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「活性地域へ実際に行き、知る、感じる」フィールドワークin福岡①〜熊本リーダーズスクール2022 第3回 開催レポート〜

一般社団法人自然基金(以下、自然基金)は、自然電力グループが開発した再生可能エネルギー発電所の売電収益の約1%を地域に還元するプロジェクト「1% for Community」に取り組んでいます。
 
2022年度は、地域コミュニティを牽引する次世代リーダーの輩出を目指す「熊本リーダーズスクール」を開催。第3回は8月25日と26日の2日間、福岡県でフィールドワークを実施しました。地域で古くから受け継がれてきたものを再編集し、新たな価値を生み出すことで現代の人々に届ける方法について、実例を通して学びました。
 
福岡フィールドワークのレポートを3回に分けてご紹介します。1回目は、「下川織物」の3代目織元・下川強臓さんによるレクチャーと、「うなぎの寝床」代表・白水高広さんによるオンライントークの内容をお伝えします。

※第2回アクショントーク「地域プロジェクトで、今やるべきアクションとは?」レポート前編後編

【福岡フィールドワーク1日目行程】
■「下川織物」(八女市)の3代目織元・下川強臓氏によるレクチャーと工場見学
■「うなぎの寝床 旧丸林本家」(八女市)で、UNAラボラトリーズ・渡邊令氏によるコンセプト説明
■八女市横町町家交流館で、「うなぎの寝床」代表・白水高広氏によるオンライントーク
■「ひのさと48」(宗像市)の施設見学、東邦レオ ディレクター吉田啓助氏による施設紹介
■「すすき牧場」(宗像市)で、代表・薄一郎氏による独自の飼育販売モデル説明とBBQ懇親会
 
【福岡フィールドワーク2日目行程】
■宿泊先「グローバルアリーナ」(宗像市)で、地産地消の朝食と、正助ふるさと村統括部長・三浦哲久氏によるフードロスゼロ運動の説明
■宗像大社辺津宮(へつぐう)・高宮を参拝
■「A.PUTEC FLEGO(アプテカフレーゴ)」(福津市)で昼食、オーナーのシルビオ・カラナンテ氏による店紹介
■「津屋崎千軒なごみ」(福津市)で、参加者のプロジェクト発表とフィードバック

200年以上の伝統ある久留米絣の新たな魅力を生み出す!  常識にとらわれず、挑戦を続ける織元

まず訪れたのは、1948年創業の久留米絣の織元「下川織物」。久留米絣の新たな魅力を創出すべく打ち出した「グローカルコミュニケーター」ビジネスモデルについて、3代目代表・下川強臓さんに話を聞きました。

▲「下川織物」の3代目織元・下川さん

久留米絣は約220年の歴史ある織物です。その長い歴史や文化の中で育まれてきた価値観や、関わってきた人たちの想いを大切にしながら、下川さんはさまざまな活動に取り組んでいます。 「伝統技術の継承・革新には、新しいことへのチャレンジが必要不可欠。チャレンジすることは大変なことも多いですが、楽しいですし、やりがいや達成感もあります。久留米絣づくりを通じて、チャレンジすることの楽しさやものづくりの素晴らしさを伝えていきたい」と下川さん。

「久留米絣を未来に継承していくために必要なのは、私たち職人が、“生産”と“伝承”を意識することだと考えています。一定の生産量を保つことは、職人を一定数確保することにつながりますし、経済的な循環という部分では絣を作り続けることを意味します。一方、伝承という面では、職人は、文化や歴史、その土地の習慣などに基づいて生まれた価値観が、絣の中に織り込まれているということを理解し、伝えていくべきです」
 
「私が重点的に取り組んでいることは、久留米絣の情報を発信し、それを皆さんと共有すること。例えば、久留米絣の柄の図案をいろんな人とシェアしています。図案を描くのは久留米の職人でなければならない、ということはなく、いろんな人に描いてもらってもいいと思っています。2020年にパリで開いたセミナーでは、『国際下川絣未来賞』というアワードを開催し、受賞図案で実際に久留米絣を制作しました」

▲久留米絣にはさまざまな柄がある

「また私は、技術が流出してしまうからと、産地内だけで技術を囲い込むことにも疑問を持っています。地域や国境を越えて技術を伝承する、という考え方を持ってもいいのではないでしょうか。弊社は、ドイツ人の留学生やロンドンからの弟子を受け入れ、国境を越えた技術の伝承にも取り組んでいます」
 
