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【小説】終末のエンドロール【完結】

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終末世界に生きる四人の少年少女たちの日常は、とある事件でまたも崩壊していく。長編SF小説です。少しずつアップします。 表紙・キャラクターデザイン:赤津豊
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記事一覧

【終末のエンドロール】第一話 毎日がクリスマス

 輸入食品が並ぶ店の中で、一番飲みやすいとPOPが書いてあるコーヒー豆を袋に詰める。コーヒーを淹れるのに、どのくらいの分量が必要か分からないから、袋いっぱいに、封ができるギリギリまで詰め込んだら、レジの引き出しを漁って、ギフト用のシールを貼り付けた。これで、今夜のプレゼントは間に合った。誰もいない店内を出て、そのコーヒー豆を鞄に入れる。先に入れておいたモコモコの靴下とパーカーの包みがよれないように、慎重に。  ショッピングモールに暮らし始めてから、いったいどのくらいの時が過

【終末のエンドロール】第二話 夢で逢えたら

 今日のケーキはひき肉で作りました、とマユが持ってきたのは、映画で見たことがあるミートローフのような真四角の肉の塊だった。目新しさに僕たちは飛びついて見せたけど、驚くほどパサパサで、なのに塩辛くて顔をしかめた。マユは怒って自分一人で食べると僕たちからそれを取り上げたけれど、ゴミの中に一口かじった後全部投げ込んであって、やっぱり食べれなかったんだなと思うと同時に、なんだか申し訳ない気持ちになった。  明日はマユに二つプレゼントをあげようかな。僕はそう思って寝床につきつつ、窓の

【終末のエンドロール】第三話 消灯作戦

 消灯作戦は順調だった。街の通りをひとつずつ潰すようにして、ラインマーカーのカラフルな色が地図を埋めていく。なぜだかこの色を塗っている間は、僕たちはずっと一緒に入れるんじゃないかと思っていた。ずっと一緒にいたのに、タイムリミットだって、ずっと前にあると意識させられていたのに、もっと強くそう思う。一瞬一瞬を、忘れちゃいけないと。貰ったノートを超えて、日記の量はみるみる増えていった。横目でそれを見ていた皆が、新しいノートと万年筆のインクをプレゼントしてくれたおかげで、文字になった

【終末のエンドロール】第四話 終末ドライブ旅行

 日記はあくまでも僕たちの最近の生活を記録したものに過ぎない。僕が星を知ったように書いているのも、星座表を見てのことなのか、これだけではわからなかった。本屋で星に関連した書籍を読み漁り分かったのは、星の位置関係が地球環境にも影響することがあるということ。月が無くなったら潮の満ち引きだってなくなる。生命体に与える影響はかなり大きい。  そうなると、宇宙に星が無くなったことで、人間は滅亡したのではないか? というのが僕の仮説だった。 「でも、それじゃあなんでちょっとずつ人が消

【終末のエンドロール】第五話 当たり前の世界

 もしかして、人が帰ってきたのではないか。そうアンナが言ったのに合わせて、僕たちはそれぞれに散って人影を探した。だが、どこにも人はいない。ただ電気がついているだけだ。  集合場所にしていたショッピングモールの入口に、先にマユとアンナが着いていた。 「どうだった?」 「誰もいない……」 「やっぱし?」 「ジョセフは?」 「まだ」  僕たちは眼前に広がる明るい街を縮こまりながら見つめていた。ずっと歩いて、足はすっかり棒の様だ。今何時だろう。ジョセフはまだ帰ってこない

【終末のエンドロール】第六話 僕の居場所

「どういう意味か分からないんだけど……」 「だから、データの引継ぎが上手くいかなかったの。スマホを変えたから……」  チサの説明は、まるで架空の世界の話のようだった。いや、それとも僕が異世界に来て、そこに慣れすぎてしまったのか? 「アカウントを一から作り直してもとに戻るのはメチャクチャ大変だし、やってらんないって思って……心が折れちゃったの」 「その話、関係ある? 僕はずっと待ってた。いつものスケートボード場で」 「だから……。ごめん、そうだよね。分かってるんだけど

【終末のエンドロール】第七話 本当の姿

 『トライタウン』というシミュレーションゲームは、今から20年前に、大学生のゲームクリエイターによってリリースされた。これまで、各ユーザーが自分で街を組み立てていくゲームは数多く存在していたが、ユーザー全員で街を組み上げ、そこで生活することのできるというサイバーシティの先駆けとして、爆発的にヒットした。  しかし、ユーザーが増えていくにつれて誰かの作ったスペースが造り変えられるなどのトラブルが多発し、ゆるやかにユーザー数は低迷。純粋にチャットサービスやゲーム内の生活を楽しむ

