新聞配達をする話①

その日は珍しく祖父と祖母が我が家を訪ねてきた。
一家総出での昼食会は大体両親と祖父母との会話で自分達兄弟一同は食事に夢中という構図になる。
元来シャイだった自分は挨拶もそこそこに、自分の部屋に篭りたい気持ちでいっぱいだった。
もうすぐ知らせが来るはずだ。それが待ち遠しくも永遠に来ないで欲しいような気持ちだった。

「合格通知」

当時受験生だった自分にとって新年の挨拶よりも我が身のことで心はいっぱいだった。
自分史上一番勉強した。
かつて自信なんてものが降って湧くようなことがあっただろうか。
こと勉強にかけてまるで暗闇を彷徨うような気持ち、それでも懸命に模試を解き続けてきた。
テキストの表紙がなくなるほどに勉強をしてきた。
その成果である。時間である。合格以外許されるはずがない。


携帯が


反射的にトイレに入りメールを確認する。
またか、と家族は見守っていた。
もう4回は同じようなことをしている。
そのいくつもの通知が、「いつ通知がくるのか不安だ」といった旨の予備校の友人からのメールであったり、新年大入り出血サービスカラオケクーポン50%オフクーポンであったりとしこたま心を振り回され続けていた。
もう無理だ。頼む。早く結果を知りたい。

差し出しは「日本体育大学」で間違いなかった。
来た。今度こそ。

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「不合格」


いつの間にか祖父母は帰っており
その日は自室に篭って一度もリビングに出てくることはなかった。


「日本体育大学に入学を希望した理由は高校野球を通じて学んだ経験を活かし、選手の競技力向上のためのケア、サポートを主とするスポーツトレーナーを志望したからです。」


後日なぜかご丁寧に封書でも不合格の通知が届き、それを丁寧に細切れに切り刻んでから火をつけ灰になる様をじっくりと眺めた後のそれをトイレに流して捨てた。


こうして二年目の浪人が決まった。

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