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FREESTYLUS 大阪編 220305

しゃべりながら、口から言葉を漏らしながら、目をつむって書いてみる。暗闇の中から聞こえてくるのは、耳鳴りの音。あの煙草臭い、ミラーボールの麓。

目線より少し高いそのステージの上には、ダボっとした服を身にまとうラッパーたちの姿。その真っ直ぐな瞳からは、空間を支配するほどに鋭い意思が感じられる。その視線はフロアにいるわたしにも、目の前の景色や、音や、言葉を、ただ眺めるのではなく、しっかりとこの目に焼き付けようと伝播する。

インディアンたちは、あらゆるものをエネルギーとして直接知覚することを「見ること」と呼んでいる。マトリックスの主人公 ネオが世界を光として捉えたように、ラッパーたちは言語を通じて、現実と精神の間を行き来しながら、世界を破壊し、また創造する。

気を抜けば、溢れんばかりのビートの海に息が詰まりそうになる。波が押し寄せるたびに身体は痺れ、神経は飽和する。暗闇の中で光る煙草の元火が、海の上で孤独に揺れるブイのシグナルと重なる。

生まれた時からそこで呼吸しているかのように、彼らはビートを乗りこなす。気が付けばステージだけでなく、フロア上でも輪になって言葉を交わす人たち。サイファーの語源は、ゼロを意味するアラビア語から来ていると言われている。点が線になって、面になる。濃密な対話以外、何もない状態がそこにある。

鼻の先が痒くなって目を開ける。偶然にも今日は、あの日から十一年目。災害は乗り越えるものではなく、共に歩むものだと再確認する。自然のリズムに従って、深く、深く、今を見つめる。


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