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殺菌シリーズ第四弾:飲用水の消毒に使われる二酸化塩素の安全性

第一弾ではマウスウォッシュ、第二弾ではキャンプでの飲水フィルター、第三弾では米軍のエボラ、炭疽菌対策を見てきた殺菌シリーズですが、今回は状況証拠ではなく学者さんが要求するような厳しい基準で度々登場している二酸化塩素の安全性を徹底検証してみたいと思います。

エボラウイルスや炭疽菌カンジタ菌などの病原菌、プランクトンなどの微生物を効果的に殺してくれる二酸化塩素ですが、体内に誤飲した時にどのくらい毒性があるのか、殺菌後に残存する二酸化塩素に長期間晒されて健康被害はないのだろうか?そんな疑問を探っていきます。

そんな健康被害で一番信頼できるソースはやはり臨床試験でしょう。

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飲用水の消毒に使われる二酸化塩素や亜塩素酸塩そして塩素酸カリウムの毒性について検証したLubbersらによる1982年の小規模な臨床試験の論文を読んでいきます。フルテキストが読めるようになっていますので科学者の方は疑問があれば原文にあたって見てくださいね。

日本では次亜塩素酸が消毒によく使われますね。しかし、こちらの精密ポンプなどを手がける株式会社タクミナ様のホームページによると二酸化塩素は水道水の消毒としては水道法の認可がなされておらず使われていないようです。正し、プールの水を殺菌するのには使用してもよいようです。海外では長年使われていますが、日本の水道事情はちょっと違うのですね。

そのように身近に使用される化学物質というのは臨床試験を経て安全性が確認されていることが望ましいですね。海外では長年に渡って水道水の殺菌に使用されている二酸化塩素ですので、当然臨床試験をした論文が見つかる訳です。

臨床試験には第一相、第二相、第三相と順次参加する被験者の方の数を増やしながら、まずは第一相で健康な被験者での安全性を確認して、濃度を上げて行き安全に使用できる濃度の範囲を確認します。

第ニ相ではその範囲の中で欲しい効果が得られると思われる十分な濃度を1つ2つ決めて、その濃度での効果の確認をします。この時に副作用がない程度に十分低くしつつ、効果が十分あると予想されるくらいは高い濃度という絶妙な濃度を第一相のデータから予想して設定します。

第三相では、第ニ相で得られたデータから濃度を絞り、被験者の数を沢山増やして、色々な健康状態の人、遺伝子の違い、生活習慣の違い、性別、妊娠の有無など多岐にわたる条件があっても安全性があるか?を見ていきます。

このLubbersらの論文ではこの第一相から第三相まで一気に結果を見ています。

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上の表1にあるように、第一相では60人の健康なボランティアに0.1 mg / Lの濃度から少しづつ上げていって最終的には24 mg / Lまで上げて副作用がないかを観察しています。この濃度の二酸化塩素溶液500 mlを一日に二回、合計1リットル飲んでもらいます。

第一弾のマウスウォッシュの会社Crestが示した安全基準は一日に0.8 mg程度なら誤飲しても大丈夫という感じでしたが、最終日16日目では24 mg / Lの濃度を合計1リットルですので、24 mgの二酸化塩素が体内に入ってきます。大丈夫かいーー。

しかし、要旨Abstractにもあるように

There were no obvious undesirable clinical sequellae noted by any of the participating subjects or by the observing medical team

結果としては血圧や脈拍、心拍数、味覚の変化、などなど色々な項目に渡ってチェックしましたが、なにも副作用は認められなかったという結果です。

そして第二相では5 mg / Lの濃度に固定して、さらに被験者に500 ml程を毎日飲んでもらい12週間ほどの経過を見ました。そして摂取終了後の8週間後にまた経過を見ています。これもまた副作用なしでした。

そして第三相ではglucose-6-phosphate dehydrogenaseというヘモグロビンを助ける酵素に疾患をもつ患者さんで同様に5 mg/Lで12週間毎日摂取してもらっています。これは二酸化塩素は弱い酸化作用があり、それがウイルスや細菌を破壊するため、酸化ストレスによわい遺伝的疾患があるこの患者さんはリスクグループになるため、このグループが大丈夫であればその他の病人も大丈夫な可能性が高いという論理です。そして、驚くべきことにこれも副作用なしでした。

