーディションにでて、私なりに頑張っていきたいと思っています。私に何の才能があるのか、それを試すってわけじゃないですけど、本当に今回のこと、私いい機会だと思って。

 それで、皆さんにお願いなんですけど。もしよかったら、私のこと、私みたいなひとこと応援したいって思ってくれたら、私のこのチャンネル登録と、そして概要欄のリンクから、SNSでのフォロー、お願いします。

 皆さんに何を見せられるのかわかりませんですけど……っていったら動画投稿者としておかしいですよね? いえ、私しっかりやっていくので、その頑張りみたいなものが見えたなら、皆さん応援よろしくお願いします。

 あとそれから、こんな拙い動画でしたが、みなさん最後まで見てくださってありがとうございます。

 今原カエデでした。さようなら――。」


二話へ。

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