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新入社員懇親会でのスピーチを社長に全否定された話<#1>

新聞社に入社して1週間。
たぶん、この日が初めて、記者になって初めて、泣きながら家路についた日。

ついこの間まで春休みで、社会人の自覚もない、もちろん新聞記者になったという自覚もない状態の私とって、心に唯一持てる自信といえば「大学で学んできたこと」だけだった。

記者になりたくて、なりたくてなりたくてたまらなくて、やっとつかんだ内定だった(まあ第一志望の新聞社ではないが)。
同期の中で誰よりも絶対ジャーナリズムについて学んでただろうし、時事にも詳しい自負があった。

そんな、今思えば意識が高いだけで中身が無い、脆くてす~ぐ折れそうな私の心の支柱は、社長の言葉によって文字通り木端微塵になりました。

ぱり~ん。

無駄に意識高いまま入社してすいやせんっした。

それは、4月に入社した新入社員たちと、そうそうたるお偉いさんたちが集う懇親会でのこと。
その日は朝から普通に新人研修をこなして、退社後会社近くのホテルに集合。
結婚式の円卓みたいなテーブル席に座って、マナーがややこしそうなコース料理とお酒を愉しみながら、役員たちのありがたいお話を聞くっていう、よくある懇親会だった。

前日、新人研修のお世話をしてくれている人事部の人に「明日の懇親会の最後に、一人ずつスピーチをしてもらいます」って言われていた。

「そんなに長くなくていいから、意気込みを一言二言お願い」。かぁ……と考えを巡らせながら、帰宅して、自宅近くの夜道を散歩しながら内容を考えていた。
同期たちになくて、私にしかないもの。

アピールするならそこだ。

6車線ある環状線の歩道で、車の騒音にかき消されることを見越して大きめの声でぶつぶつ呟きながら考えたスピーチは、我ながらよくできてるなと感心して、意気揚々と家に帰ったのだった。
(明日のスピーチはもらった……!!キラーん)

懇親会とかいう、大人と飲むイベントはどちらかというと嫌いな部類に入るが、無難にお酌して、赤べこになって(話に相槌を打って首を振り続けること)、何とか乗り切っていた。

そして、いよいよ新入社員スピーチへ。
同期の中でのリーダー的ポジション(男)の要領を得ない演説から始まり、コミュ力お化け(女)のきらきらスマイルスピーチを上の空で聞いていると、自分の名前が呼ばれる。

実際にスピーチした内容を、思い出せる限り書いてみようと思う。

「私は、○○くんみたいなリーダーシップもなければ、●●さんみたいな笑顔が得意でもありません。
すごい同期たちに囲まれて、私の足りないものに気づかされる毎日です。
そんな私でも、同期たちに負けない強みは何かを考えました。

それは、大学時代の仲間の存在です

私はジャーナリズムを学ぶゼミに所属していました。
新聞の役割や使命について学び、実際に取材をしたり記事を書いたりして、社会問題について視野を広げてきました。

ゼミの友人たちは、ともにマスコミ業界を目指し、切磋琢磨してきました。
そして今、彼らも私と同じ記者になりました。
日本全国に散らばった彼らとは、もちろん、ライバルでもありますが、これからの日本をジャーナリズムの力で良くしていこうと誓い合った同志たちです。

○○新聞でつらいことがあっても、友人たちの存在は、距離は遠くても、私の心の支えになってくれると思います。

(中略:忘れた)

いつかは、そこにいらっしゃる▲▲さんのような記事が書けるように、これから精進してまいります。」

的なことを言った。
当時は、緊張していたしお酒も少々入っていたし、まどろっこしい言い方になっていただろうけど、昨日の夜考えていたことはちゃんと言えた、と思った。

スピーチ後、役員数人から感想を頂戴するのだが(スピーチで名前を挙げた▲▲さんとか)、最後にコメントを述べた社長に、私は脳天打たれた。


「まあ、ジャーナリズムもいいけどねえ……。そのおともだちとは、しばらくの間連絡を取るのはやめてみた方がいいんじゃないかな」

は、はぁ……。

言われた直後は意味がよくわからなくて、とりあえず放心状態で席に戻った。

その後、覚えているのは、帰宅しながらぽろぽろ涙があふれてきたことと、
泣きながら例の「おともだち」のうち、仲良い数人のグループLINEで愚痴ったこと。

地元の新聞社とはいえ、本社のある県庁所在地と生まれ育った市は離れていて、私にとってここはほぼアウェーの地。
そこで生きていくには、同じ夢を追いかけて叶えた友達たちの存在は精神的支柱だった。

えっ?なに?連絡とるな?……は?

怒りと悔しさと、大学生活すべてを否定された絶望感とがとめどなかった。
しかも社長よ?しゃ・ちょ・う。

そんなこと言う?友達と連絡とるな、とか、新入社員にさ。
ジャーナリズムバカにしたような言い方までしてさ。
理論より行動、頭脳より体力、みたいなタイプのやつの方が気に入られるだろうことはなんとなくわかるけど。
「理論学んだやつも一応採っとくか~」とか思って内定出したんちゃうの?
めんどくさい?ジャーナリズム論とか持ち出す女、めんどせえ?ねえ。
それとも、だいじなだいじな独自ネタを流すとでもお思いなさった?
そんな、会社に背きそうなアホだと思った?ねえ。
例えうっかり、ネタの端緒になるかもしれないキーワードを口にしてしまったとしてさ、ド田舎にある地方新聞社で働く1年目記者が持ってるネタってどんなレベルよ?それを北海道やら三重やら山口にいる、これまた1年目記者が知ったとして、何になるの?誰が得するの?誰が損するの?
そこまでして、私のプライベートまで制限する価値あります?

(以上、超早口でお届けいたしました。)

まあ、今思えば、スピーチをもっと違う内容にしとけば、とか
社長さまにそんなことを仰せつかっても適当にあしらえるタフなハートを持ち合わせておけば、とか考えるけど
ゆとり・ポンコツ・ヘタレの3拍子揃った私は、さもありなん。
それに記者とって大事なのは「理論より行動」「頭脳より体力」って、本当に本当だったしな。何も言えねぇ。

あんなに憧れていた新聞社に入ったのに、わずか入社1週間で、会社に対する絶望・不信感・諦めやらが無限に湧き出てくるボタンを押されてしまったのでした。

無限ボタンよ、これ。もう止まらないよ。

以来、私はここから約2年の間、人生のどん底を味わい、厭世観と戦う、壮絶な(w)記者人生を歩みます。

23歳春、新社会人。ハードモード突入。

〈続く〉


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