元々動物というのは酸素を吸って、ミトコンドリアがATPを作って、フリーラジカルもどんどん発生して、酸化ストレスには強めな生き物なんですね。でも細菌は嫌気性なものが多く、酸化ストレスがちょっとでもあると死んじゃうんですね。(例外はカンジタ菌など真菌で、好気性ですので耐性が高めと予想されます。しかし、慢性的に口内炎に悩まされる患者さんのうがいで絶大な効果があった。)この差が、人間の動物細胞には無害である濃度で、ウイルスや細菌に非常に協力な殺菌、抗ウイルス効果がある由来です。

先程の株式会社タクミナ様の二酸化塩素の開設ページにもこのようにあります。

塩素系薬剤は、生きている細胞を酸化させるのではなく、細菌や微生物の呼吸系酵素を阻害し、細胞の同化作用を停止させて殺菌します。しかし二酸化塩素の場合は、酸化反応そのもので細菌や微生物を酸化分解することにより死滅させます。
従って、トリハロメタンの生成が塩素系殺菌剤に比べてはるかに少なくなります。またアンモニアが存在してもクロラミンを作らないので、殺菌力が低下しません。

亜塩素酸塩などを用いた塩素消毒(英語ではchlorination)というのは、呼吸系酵素の阻害をすることであるいみ窒息死させている訳ですが、二酸化塩素の場合は作用がchlorinationとは関係がないんですね。酸化ストレスそのももで殺す訳です。そして我々は酸化ストレスにめっぽう強い。この差が重用なんですね。

こちらの銀座東京クリニック様のページから画像を使用させて頂きますが、先程もみたグルコース-6-Pが出てきますね。G-6-Pは解糖系と関係しているのですね。そしてNADPHを作って活性酸素種の除去に役立っている。だからG-6-Pに遺伝疾患がある患者さんは酸化ストレスに対抗するNADPHの産生が低くなっており、二酸化塩素によって酸化ストレスが高まると活性酸素種の除去が遅く各種のタンパク質に損傷が出やすいということでしょう。それでもLubbersらの結果から5 mg/Lを500 mlの条件では健康に被害がなかった訳ですね。

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そしてちょっと似たような状況にあるのががん細胞です。先程の銀座東京クリニックのページに解説されていますが、がん細胞というのはお砂糖大好きなんですね。グルコースを食べて生き残っているゾンビみたいな細胞ががん細胞です。酸素呼吸で効率よくエネルギーを得ると活性酸素種が出来るので、それを嫌って酸素を使わない解糖系からATP産生をするように切り替えて生き残ることが多いです。

がん細胞ではミトコンドリアでの酸素消費を増やせば、活性酸素の産生が増えて、酸化ストレスによって細胞が死滅するリスクが高いのです。
がん細胞では、このような酸化ストレスの増加を防ぐために、酸素を使わない解糖系でのエネルギー産生を増やしています。つまり、酸素がある条件でも解糖系でのATP産生を増やし、酸素を使ったミトコンドリアでのATP産生を抑制している理由の一つは、酸化ストレスを高めたくないからです。

細胞ではミトコンドリアの呼吸鎖の異常などによって酸素を使ってATPを産生すると活性酸素の産生量が増える状況にある。そこでがん細胞ではミトコンドリアでのATP産生(酸化的リン酸化)を抑制して酸化ストレスの増大を防いでいる。そのため、解糖系が亢進し乳酸の産生が増えている。また、ペントース・リン酸経路が亢進し、この経路でできるNADPHは活性酸素の消去に使われる。

おっと、つまり二酸化塩素で酸化ストレスを上げてやれば健康な細胞は大丈夫かもしれないけれどもがん細胞のような酸化ストレスに対抗する諸機能(NADPH頼み)が壊れている細胞はころっと死んじゃうかもしれませんね。あれーおかしいなビタミンCとかポリフェノールで抗酸化力を高めると老化を防ぎ、健康になるんじゃなかったのかなぁ。。。抗酸化力を高めるとがん細胞やウイルス、細菌が元気になっちゃうような…。ま、気の所為ですね!そんなはずないですね。

まとめ

二酸化塩素は塩素消毒とは全く違う機構である酸化ストレスでウイルスや細菌を殺す。人体、とくに健康な細胞は酸化ストレスにめっぽう強いので殺菌に使われる5 ml/L程度の濃度の二酸化塩素溶液500 mlを12週間飲んでもへっちゃらという臨床試験の結果がある。


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