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Google上に存在しないお菓子の探求

4年前、私は、「運命のいたずら」と、邂逅してしまった。

Googleのデータベース上に存在しないお菓子」に出会ってしまったのだ。

なんでもシェア・拡散され、ググれば得たい情報が見つかるこの時代に。


その出会いと同時に、私はGoogleの限界に気づく。
私が探し求めるその幻のお菓子は、無数にある写真の片隅に映っているだけでもいい。その名前が表示された記事を見つけるだけでもいい。だが、本当にその情報が出てこないとしたら?そしてそれが、どうしてももう一度食べたい、世にも美味しい食べ物だったとしたら?あなたは打ちひしがれ、Googleの限界に気づくであろう。

Googleの可能性は、"LION/ライオン ~25年目のただいま~"(名作)という映画で証明されたように、無限大であるのに。

"LION"では、主人公の故郷の地名は不明だが、主人公の脳内と、Googleのデータベースに存在している二つの画像を、結びつける必要があった。主人公の記憶を手繰ることが、唯一の解決策だった。しかし、私の場合は、画像も名前も分かっているお菓子の名前を、存在しないGoogleに尋ね続けるのである。そうして答えに辿り着くことなど、果たして可能なのだろうか?


その答えを追い求めて、私は、メキシコの滞在中に撮影した一枚の写真と、微かな市場の記憶だけ(あと、少しの狂気)を頼りに、幻のお菓子を探しに求め来月、メキシコへ旅発つ。


私とその幻のお菓子の出会いは、4年前である。アメリカ留学中に友人のツテを頼りにメキシコへ1週間ほど旅行した際に、右も左もわからない、言葉も通じない中、私はとある白いテントが張ってある市場(Mercado)を発見する。所狭しとと並ぶテントに並べられた、手作りのアクセサリーや布、"Cabezas de los murertos"(装飾された頭蓋骨の置物)、色彩の豊かなお菓子たち。亜熱帯のメキシコ文化というジャングルの中で、写真を取ったり、その熱気と土埃と独特のにおいにむせ返りそうになりながら、私の目に、とあるキャンディーが目に留まった。

それは、ぐるぐる巻きのペーパーキャンディーだった。赤、緑、オレンジ、黄色。色とりどりのキャンディー達が丸いプラスチックの容器にびっしりと詰め込まれている。その名は、"Morelos"……?え…?何…それ…人の名前?

名前は正直良くわからない。ただわかるのは、Dulces(キャンディー)であることだけだ。

メキシコのお菓子

この不健康極まりない色のキャンディーに、私はなぜかすごく惹かれた。

惹かれた理由はよくわからない。ただ、物珍しさに試して見たかっただけかもしれない。(だが私は生来、偶然惹かれるものに引かれることによって人生を豊かにしたいと思う傾向があるため、ある意味運命的な出会いともいえる。)試しに1つ買って、その場ですぐに食べてみた。

キャンディー同士がくっついていて、はがれにくい。慎重に黄色を取り出してみて、ぐるぐるをほどいていく。その切れ端を、ほんの少しだけ、口に入れた。恐る恐る嚙んでみる。その数秒後だった。

な、何だコレは…!?

美味い…!美味すぎる…!!

それは、世にも美味しいキャンディーだったのである。その舌触りというか、酸味の中に隠れたフルーツ独特の甘味というか、何よりも噛んだ時に広がる、幼い頃に屋台で綿菓子を初めて食べた時のような「異世界感」が私の舌を楽しませた。あっという間に黄色、赤、オレンジ、緑、と食べきり、その名残惜しさにもう1個買って、Mercadoを後にした。スペイン語もろくに知らなかったが、連れてきてくれたメキシコの友人に"Oh My God, this is so good!!!!"だけを連呼していた。その時の友人達の「君、変わってるね…」と言う表情は今になっても忘れない。

だが、誰が何と言おうと、これは私の運命の出会いだったのである。
あまりの美味しさに、名残惜しくて買ったもう一つも、その日のランチ代わりに食べてしまった。その時一緒に旅をしていた私の日本の友人が本場のタコスなど美味しそうに食べる中、一心不乱に真っ赤な色のお菓子を、目を輝かせて食べる私の姿は奇行と映ったに違いない。