【終末のエンドロール】第八話 大脱走

 アンナの食事はきちんとなくなっていた。ごめんね、と書かれたメモと一緒に、きちんと分別されたゴミが置いてあった。もうこの世界は消えてしまうから、こんな気遣い必要ないのに、アンナはとても律儀な人だと思う。  今日も、少し部屋の中で考えたいと言うので、僕たちはそれぞれに、この世界での用事を済ませておくことになった。思い入れのある物と言われても、無くなってしまった物以外にはすぐ思い浮かばず、とりあえず街を練り歩いてみる。ここには僕が育ってきた思い出がちゃんと残っているはずだけど、

【終末のエンドロール】第九話 それぞれの尺度で

 ペットたちの転送作業は思ったよりもスムーズに行われた。ジョセフが急にフリーズしたかと思うと、周りの動物たちがどんどん消えていく。彼らが痛そうにしている様子もなく、僕たちもきっと同じようにこの世界から出ていくのだろうと、マユとアンナも真剣にそれを観察していた。  警備員たちが公園の外にいないことを確認して、僕たちは家に帰る事にした。今日が終われば、残りはあと四日か……。そう思ったことで、チサに待っていてと頼んでいたことを思い出した。  固まって歩いてまた見つからない様に、

【終末のエンドロール】第十話 早い者勝ちだから

 この世界が消えるまで三日。ジョセフが作った箱庭で暮らすため、食料品をたくさん手に入れる必要があった。家具とかは形さえ合っていれば使えるけど、食べ物は見よう見まねで作ったところで、味がしなかったり、プラモデルみたいに食べれないものになる可能性もある。だから、正確なコピーを作るための分析が必要なのだ。  チサが大学に行ったので、僕もジョセフたちの作業に混じっていた。野菜や果物は、栽培した経験から、箱庭での栽培も可能になっているらしい。問題は調味料や肉。できれば、動物を殺して手

【終末のエンドロール】第十一話 コピー&ペースト

 あのままチサは帰ってしまった。僕は引き留めず、彼女を見送りもしなかった。ドアを閉めた音でなんとなく、もう僕に会いにも来ないだろうとなんとなく、分かる。  僕は変わった、らしい。チサと出会った時から。世界が終わったと勘違いした時から。いつ、ジョセフに手を加えられたのかも分からないし、聞いたことで余計、その前の記憶が偽物に思えそうだから、なんとなく聞けずにいる。皆にも、まだ、言ってない。  でも、チサが言う様に、僕のAIが進化しているとするなら、過去の僕は、もうすでに今の自

【終末のエンドロール】第十二話 置き手紙

「外には――出ない?」  僕はただうなずいた。言い訳を繋げても、仕方がない気がしたから。ジョセフはショックを受けて居たのかもしれないけれど、表情は分からない。画面の外は僕には見えないから。  ジョセフについて行くかどうかアンナも考え中だと思ったから、ジョセフには僕だけで話をした。アンナにだけ言わないのは不誠実だと思ったけど、僕が行かないなら、と、引っ張られてやめてしまったら、真摯にアンナと向き合おうとしているジョセフに申し訳ないと思ったから。これが僕なりの、ジョセフに対す

【終末のエンドロール】第十三話 お前、死ぬんだろ?

 チサが前にジョセフと接触していたおかげで、彼女のアバターIDを手に入れることができた。けれど、彼女はあの日以降、ログインしていないらしい。SNS連携もなし、彼女が再びトライシティに来ない限り、僕には接触できない。 「ログインしたらすぐ言うよ。ちょくちょくチェックしておく」 「ありがとう。……あと、ごめん」  アンナの手紙を読んで、初めて僕は気づいた。僕自身が、ホンモノの人間と自分に線引きをしていたこと。僕自身が、ただのデータなんだという事実を知ってから、僕は冷たい目線

【終末のエンドロール】第十四話 音のない花火の下で

 金山女子大学文学部。SNSのプロフィールには、そう書いてあった。  ジョセフのリクエストはまだ許可されていない。もしかしたら却下されたのかもしれないけれど、こちらからは分からない。こうなると八方塞がりだとジョセフは僕に謝ったけれど、マユは引かなかった。 「プロフに手がかりがあるなら会いに行けるじゃん」 「会いにって……女子大に行けってこと?」 「それしか選択肢ないっしょ。その大学って遠いの?」 「電車で一時間……って言ったって、入れてもらえないよ。女子ならまだしも