#26【私にできること】

ちょうど今ぐらいの季節で
ツツジからアジサイに
切り替わるぐらいの季節で。 
 
 
筋力も体力も減ってきた祖母は
冬の頃から服装は変えてなかった。
体温調節すら、難しくなっていた。
 
 
その頃はもうすでに
宣告されていた寿命を2ヶ月ほど
過ぎていたので、いつも祖母に
 
「大丈夫、おばあちゃん死んでない?」
と聞くのが日課になっていた。
 
「失礼やなー、まだ生きとるわ!」
 
と言いながらニヤニヤしている祖母を
みて、今日も無事に過ぎてくれることを
心から祈っていた。
 
 
少し前にも書いたが、
すでに固形のものは
食べられなくなっていたので
もっぱら食べるのは
氷か、アイスか、ペースト状にした
何かになっていた。
 
 
私はお昼を食べながら、
祖母はサクレというレモン味の
シャーベットを食べながら
ふと、祖母が言った。
 
 
「しばらくお風呂はいってへんねん、
匂いするかなぁ」
 
 
そう、もう祖母は
お風呂に入れなくなっていた。
 
 
シャワーやお風呂は
実はものすごく体力を消耗する。
 
 
だから、控えるように言われていた。
 
 
すでに、いつも通っていた町医者
だけではどうにもならなくなっており、
お風呂に入るために
市民病院まで行って、横に寝転んだまま
お風呂に入る施設を借りて、
体を洗ってもらわないといけなくなっていた。
 
 
ただ、問題は。
 
 
うちの祖母は極端なまでに
水を怖がる。
 
 
自分から水に触れる分には
いいらしいのだ。
というか、それは克服したらしい。
 
 
人に水をかけられたり、というのが
本当に怖いらしい。
 
 
プール、海、大嫌いで
温泉はかろうじて行くが、
小さい子供とは行きたがらない。
(顔に水をかけられたら怖いからだ。)
 
 
初めて寝たままで洗ってもらった日は
あまりの恐怖心に漏らしたと言っていた。
(真偽は定かではない。)
 
 
週1、2回でいいと言われたので
迷わず週1回を選択していた。
 
 
「いや、おばあちゃんが
お風呂嫌いやから行かへんねんで笑
大丈夫、臭くはないし、臭かったら
ハナのせいにするから。」
 
祖母の足元でうとうとしてたハナが
名前を呼ばれてこちらを睨んだ。
 
 
人の話をよく理解している。
 
 
「わかってるけど、迷惑かけたくないから」
 
 
なるほどなーと思いながら、
もさもさ昼ご飯を食べていた。
 
 
そして、ひらめいた。
 
 
「おばあちゃん、足湯する?」
 
 
実は、この間、
母親が汚れた洗濯物を入れるために
カゴを買ってきていたのだが、
それが水も貯められるような
タイプのものだったので、
トイプードルを洗うときに
すごく重宝したのを思い出した。
 
 
あれなら、ちょうどふくらはぎの
真ん中ちょっと上ぐらいに
お湯を溜められるはずだし、
座っておいてもらえれば
私が体を洗うこともできるはず。
 
 
そのことを伝えたら、
珍しく祖母の目がキラキラと
輝いた。
 
 
「ほんまに?それ、やりたい!」
 
「よっしゃ、準備するから
待ってて!」
 
 
点滴用の管のある、首から上は
濡らしたら大事故につながるので
頭と顔を洗わないことにして、
足湯の準備をした。
 
 
あまりにも暑い日が続いていたので、
私はちょうどこの時間帯に
一度シャワーを浴びるようにしていたので
それが終わってから、祖母にそのまま
入ってきてもらった。
 
 
とはいえ、もうほぼ歩けないので、
素っ裸のままリビングに迎えに行き、
ハナは脱衣所で待っていてくれていた。
 
 
この後、盛大に泣かされることになるとは
思いもしていないかった。

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