私は日本へ帰国してからも、そのお菓子への固執(Obsession)を、捨てきることはできなかった。「高いお金を払ってでも、メキシコの友人達に送ってもらってでも、なんとかして手に入れたい」、学生生活の規範の中で時折そんな感情が襲ってきて、メキシコの友人達にも、Google先生にも尋ね続けた。だが、まるでそれは元から存在しなかったかのように、「地元の友達に聞いても」「情報の宝庫を探っても」一向に見つからなかった。

あの時感じた脳内のSparkとeupheriaは、幻のように葬り去るべき思い出…

にしたくなかった。どこの誰が作ったかも知らない、たまたま見つけただけのキャンディ。だけど21年間生きてきて一番、まさにMarie Kondo(Konmari)の"Spark Joy"(心をワクワクさせるもの)が舞い降りた衝撃を私に与えたそのキャンディは、今思えば、単なるモノととしての出会いではなく、異国の地で思いもよらない出会いをするという、人生における奇想天外さの喩えだったのかもしれない。恋愛においてしつこい人は嫌われるが、食への探求心を否定するものは誰もいない。"LION"の主人公のように、私は情報を集め続けた。

それでも、あまりの特定することの難しさに、私は諦めかけていた。
そんな私に、転機が訪れる。

昨年秋頃、いらすとやTシャツのコラボレーションがあると聞いて390マートを訪れた私は、海外のお菓子を集めた一角を発見する。そこで私は、再会を果たすのである。その時の写真がこちら。

どん!

メキシコのお菓子2

あれ…なんか違う…?
何か太いし、そもそも、あの幻のお菓子は、「グミ」の類ではない…。

それでも衝動を抑えきれずに口にする。

やっぱり、なんか違う…。てか、全然ちがう…。

全くの別物である。甚だ遺憾。まあ、そんなに簡単に見つかるはずもないよな、と若干自分を第三者視点で俯瞰するつもりで買ったこともあって、一笑に付すくらいで済んだ。だが、同時にこの経験は、私に再び希望(と同時に射幸心)を抱かせた。何かをどうしても達成したいとき、少しの狂気が必要となるのだから、私のあの幻のお菓子に対する固執から生まれた狂気が、少しだけ未来を変えてくれたに違いない、と。

この幻のお菓子を見つけるための道筋を、「インディ・ジョーンズ クリスタルスカルの王国」で例えるならば、大量の殺人アリがクリスタル・スカルを避けていくシーンくらいの、セミ・クライマックス的な。

さて、昨年の秋にこちらのお菓子を発見し少しばかり意気消沈していた私であるが、さらに第二の転機が訪れる。昨年冬、メキシコの友人の現地での結婚式に、呼ばれたのである。しかも大変名誉なことに、私はMaid Of Honor(友人代表)である。

親友の結婚を祝うことだけでも名誉なことなのに、私の脳裏には、すでにあの幻のキャンディーのことが閃いていた。普通だったら私が着るべきドレスの写真でもあげたいところだが、今回はこの写真がふさわしい。

メキシコのお菓子3

心なしか、彼も私との再会を楽しみにしているのではないか?
とか、思ってみたりする。
市場に埋もれかかったお菓子が、地球の裏側の日本人女性に発見されるという事象を、楽しんでいないだろうか?

信じて待っていろよ。必ず迎えに行くからさ。

私は、来月、メキシコへ旅発つ。
親友の世にも美しい人生の瞬間を祝う、友人代表として。

そして、飽くなき探求者として。

皆さんにも、ぜひ応援してもらいたい。

そして、皆さんにも、「忘れられない味」だったり、「どうしてももう一度味わいたいあの時のアレ」があったりするだろうか?

もし、著者がこの探求であの幻のお菓子と出会えたら。
その時は、必ずもう一度記事を書く。その記事を読んだあなたが、

既に諦めかけていた探求を、もう一度再開してみよう、と思っていただけたのなら、それ以上に幸いなことはない。



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