「ビジネス面では、ヨーロッパのラグジュアリーブランド向けに定期的な展示会を行なっています。有名ブランドで採用されたというのは会社の実績になりますし、ひいては久留米絣の価値を高めることにもつながります。SNSを活用して、久留米絣の製造工程や職人の考え方などを世界中に発信し、久留米絣が世界とつながるきっかけづくりにも注力しています」

▲「下川織物」工場の様子。久留米絣は、トヨタ自動織機が約70年前に製造した力織機で織られている

伝統工芸の従来のルールや商慣習に甘んじることなく、疑いの目を持つことで、久留米絣の新たな魅力を生み出す挑戦を続ける下川さん。「何もしなければ歴史の中に埋もれてしまう。地域の経済発展の基盤となった久留米絣を守り、魅力を伝えるため、自分にできることにこれからも挑戦し続けます」という力強い言葉が印象的でした。

“モノ”と“体験”を通して
地域の文化を流通させる「地域文化商社」

続いては、古民家を改装した店舗「うなぎの寝床 旧丸林本家」へ。久留米絣の織元や縫製工場と共同開発した「MONPE (もんぺ)」など、各地の地域の人たちとつくりあげた、店オリジナルの商品が並んでいます。

一方、姉妹店「うなぎの寝床 旧寺崎邸」は、日本全国のさまざまな地域の作り手による商品が並ぶセレクトショップです。

趣向が異なるこれらの店舗を運営する背景には、どのような思考があるのでしょうか。代表・白水高広さんのオンライントークをご紹介します。

▲「うなぎの寝床」代表・白水さん

「私たちは、本質的な地域文化を研究・解釈して、現代社会における活用方法を考え、流通させる『地域文化商社』です。地域にある魅力的なプロダクトに、生活者が直接触れて購入することができるアンテナショップのような店を作りたいと、2012年に『うなぎの寝床』をオープンしたのがはじまりです」と白水さん。

「現在、売り上げの大部分を占めているのが、店のオリジナル商品『MONPE』。久留米絣で作られたもんぺは昔、女性の活動着や農作業着として定着していましたが、近年はすっかり廃れていました。ある時、私がたまたま物産館で見つけて試着してみると、驚くほど着心地が良かったんです。そこで『これはいろんな層に着てもらえるはず』と、『もんぺ博覧会』を企画・開催。これが好評だったことから、久留米絣の織元や縫製工場との共同開発でオリジナル商品『MONPE』が誕生しました。今では『MONPE』がきっかけで久留米絣のことを知った、という人も多いですよ」

「私たちが商品を開発するときに最も重要視しているのは“機能的要素”です。『MONPE』の場合は、履き心地や吸水性などがこれにあたり、生活者のリピートや口コミにつながります。次に大事なのは“文化的要素”。久留米絣という伝統工芸や、モンペの歴史を掘り下げて情報を発信しました。これはメディアとのコミュニケーションにとても有効です。3つ目は“視覚的要素”、いわゆるデザインで、生活者にもメディアにも効果的です」
 
「商品開発では、まずデザインに力を入れる人が多いのですが、それでは短期的には売れても長期的には支持されません。“機能的要素”、“文化的要素”、“視覚的要素”の3つが揃った時に、長く売れていくものが作れると考えています」

「これまで、『うなぎの寝床』でモノを作ったり売ったりする中で感じた課題は、生活者がモノを購入するだけでは、地域文化や作り手に対する意識は変わらない、ということ。そこで2020年にグループ会社UNAラボラトリーズを立ち上げ、九州内の生産者を訪ねたり、藍染や久留米絣を織るなどの体験をしたりする企画の提供を始めました。人は、印象的な体験をすることによって、初めて意識や行動が変わると考えたからです。情報を提供する雑誌の出版や、宿泊施設の運営も行っています」
 
モノを通して地域文化の伝達をする「うなぎの寝床」と、体験を通した地域文化の伝達をする「UNAラボラトリーズ」。多角的な取り組みを通して、地域文化と生活者の橋渡しを行っている白水さん。最後は、「伝統工芸だけではなく、茶畑や温泉、祭り、食文化、海、川など、地域文化全般を伝えていきたい」と今後の抱負も語ってくれました。

次回、福岡フィールドワークのレポート2回目は、築約50年の団地を改修した生活利便施設「ひのさと48」を運営する東邦レオのディレクター吉田啓助さんと、むなかた牛の飼料用米の栽培、飼育、精肉販売を一貫して手がける「すすき牧場」の代表・薄一郎さんのお話をご紹介します。