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この春北海道に誕生した「宿題はない、成績表もない、先生もいない学校」とは? 【インタビュー】 第2回 細田孝哉(まおい学びのさと小学校学園長・61才)「コドモもオトナもわくわくする学校を作りたい」

体験型学習といわれる日本では新たな概念の教育法、「宿題はない、成績表もない、先生もいない学校」。まおいまなびの里小学校がこの春北海道長沼町に誕生した。細田学園長が教育者としてこれまで約40年間教壇に立ち、その経験を通じてこの学校設立に至ったこれまでの道のりを掘り下げていく。(第2回)

(なぜこのような学校を作ろうと思ったのでしょうか?学校を設立しようと思った動機、設立までのプロセスなどを教えてください)

-      わたしが教師になろうと思った原点は自分が中学生のころに得たある体験がベースになっていると思います。その体験は、話が少々長くなりますので、後述することにしまして、笑、札幌の公立中学、高校で教師として教鞭をとりながらこのような学校を作りたい、と思ったプロセスについてお話させていただきます。
 
大学を卒業して札幌市内の公立中学校で教え、10年ほどが経過したころ、札幌の市立高校で教えてみないか、というお話があり、そのお話を受けることにしました。札幌市立清田高校、という学校ですが、ちょうどそのころ、その高校で新しい試みとして「グローバルコース」というコースを立ち上げることになり、そのコース長を担当することになりました。

このコースでは、子供達に広い視野で物事を考える人間になってほしい、というコンセプトのもと、修学旅行では、シンガポール、マレーシアで現地高校生と交流したり、また、希望者参加の冬休みボランティア実習では、カンボジア、ベトナムで現地の人と一緒に畑を耕す、といった経験を積んでもらいました。
 
最初は、「アジアの国か」といった具合に少々上から目線、的な反応であった生徒たちが実際に現場で農作業を含め、様々な体験をするプロセスで「現地の人たちは大変な環境のもとでもこんなに素晴らしい笑顔で生活している」「自分たちがボランティアで手伝う、という意識だったが、逆に自分たちが元気をもらったように思う」という具合に変わっていきました。
 
(修学旅行自体は1週間ほどの期間ですね、その短い間に生徒たちは現地の人たちを触れ合うことで大きく変わった、ということでしょうか?)
 
-      はい、生徒たちはその数日間の経験で大きく意識が変わりました。私自身もこのことには大変おどろきました。そしてこの経験を通して「高校生でもこんなに短い時間でこれだけ変わるのだからもしもこれが小学生であったら体験型学習で、もっと変わるのではないか」といった仮説を持ちました。
 
(具体的には生徒たちの変化を実感されたのは具体的にはどのような時ですか?)
 
-      旅行のあと、日常に戻り、それまでの学校生活が再開されました。生徒たちは以前より主体的に行動するようになりました。英語の授業にも以前に比べて真剣に取り組むようになり、また、プレゼンテーションなどの学びにも積極的になりました。主体的に行動するには主体的に考える、というプロセスを経ているはずです。おそらくこの旅行体験で意識が大きく変わったからなのではないかと思います。
 
-      また、日常の学校生活に戻ってから新たな授業の一環としてロールプレイを含んだゲームのようなものを取り入れました。
まず、生徒を2つのグループにわけます。この2つのグループは例えばイスラエルとパレスチナというように相対する国同士、とします。

それぞれの国は当然のことながら自分たち独自の文化、習慣などを持ちます。そこでそれぞれがお互いの国へ訪問して、異国を擬似体験するわけですが、その擬似訪問後の感想として、「(相手の国は)文化や考え方が全然違う、自分たちとは違っていて違和感があった、気持ちの悪さを感じた」という声がありました。

このようにあたかも体験したかのような擬似空間を味わう、ということを授業の一部で取り入れたわけです。このように(擬似)異国で自分がどのように考え、感じるのか、といったことを体験することによって生徒の視野を広げてもらおう、と考えました。
 
■見出し3 成長や成功(現在の姿など)
 
(このようなご経験がまおい学びのさと学園、つまり「体験型学習」をベースとした学校を立ち上げる原点のひとつにもなったのでしょうか。)
 
-      おそらく、原点のひとつには間違いなくなっていると思います。生徒達を引率した旅行では生徒たちの変化に自分自身、鳥肌がたつほどの嬉しさを感じました、正直、普段の授業でそれまでこれほど感動したことはなかったのです。
 
(実際に‘体験’することが大切、ということですね。教室に閉じこもって教科書を中心に勉強するよりも実際に体験することの方が頭を使うと同時に体もつかい、自分の‘感性’をも使う、結果として自分の頭で考えるようになる、ということでしょうか?)
 
-      そう思います。たとえば自転車をはじめて漕げるようになったとき、初めてプールで泳げるようになった時のことなどを思い出してみると、実際に自転車に乗らないと絶対に漕げるようにはなりませんよね。「自転車に乗ろう」と思ったときに、教科書を広げて「まず、サドルに座る、それから右足をペダルにかける、そして」といった具合に‘本で学習’する人はいないはずです。

同様に、何かを学習する時に実際に体験するということがいかに大切か、ということです。自分で考え、手足をつかって作業する、時には失敗をする、失敗を重ねてようやく成功できた、この繰り返しですね。すべては自分たちで主体的に考えることから始まります。体験型学習の基本となっているところです。
 
(確かにそうですね、自分の体で覚えたこと、は忘れることはありませんね。自分自身、昨年おそらく10年以上やっていなかったスキーを再開し、すぐに慣れてすべることができました。体験型学習がいかに子供達の脳を刺激し、主体的に考える、そして創造性が大きく成長する、ということはわかってきました。ただ、実際に受験勉強などいわゆる国語算数理科社会英語、という5教科について高校生になってから苦労する、ということはないのでしょうか?)
 
-      まおいまなびのさとは、現在は小学校だけですが数年以内に中学校も併設する予定です。小学校、中学校とまおい学びのさとで学んだのち、普通の高校に進学し、他の生徒たちは知っていることをまおいの卒業生は知らない(=知識として学んだことはない)という事象はでてくることでしょう。
 
普通の中学校を卒業したクラスメートに「なんだ、お前、こんなことも知らないのか、自分たちは中学校で既にならってきているのに」と言われる、このような場面でも生徒たちは「中学校では習わなかった、だから今から学べば良い」とすぐに自分で切り替えることができます。結果として、たとえ中学校で習ったことのない内容に出会ったとしても自分でリカバーすることができるのです。

(インタビュー第3回へ続く)

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